2020年9月29日火曜日

昼カンファレンス 〜診断がつかない時の一手〜

 30歳 男性 主訴:心窩部不快感 (症例は一部修正・加筆を加えてあります)


Profile:生来健康

現病歴:1週間前まで特に何もなかった

    4日前から心窩部不快感が出現  

    2日前から近医受診し、ドンペリドン、H2ブロッカー、ガストームが処方

    当日、症状が改善しないため、救急外来受診


既往:特記事項なし

生活:会社員







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ディスカッション①第一印象は?


T「はい、ありがとうございます。

  若年男性の心窩部不快感ですね、何かまず思いつく病気はありますか?」


T S「そうですね、消化性潰瘍や虫垂炎がまずは思い浮かびます」


T「ありがとうございます。他はどうですか?」


Y「心病変や肝臓、胆嚢の疾患も考慮します」


T「はい、ありがとうございます。そうですね。

 まず頻度的にも消化性潰瘍は多く、鑑別の上位に上がりますね。

 虫垂炎は経過からするとやや長い印象ですが、非典型歴もありますし、

 原曲的に膿瘍化していると分かりにくい症例もありますので、鑑別にあげておいた方がいいですね。


 何か他に聞きたいことはありますか?」

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ROS:

(+)食欲はない、食後に悪化、腹部膨満感あり、体重増加あり

(–)心窩部痛、胸焼け、吐き気、下痢、便秘、血便、黒色便

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ディスカッション②うつ病のスクリーニングについて


Y「今聞くことではないかもしれませんが、うつ症状はありましたか?」


発表者「仕事をとても頑張られている方だったので、うつはなかったと思います。

   直接は聞いてないです」


T「今のはいい質問ですね。

 若い人が病院に来る時、かなりの確率でうつが背景にあることが多いです。

 皆さん、新型うつって聞いたことありますか?」


聴衆 あります


T「誰か説明できますか?」


聴衆 ・・・・


T「あるけど、なかなか説明できる人は少ないのではないでしょうか?」


発表者「休日は活動的になるようなやつですか?」


T「そうそう、それであまり周りの人からうつと思われないのです。

 新型うつに医学的な定義があるわけではなく、ただの概念的なものです。


 典型的なうつ病がありますが、それ以外のうつ病が新型うつと思っていればいいです。

 本当のうつ病は遺伝的・生物学的な異常が背景にあり、特にきっかけなく発症します。

 ですが細かく聞くと、小さなきっかけみたいな感じのイベントはあります。

 そのきっかけは悲しい事ばかりではありません。

 結婚や引っ越しといったポジティブな変化であってもいいです。


 日常でも、抑うつ状態・気分はよくあります。

 近しい人が亡くなったとか、ペットが死んでしまったとか、

 そういう誰もが悲しむようなイベントで気分が落ち込んでしまうのは、普通のストレス反応です。

 抑うつ気分になったとしても、それはうつ病ではありません。


 そして新型うつというのは、例えば不安障害や適応障害の人が、うつ症状を呈していたり、

 発達障害の人が仕事でうまく適応できなくて落ち込んでしまって、うつ状態になっていたり、

 大うつ病以外の疾患によって、うつ病の表現型をとっているものをまとめた概念です。


 そのため、中には活動できる人もおり、

 周囲から本当にうつ病なのか?と思われてしまいます。

 ですが、当の本人は本当に困っていることに違いはありません。


 という事で、何が言いたいかというと、

 元気そうに仕事をしているからうつではない、ということは言えません。


 うつ病を疑った時に皆さん、何を聞きますか?」


Y「抑うつ気分と興味の減退を聞きます」


T「みんな、その二つ大好きですよね。

 でもそれって当たり前すぎて臨床ではあまり使えません。

 うつを疑った時に聴取すべきことは、3つの欲の質と量です。


 3つの欲とは、意欲、食欲、睡眠です。

 そしてこれらの質と量を聞きます。


 うつが重症になってくると、質がまず低下し、その次に量も低下してきます。


 例えば、意欲でいうと、

 仕事にはなんとかいっていますが、やる気がでなくて、ミスばかり目立ちます。

 →これは意欲の質の低下です。


 仕事に行こうとすると、急に億劫になってしまって、週に2、3日は休んでいます。

 →これは意欲の量の低下です

 

 食欲でいうと、

 ご飯は3食食べていますが、どれも美味しくなくて頑張って食べています。

 砂みたいな感じです。

 →これは食欲の質の低下です


 食事は3食は食べられていません。朝は食べてないです。量も減っています。

 →これは食欲の量の低下です 


 睡眠でいうと、

 眠れてはいますが、眠りが浅い感じです、今の睡眠には満足していません。

 →これは睡眠の質の低下です


 深夜に目が覚めてしまって、そこから眠れなくなります。4時間くらいしか寝ていません。

 →これは睡眠の量の低下です


 こんな風にうつの中のどの症状がメインなのかを見極め、

 これらの症状を治療効果判定にしていきます。


 なんとなく、抗うつ薬を入れたらよくなりました。

 ではなくて、意欲、食欲、睡眠。

 この3つがどうなっているかを聴取し、カルテに記載していきます。


 では身体診察にいきましょう」

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バイタル 問題なし

腹部 心窩部に不快感あり

どこにも圧痛点はなし

下肢にpitting edemaあり

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ディスカッション③マネージメントは?


