2020年11月17日火曜日

片頭痛とRCVS 〜トリプタン製剤は注意が必要〜



















































 

昼カンファレンス 〜人生最大の頭痛と言えば〜

 症例 48歳 女性 主訴:頭痛(※症例は一部修正・加筆を加えております)


Profile:特に既往のないADLフルな女性、内服なし、頭痛持ちではない


現病歴:当日、午前中はスーパーで仕事をしていた 

    いつも通り、元気であった

    昼過ぎに自宅で野菜を切っていると突然、後頭部に頭痛が生じた

    その後、1時間くらいで治ったが、

    また頭痛が徐々に出現し、どんどん悪化してきた

    吐き気や嘔吐も見られた

    walk inで救急外来受診

既往:なし、内服:なし

バイタル BP120/85、P95、T36.5、SPO2 98%、RR18

意識 清明、会話可、ベッドで険しい顔でじっとしている

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ディスカッション①他に病歴で聞くことはありますか?


T「はい、ありがとうございます。

 さて、何か他に聞くことはありますか?」


学「性状はどうでしたか?」


Y「ズキズキするような痛みです。」


学「他に何か症状はありましたか?」


T「他の症状は?というと漠然としているから、

 何か狙ってこの症状っていうのがあったら、尚いいね。

 でもopenで聞いてみようか、何か他に症状ありましたか?」


Y「2回目の頭痛の時に、紫のチカチカが見えたと言っていました。」


T「はい、ありがとうございます。では鑑別を上げていきましょうか。」


学「くも膜下出血」


T「そうですね。まずはなんと言ってもSAHですね。

 それはどうしてそう思いますか?」


学「突然の頭痛だったからです。」


T「はい、ありがとうございます。

 そうですね、「突然」というのは、非常に重要な病歴です。

 でも突然の頭痛というには、聞き方にコツがいります。

 今回はどうやって聞きましたか?」


Y「頭痛があった時に何をしているかを聞いて、

 今回は野菜を切っている時、ということだったので突然でよいのではないかと思います。」


T「ありがとうございます。

 そうですね、TV見ている時だったら、水戸黄門が印籠を出した瞬間とかに、

 ガーン!と来た、とかであれば突然ですね。


 頭痛がきた時の場面をしっかり伝えることができるのが、突然の発症のポイントです。

 例えば、サザ◯さん見ている時に、痛みが最強になってきました、とかであれば、

 突然ではなく、hyper acuteですね。


 国試的にはバッドで後ろから殴られた感じだと、SAHですが、

 今回はそういう表現はありましたか?」


Y「バッドで殴られたような感じとは言っていなかったですが、

  人生最大の頭痛と言っていました。」


T「なるほど、人生最大の頭痛ですか。それも国試的には、SAHですね。

 では、SAHでなかったら、他にどんな疾患を思い浮かべますか?」


学「脳出血とか硬膜外血腫とかでしょうか」


T「そうですね。他にはどうですか?」


S「群発頭痛とかもですか?」


T「群発頭痛は、名前やイメージからすると突然っぽいけど、

 群発頭痛は頭痛が数日、群発して起こるので、発症が突然というわけではないとは思います。」


S「実はそこまで突然ではなく、hyper acuteくらいで片頭痛だったという人も多いと思います。

 今回も視覚の症状が出ていますし、片頭痛の可能性はあるのではないでしょうか?」


T「そうですね。それは実臨床ではたまに経験します。

 痛すぎて、詳細に語れない人もいるので、

 突然かどうかの見極めはとても難しいです。

 

 ちなみに片頭痛の場合の視覚の異常は後頭葉から始まるてんかん様の病態が原因ではないかと言われています。

 そうであれば、抗てんかん薬が予防薬というのも納得がいきますね。





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ディスカッション②突然発症の病態とは?


