消化器内科のERCPやESTをする先生にとっては、
十二指腸憩室は常識です
手技の邪魔になるので、
十二指腸憩室について知っておかないと手技ができません
手技中は邪魔者あつかいされる十二指腸憩室ですが、
普段は何も悪さはしません
なので、
あー、十二指腸憩室ね
よくあるよね
でも何も悪さしないから、ほっておいて大丈夫だよ
となってしまっています
なので、
いざ、悪さした時に、疑えないのです・・・
症例でみていきます
タイトル:いつもの傍観者が犯人になるなんて・・・・
50歳 女性 主訴:腹痛
生来健康で、前日の就寝時も特に変わったことはありませんでした
夕食もしっかりとれました
来院当日の朝方に心窩部痛で目が覚めて、
痛みがどんどん増悪するため、救急車で受診しました
バイタルは安定しておりましたが、
痛みが強すぎて、問診すらできない状態でした
血液検査にて、アミラーゼが上昇(2000台)しており、
造影CTでも膵の腫大と周囲の液体貯留がみられ、
急性膵炎として消化器内科に入院となりました
胆道系酵素は上昇しておらず、CRPは0でした
膵炎の原因は胆石もなく、飲酒もありませんでした
この症例はなぜ膵炎になったのでしょうか?
TGも高くありません
内服歴もありません
SLE?IgG4?IPMN?乳頭がん?
よくよく画像を見返すと、
十二指腸憩室があり、
さらに周囲にフリーエアーがあるではありませんか
結局、本症例は十二指腸憩室の穿孔の診断で、
緊急手術になり、やはり憩室が穿孔していました
本症例から学ぶことは、
十二指腸憩室が原因で膵炎になることがある(Lemmel症候群)
十二指腸憩室穿孔は、膵炎と間違えることがある
穿孔と膵炎は合併する可能性がある
という事です
では十二指腸憩室のまとめです
十二指腸憩室の概論(疫学・解剖)
十二指腸憩室の多くは、後天性にできます
高齢になるほど、頻度は多くなります
性差はありません
画像の報告例では、1-5%にみられ、
剖検の報告では、11-22%にみられました
つまり、十二指腸憩室はとてもよくあるという事です
発生する部位は、下降脚(D2)がほとんどで
60-90%を傍乳頭憩室(Juxtapapillary duodenal diverticula)が占めます
傍乳頭憩室の定義は定まっていないようですが、
乳頭の2-3cm以内にあるものとされることが多いです
十二指腸の他の部位の憩室の頻度ですが、
報告によって、まちまちですが、
D3が30%、D4が10%という報告もあります
発生する病態としては、
管腔内圧UP > 壁(筋肉)の強さ
で起こります
十二指腸憩室の95%は無症状です
5%程度で、症状を来します
十二指腸憩室の人の5%程度であり、
症状を来たすことは非常に稀です
ですが、本当に稀なのか、
見逃しが多いのかは分かりません
症状だけなら、吐き気や嘔吐、腹部違和感、腹部の重い感じなどがありますが、
証明は難しいでしょう
治療が必要な状態は主に3つあります
①穿孔
②出血
③Lemmel症候群
この3つの場合、治療介入が必要になります
Lemmel症候群
1934年にLemmel先生がPapillensyndromeとして報告したもので、
傍乳頭憩室が胆汁うっ滞の原因となり、閉塞性黄疸を発症した病態です
Lemmel症候群の正確な定義はなく、狭義や広義がありますが、
胆道系疾患や膵疾患を合併した病態を
包括的にLemmel症候群とすることが多いです
この名前は本邦では、有名ですが、
なぜか海外ではあまり、Lemmel症候群としては使われておりません
Juxtapapillary duodenal diverticulaに伴う○○で検索しないと、あまり出てきませんのでご注意を
しかし、本邦の内視鏡やCTの多さからか、本邦からの報告が多く、
日本語の文献でも大変勉強になりました
十二指腸憩室関連疾患の画像
十二指腸憩室というものを見慣れてなければ、
そもそもの十二指腸憩室を穿孔を読影してしまいます
ですが、憩室であれば、よくみればエアーを覆う粘膜があります
なので、粘膜がおえないエアーをみつけたら、
それはフリーエアーであり、穿孔を意味します
十二指腸憩室穿孔の場合、
後腹膜の気腫、後腹膜の液体貯留がみられることが多いですが、
狙ってみなければ、見落とします
十二指腸憩室穿孔
十二指腸憩室穿孔の死亡率は20%という報告もあるくらい、
危ない疾患です
なぜかというと、診断が遅れることが多いからです
早期に発見できれば、保存治療でなんとかなる症例もありますが、
時間が経ってからみつかると、手術になることが多いです
この疾患はCTをとっても見落とす疾患であり、
非常に怖いです
CTの読影結果を見落として、後で発見されて、
亡くなってしまうこともあり得ます
ですが、本症例もそうでしたが、
読影ですら、見落とされていました
この疾患は狙って診断するものではありません
CTの読影で、見落とさないようにするしかないのです
原因不明の腹痛の場合、造影CTをとることは当然ですが、
十二指腸周りに気を付けて読影をする
そして、膵炎だと思ったが、原因がよくわからない時に疑うしかないかなと思います
十二指腸憩室穿孔の治療
基本は手術です
なので、外科に相談します
その上で、保存的に加療できないかを協議します
後腹膜腔の汚染が軽度
全身状態が良好
腸石がない
というのが、これまでの報告で保存的に加療できるかもしれないという要件です
早期に発見して治療が行われれば、保存的に完遂できる可能性が高まります
なので、早期発見が治療や予後に直結します
おそらく、十二指腸憩室の穿孔なんて、
医師人生で一度出会うか出会わないかの疾患でしょう
では知らなくていいのでしょうか
否
その一度に、一人の患者さんの人生がかかっています
十二指腸憩室まとめ
・十二指腸憩室は10人に1人か2人くらいの頻度でみられ、基本は無症状
→無症状なら治療しなくてよい
症状あれば、治療する
・十二指腸憩室穿孔は、診断が非常に難しい
→早期に発見できれば、保存治療でいけるかもしれない
・原因不明の膵炎をみたら、十二指腸憩室に伴うLemmel症候群を疑う
→フリーエアーがあれば、膵炎だと思っても、穿孔として対応を
参考文献:Journal of Visceral Surgery (2013)150,173-179
BMJ case Rep 2017.doi:10.1136
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臨床消化器内科 Vol.31 No.4 2016
先生の熱い熱意が伝わりました。
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