2022年4月11日月曜日

慢性便秘 〜下痢なのに便秘!?〜

症例 85歳女性 主訴:便が出ない、食欲がない(※一部修正・加筆を加えてあります)



もともと慢性便秘のため、緩下剤や刺激性下剤を乱用している

大腸内視鏡検査は何度もされており、弛緩結腸の状態で大腸メラノーシスあり
生検も何度もされており、アミロイドーシスや顕微鏡的腸炎なし


バイタルは安定 意識も清明 

腹部は全体的に膨満しており、軽度圧痛あり
腸蠕動音は亢進している


CTでは巨大に拡張した結腸があるが、閉塞起点はなし
結腸内部には大量に液体貯留あり

血液検査でKがなんと1.7と低下していた

尿中K排泄の亢進はみられず

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診断は?


腸管内容物は水様性の下痢であり、Kは消化管からの喪失と診断

低K血症が更なる便秘を招くという悪循環を形成していた


弛緩した巨大結腸内に腸液が貯留し、便として体の外には出てこなかったため、
本人は便秘だと思ってひたすら、アミティーザや刺激性下剤を使っていた症例でした



巨大結腸症や慢性偽性腸閉塞(CIPO)の状態であり、入院にてK補充を行い、
排便コントロールを実施し退院となりました




今回の症例のように巨大結腸症や慢性偽性腸閉塞をみたらとても悩みます

CIPOがもともとあって刺激性下剤が乱用されたのか、
刺激性下剤の乱用によって腸管機能不全になったのか、



鶏と卵のような感じがしますね・・・



巨大結腸をみつけた時の考え方は、

安易に刺激性下剤乱用のせいにせず、他に原因がないか探す努力が必要です



CIPOの原因検索を上司に相談したら、ALSが見つかった症例もありました


ALSはCIPOの教科書的な原因ではありませんが、
腹筋の筋力が低下し、慢性便秘・刺激性下剤乱用に繋がっていたようです



原因疾患を探しても何も見つからなかった場合は、刺激性下剤乱用が原因のことも確かにあります



今回の症例で学んだことは、刺激性下剤はBZと同じ匂いがするということです


刺激性下剤のような短期的には効果のある薬に依存してしまうと、後々大変なことになる・・・

BZ依存と同じ構図です



問題はそれを医師が作り上げていることです

そして作り上げた医師にはこの問題が見えないことも問題です



安易に刺激性下剤に頼ると、本症例のような未来が待っているのだと改めて気付かされました





便秘は奥が深いですね・・・





便秘の薬は昨今いろいろ出てきました


治療に関しては病態で考えるのが一般的です

リンゼスはもともとIBSとしての薬のため、腹痛が強い症例には向いています



ですが、このように病態をいくら考えても、うまくいかないこともあります


病態を細かく分類する検査も現実的ではないので、
便秘治療の実際は、患者さんに合う薬を探すイメージです



     



そこで、病態ではなく、あえて経済面から治療を考えてみました

毎日使う薬だからこそ、お財布に優しい方がよいのではないでしょうか



安くて問題なく排便がコントロールできれば、それでいいじゃん と正直思います



なんでもかんでも新薬に飛びつくのは、どうなんだろうと・・・


新しい薬には未知なる副作用があるかもしれないことを忘れてはいけないと思います




ポイントはコントローラーとリリーバーという考え方です

リリーバーをコントローラーとして使ってはいけません




     




今回の症例のように便秘と下痢が混在する状態もあります



高齢者の宿便では、下痢便の失禁を伴うことがあります

直腸内に長期間停留した便塊が直腸粘膜下層内を走行する静脈やリンパ管を圧迫し、
腸管の吸収障害または腸壁 から多量の水分の排出が起こり、
停留している便の一部が粥状 / 液体状になるためです 


加えて直腸-肛門反射により内肛門括約筋が弛緩し、
肛門の閉鎖が緩むことで下痢便を失禁してしまいます(溢流性便失禁)



便秘なのに下痢なのです


奇異ですよね・・・


そのため、宿便性下痢は奇異性下痢:paradoxical diarrheaと呼ばれます



 直腸糞便塞栓のアセスメント 34   2020/1 Vol.8 No.1  2020/1 Vol.8 No.1 35 






まとめ

・便秘に刺激性下剤を出し続けることは、不眠にBZ薬を出し続けることと同じ

→その場しのぎの治療は将来に影を落とすことになる


・便秘の治療はコントローラーとリリーバーを考える

→リリーバーをコントローラーとして使ってはいけない


・便秘と下痢が混在した状態はたまにある

→paradoxical diarrheaにご注意



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