T「では質問を変えましょう。

 突然発症というとどんな病態が考えられますか?」


学「出血した時とかですか。」


T「そうですね。

 秒の単位でMaxまでいくのが、突然発症です。

 病態としては、major circulation arrest、つまり大循環系の破綻です。

 大血管が、破けた(出血)、裂けた(解離)、詰まった(閉塞)です。

 今回であれば、動脈瘤が破けたらくも膜下出血ですね。

 血管が裂けるとすれば、どんな病気ですか?」


学「あー、椎骨動脈解離ですか。」


T「そうです。後頭部の痛みなので、椎骨動脈解離は重要な鑑別です。

  この様に突然発症というのは、病態をかなり絞ることができるので、非常に大事な病歴です。


 分〜時間の単位でMaxまでいくのが、hyper acuteです。

 hyper acuteはluminal obstruction、つまり管腔臓器の閉塞が主な病態です。

 例えば、腸管の閉塞、捻転、尿管結石などです


 時間〜日の単位でMaxまでいくのが、acuteです。

 炎症の病態がメインです。

 例えば、虫垂炎とか髄膜炎とかですね。


 実臨床では、sudden onsetとhyper acuteは区別が難しいこともありますが、

 大事なのは、迷ったらsudden onsetとして対応することです。

 それは突然発症の病気の方が、危ない疾患がたくさん含まれているからです。


 今回の様にSAHを思い浮かべたら、pivot and cluster的な感じで、

 一緒に他の鑑別も自動的に思い出せる様にしておきましょう。



 ここに出ていない鑑別疾患としては、

 RCVS、下垂体卒中、脳静脈洞血栓症があります。

 これらの疾患群は雷鳴様頭痛の鑑別で、up to dateとかにも雷鳴様頭痛のところに書いてあります。

 この三つは知っておいた方がよいです。

 なぜなら、鑑別にあげていないと、診断できないからです。

 たまたま見つかりました。なんてことはありません。狙って診断する病気です。

 

 RCVSの場合は、MRAを末梢まで撮影することが大事になります。

 なぜならRCVSは血管が攣縮する病態ですが、末梢血管から攣縮して、

 だんだん中枢の血管が攣縮する様になります。

 普通にMRAをとると末梢の血管まで撮影されていないことがあるので、

 一言、末梢まで撮影してください、と伝えることが大事です。


 もちろん、それでも一回のMRAだけでは動脈硬化でガタガタしているのか、

 RCVSで攣縮しているからガタガタなのかは、診断は容易ではありません。

 多くの場合、再度取り直して変化を見ることが大事になります。


 下垂体卒中も命の危険がある重要な疾患です。副腎不全になることがあります、

 下垂体は見ているけど、見ていない臓器の代表です。

 下垂体卒中の人のCTをその目で見ると、なんとなく腫大していたり、

 highなところがあったり、変化に気がつくこともあります。

 その目で見ることが大事な疾患で、診断するには下垂体を狙ったMRIが必要です。

 

    脳静脈洞血栓症はSWIやMRVを追加しないと診断できません。

 これも慣れていないと診断するのは、難しいと思います。

 最初は静脈の圧が亢進し頭蓋内圧亢進した様な頭痛になり、

 圧が高くなって、出血したり、梗塞を起こすと神経異常が出現します。

 頭痛だけで診断するのは、至難の技で、頭痛だけで静脈洞血栓症を診断したことはないです。


 あとはやっぱり、SAHの除外がなんと言っても重要です

 SAHがCTではっきりしなかった場合は、次のステップはなんでしょうか?」


学「腰椎穿刺だと思います。」


T「そうですね。教科書的には腰椎穿刺になります。

 ですが、SA Hの人の予後が悪くなるのは、2回目の出血です。

 SAHを疑った人の場合は、光刺激や痛み刺激を加えてはいけないと言われるのは、

 2回目の出血を医原性に誘発してはならないからです。


 腰椎穿刺も痛みを伴う手技です。

 ですので、実臨床はCTで出血が確認されない時には、MRIをとることが多いです。

 対応に迷ったら脳神経外科の先生と相談するのがいいと思います。




 実際はどうしましたか?」

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経過


神経症状は特に何もありませんでした

CTでも出血はありませんでした


MRIではくも膜下出血を示唆する所見はなく、MRAでは血管の攣縮像が疑われ、

読影でもRCVSが疑われました

梗塞や解離の所見はありませんでした

MRVやSWIでも静脈の鬱滞や静脈洞の血栓は確認されませんでした

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ディスカッション③RCVSについて


T「はい、ありがとうございます。

 では診断はRCVS疑いということでしょうか?