T「さて、診断つきましたか?」


TS「いやあ、ついていないです。 

  でも心窩部に不快感があるのであれば、超音波検査をしたいです。」


T「そうですね、それはいいと思います。

  他には?」


TS「そうですね、胃カメラを予約したいです。」


T「了解です。

  つまり診断をつけるためのさらなる検査をしていく、ということですね。

  

  病歴と身体所見で8ー9割は診断がつくと、偉い先生がおっしゃっていますが、

  現実は診断がつかないことも多いです。

  その時に自分の中での対応策を持っておくと、焦りがなくなります。


  病歴や身体所見で診断がつかない時は、

  もちろん、検査に進んでいきますが、その前に皆さんならどうしますか?」


聴衆 「・・・希望の検査を聞いたりします」


T「そうですね、つまりは?」


Y「か・き・か・え ですか?」


T「そうです。解釈・期待・感情・影響を聞いてみると、

 答えにたどり着くことがあります。


 実は診断にこだわっていたのは自分だけで、

 患者さんが求めていたのは、胃カメラの予約やCT検査だったりすることもあります。

  

 感情は臨床にはやや則していない気もしますので、

 え・か・きでもいいと思います。


 そして全部、聞いている時間がないことがありますので、

 僕がやっていることを紹介します。


 僕は必ず、病歴とは別に(S)の項目を作っています。

 そしてそこには、患者さんが一番困っていることを記載します。


 病歴:1週間前から〇〇・・・

 既往:・・・

 内服:・・・

 生活:・・・


 (S)一番困っていることは、心窩部の痛みというわけではない。

   この症状が続くと、仕事に差し支えがある

   仕事は休みたくないので、早く症状の原因を突き止めたい


 (O )バイタル・・・


  みたいな感じです。


 一番困っていること=主訴 にならないこともあります。

 診断に迷ったら、病名を当てることから一旦離れて、 

 患者さんが一番困っていることにフォーカスしましょう。


 病気は分からなくても、患者さんのニーズには応えられることもあります。

 

  かきかえは、時間がかかるので、

  一番困っていることはなんですか?という質問がおすすめです。」


発表者「今回はそこまで聞いていませんでした。

    ですが、仕事を休みたくないとは言っていました。」


T「はい、ありがとうございます。ではこの後、どういう未来を想像しますか?」


M「胃カメラをして、胃潰瘍があればそれで診断がつきます。

  胃カメラで何もなければ、FDとして対応すると思います。

  六君子湯やガスモチンなどを検討します。」


T「なるほど、素晴らしい、結構先の未来まで想像できるようになりましたね。

 自分が検査をオーダーする時は、

 必ずその検査が〇〇だったら、こうする

 △△だったら、こうする

 ということまで想像してオーダーしましょう。


 ただ惜しかったですね。

 FDとして対応するのであれば、もうワンステップ必要です。

 わかりますか?」


聴衆 ・・・・


T「FDと診断する前には、必ずピロリ菌の検査をして、

 陽性であれば除菌してください。  

  除菌して症状が消えれば、それで終了です。


  さて、ではこの症例はどうなりましたか?」


発表者「えーっとですね、これからいろいろありまして。。。」

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ディスカッション④他に言いたいことはありますか?


T「どうやら、全然違った展開になるようですよ。(笑)

 他に言いたいことがある人はいますか?」


聴衆 ・・・・


T「じゃあ、言わせていただきます。

 

 下腿浮腫と心窩部不快感が心臓由来とすると、

 収縮性心膜炎や心筋炎は鑑別に上がると思います。

 なので心電図とUCGは行いたいです。

 そして甲状腺のチェックも行います。

 あとはIgA血管炎は下腿浮腫や紫斑が出ることがあり、

 腸管の炎症を伴うので、IgA血管炎も鑑別に上がりますので、

 下肢の紫斑がないかはじっくり探します。


 ということで、心臓由来(心膜炎・心筋炎)、甲状腺、IgA血管炎、

 この3つの鑑別でいきたいと思います。」


発表者「ありがとうございました。

   実はこの症例の採血をすると、Albが1.4で、尿中タンパクが大量に出ていました。

   診断はネフローゼ症候群でした。

   心窩部の不快感は、腸管の浮腫の症状でした。」



T「何と。。。

 そう言えば、こっそりROSに体重増加って書いてありましたね。

 普通、食欲無くなったら、体重減少ですよね。。。

  

 それにしてもよく採血しましたね。

 僕がみていたら、この人はピロリ除菌されていたかもしれません。


 体重増加と下腿浮腫にもっと着目していれば、診断にたどり着いたかもしれませんが、

 心窩部不快感が主訴だったら、足までみないかもしれません。


 いやあ、盛大に間違いました。勉強になりました。ありがとうございました。」


まとめ

・(病歴や身体所見で)診断がつかない時の一手

→患者さんに一番困っていることはなんですか?と聞いてみる

 かきかえ(解釈・期待・感情・影響)を聞いてみる

 主訴以外の他の異常所見から攻めてみる


  

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