 Y先生、RCVS見たことはありましたか?」


Y「いえ、ないです。」


T「RCVSは中年女性に起こる雷鳴様頭痛で、2ー3年に一度くらいの頻度でみますね。

 ただこの症例はいろいろRCVSらしくないところがあります。

 

 まずRCVSの人の多くは痛みで悶えていることが多いです。

 錯乱状態になることも珍しくなく、文献的にも経験的にも、

 発狂している感じになることがcommonであると言われています。

  

 確かに周りがびっくりするくらい、とんでもなく、痛がっていることが多かったです。


 この症例はどちらかというと、偏頭痛みたいな感じで、

 暗がりでじっとしていたのですよね?


 そこはRCVSとは少し合わない気がします。


 あと、RCVSには誘引があることが多いです。


 刺身を切る前に何かしていたかは聞きましたか?

 例えば、トイレに行ったあとだったとか、笑ったあとだったとか。」


Y「そこまでは聞いていません。」



T「頭痛の病歴で気を付けたいのは、誘引です。

 もちろん、スポーツや外傷があれば、解離を示唆しますが、

 自律神経が動くような、排尿・排便・シャワー・入浴・咳・性行為・笑い、

 といったことが、RCVSの誘引として挙げられています。


 あとは薬ですね。


 

 昔、こんな症例がありました。


 入院した人が鼻血がでて、ボスミンガーゼを鼻に入れて止血を行いました。

 その後、頭痛や意識障害、脳神経症状が出現しました。

 MRIをとっても原因が不明ででした。

 程なくして、鼻血が止まったので、ボスミンガーゼをとると、

 なんと症状が消えてしまいました。

 その時は、ボスミンガーゼが原因とは考えておらず、

 その後、また鼻血が出て、ボスミンガーゼが入れられたら、

 また同じように頭痛と意識障害が出現しました。

 

 それを研修医がプレゼンすると、

 ボスが「それはボスミンガーゼが原因だ!」と一発診断した症例で、

 再度のMRIにて攣縮像が見られ、鼻に入れたボスミンガーゼによって誘発された

 RCVSの診断がついたという症例です。


 以前に京都GIMに当院から出した症例です、

 タイトルは「ある渋いボスの一言」というものでした。


 タイトルも症例の内容も秀逸ですね。



 最近は花粉症の治療でも血管収縮薬が出されるので、

 市販の薬や点鼻の薬、ましてやボスミンガーゼなども原因になるので、注意が必要です。


 はい、今日は症例出していただき、ありがとうございました。」





まとめ

・「突然発症」の病歴をとれるような工夫をしよう

→痛みがでた時に何をしていたかを明確に言うことができれば、突然発症の可能性大


・雷鳴様頭痛(つまりSAHが鑑別になる頭痛)の時は、狙って画像検査をしないと診断できない疾患群がある

→SAHを疑って、CTで出血なかった時の対応が一番難しい


・RCVSに迫るためには、誘引がなかったかを聞くことが大事

→特に薬のチェックを



 

2020年11月11日水曜日

コロナメンタルパニックに立ち向かう 〜命だけでなく、人生と生活を考えよう〜

 コロナは流行っていない地域でも、メンタルの問題は大流行中です


日本はコロナの恐怖や不安を煽ることで、
コロナは怖いもの、危険なもの、
だから感染しないようにみんなで協力しよう!
という風土で、感染の流行を食い止めてきました

国の政策というよりも、自主的に監視し合うことで、
感染を最小限に抑えてきました


ですが、その代償として、感染対策が過剰になり、
感染者への誹謗中傷や偏見として現れているのは、残念なことです



感染者への誹謗中傷をやめましょう、偏見はやめましょう
と声を大にしたところで、治るものではありません


誹謗中傷している人たちには、悪意がないので、
自分たちが悪いことをしている、相手を傷つけているという自覚はありません
(もちろん、悪意がある人もいますが)


自分は誹謗中傷なんかしていない、誹謗中傷はよくないと思いながら、
実は相手を傷つけています


その人たちは、ただ純粋に自分の身を守っているだけなのです



悪意のない悪が一番厄介


という言葉をよく聞きますが、まさにその通りで、

誹謗中傷をしている人に、
差別するような発言や態度はやめましょうと言ったところで、のれんに腕押しです



過剰な感染対策や誹謗中傷の背景にあるのは、過度な不安です


知識不足というのはもちろんありますが、
不安や恐怖は知識を凌駕します



PCR検査しなくても大丈夫!
陰性証明書はいらない!
手袋はしても無意味!

といくら言ったところで、不安が知識に勝るので、その人の行動に変化を起こすことはできません


頭で分かっていても、心が分かっていない感じです


ということで、正しい知識を伝えることだけでは、差別や偏見をなくすことは難しいと思っています


さらに厄介なのが、本人がその不安に気がついていないということです




ではどうすればよいのでしょうか?


・みんなの不安を減らす
→不安を煽る報道を減らす
 数字を出さない、そもそもニュースに流さない
 町内放送で流さない
 
 一人一人ができることとしては、TVのニュースを見ない
 特に繰り返し見ないというのが大事です
 新聞やラジオだけにする



最近のTVでは驚くほど専門的なことまで伝えていることがありますが、
その情報は誰のためになっているのか、よくわからないことがあります


「怖いもの見たさ」という言葉があるように、「不安」「恐怖」は人間の本能に働きかけます

「恐怖」=「自分を守るために必要な情報」だと思ってしまうので、
コロナをニュースにすればみんな見ますが、もはや新しい情報はほとんどありません



感染者が多くなったからといって、日々の生活で何か変わることはありますか?


変わることがあるとすれば、ニュースを見た人の不安が強くなることです


第三波が到来したからといってやることは同じです
今までの感染対策に変わりはありません





結局は、みんなで考えるしかない・・・そう思います


コロナに感染した人がどんな辛い境遇にいるか、どんな感染後の生活を送っているか、

それは感染した人にしか分かりません


ですが、仕事復帰できなくなった人、その地域に住めなくなった人、精神を病んでしまった人・・・

いろんな人がいると思います




感染した人は周りに迷惑をかけてしまったという罪悪感や後悔に苦しんでしまい、
どんなに辛くても声を上げることができません


感染後に「こんな誹謗中傷やひどい目にあった」と、声をあげたとしても、

「感染したんだから、自業自得でしょ?」と誰かは言うでしょう



なので声を上げることができるのは、感染した人の辛さを一番よく知る我々しかいません



医療者は命(Life)を救って満足するという職業ではありません
人生(Life)も生活(Life)も守りたいと思っています


COVIDの治療はある程度、確立されましたが、
それは命を守るプロトコールです

今後はどうやって人生と生活を守っていくか、
医療者だけでなく、みんなで考える時期に来ているのではないでしょうか



まとめ
悪意のない悪が一番厄介
→正しい知識だけでは、誹謗中傷や差別はなくならない、みんなで考えることが必要


・命だけ守ればいいというものではない
→感染した人の人生や生活をいかに守るかが大事

パンデミックの裏の戦い

前回、不定愁訴の話をしたので、症例ベースのスライドです
半年前に作ったので、やや古めです

(※症例は一部修正・加工してあります)
































































 

カタトニア in the ICU

 

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