2023年4月9日日曜日

今週のNEJM 〜最後のどんでん返し〜

今週のNEJMは長期DMのある40台の男性の多発する皮膚潰瘍の症例でした

最後のどんでん返しがびっくりしましたが、

途中までは詰将棋のようで面白かったです


最初は痺れから始まり、length dependentとnon length dependentの議論となり、

痺れmapを活用し、これは急速に進行しているし、

手の痺れの出現が早過ぎてlength dependentっぽくないということで、

血管炎を疑う感じになりました



その後、呼吸苦が出現してきてたため、色々検査が進みました

血液検査では貧血の進行や腎障害の悪化が見られましたが、

TMAっぽくはないデータでした


DVTもありヘパリンと同時にワーファリンが入りましたが、皮膚壊死が出現してしまい、

そこでワーファリンに惹起された過凝固病態が疑われました


ですが、その際にCAPSやHITも鑑別に上がってしまいます


この時点では、痺れのプレゼンもあったため血管炎か、もしくは過凝固病態の構図になりました


結局、壊死した部位が感染してしまいアンプタになりましたが、

この時点ではDM footやPADに伴う下腿潰瘍と判断されたためか、

精査は全く行われていない様子でした



これで一件落着なら良かったのですが、アンプタ後も手足の指の壊死が出現してきました


流石にこれはおかしいということになり、

各種サロゲードマーカーや過凝固疾患の血液検査を提出されましたが、どれも引っかからず


CTにて血管の石灰化が著明なことがわかりました(←今更?とはなりました)


普通ならDMやCKDがあれば、動脈硬化からの石灰化でしょ?ってことになりますが、

著者達は画像からは動脈硬化性の変化が乏しく、血管の石灰化がメインだからこれはおかしい!

ということになり、カルフィラキシスを疑う流れになりました


そこでアンプタした足の病理をチェックしようということになり、(←この視点は勉強になりました)

やはり動脈硬化性の石灰化ではありませんでした


カルフィラキシスの典型的な病理像やプレゼンテーションとも一致せず、

これはカルフィラキシスでもないのでは?ということになりました


結局、ACDCという稀な遺伝子病が疑われ、遺伝子検査で一発診断となったという症例でした


今回はまずは血管炎や過凝固病態、クリオグロブリン血症、バージャー病を疑いました

カルフィラキシスは血管炎のmimicとして出てきます


さらにカルフィラキシスが違った時に、ACDCはカルフィラキシスのmimicとして現れるというのが、

この症例のポイントでした


疑問点としては、

・そもそもACDCって初めて聞いたけど、日本での症例報告はあるのか、

 疫学はどうなっているか

 こういう人ってたまにいるよね〜という印象をみんな持っていましたが、

 調べたことは誰もありませんでした


・PADのプレゼンテーションできたが、

 動脈硬化性の変化がなく石灰化が強い症例でACDCを疑うようだが、

 動脈硬化性変化がないというのはどういう根拠なのか


・カルフィラキシスのゲシュタルトと病理、治療を再度勉強し直し


・ACDCをあえて載せてきているということは啓蒙活動的な意味合いもあるのか

 確かに治療法はあるので、早期診断に意味はある疾患のようだ

 20-50代に多く動脈硬化リスクが乏しくて、

 原因不明に末梢動脈の血管の石灰化を見たら、この疾患を疑うということが大事


カルシフィラキシスを疑う状況と疑った時の鑑別疾患についてまとめました



PADによる下腿潰瘍でないときは、鑑別が膨大になるので、
内科医の腕の見せ所ですね



最後は生検になります

循環器、皮膚科、膠原病科、血液内科、腎臓内科の医師達と
ディスカッションすることが重要です


ワーファリン使用中の皮膚潰瘍はワーファリン誘発性皮膚壊死だけではありませんが、
入り口はそれでいいと思います


まず早くワーファリンを中止すること

それが大事です

参考文献:NEJMのカルシフィラキシスのまとめ

May 3, 2018 N Engl J Med 2018; 378:1704-1714 DOI: 10.1056/NEJMra1505292


【ワーファリン】 VI‐3.3.ワルファリン誘発性皮膚壊死(WISN)と類似する疾患との鑑別(適正使用情報 改訂版〔本編〕 2020年2月発行)

→エーザイのまとめ(わかりやすい!)

https://faq-medical.eisai.jp/faq/show/1602?category_id=73&site_domain=faq


2023年4月5日水曜日

医師としてのスタートをきったあなたへ

苦難の道を乗り越えて、医師としてのスタートをきった皆様、おめでとうございます


オリエンテーションのin putが多すぎて、ヘトヘトかと思います  


お疲れ様です


早く働きたい気持ちをバネに、働き始めたら頑張ってください 笑


今はパソコンに新しいソフトやアプリをインストールしている時間です


インストールされてしまえば、

そこからアプリが起動してサクサク使えるようになります


4月は仕事の流れを自分にインストールする時間だと思ってください

焦らず耐えてください


5月からインストールした仕事のフローを使いこなすことができます



・ダブルバインドに負けないために


いざ働き始めると、

まだ一人では何も決められない立場にもかかわらず、

コメディカルや患者さんからは一人の医師として扱われるため、ダブルバインドに苦しむことになります


「この患者さんの治療方針はどうなってるんですか」

「早く指示ください」と決断を求められますが、

自分一人では決められず、結局上級医に相談しなければなりません


そんな日々が続くと、誰だって無力感に苛まれますよね


自分で方針を決めきれないと、仕事の充実感は減っていきます



仕事の充実度を上げるためには、

自分の判断で方針を決めることです


上級医から言われたことをしているだけでは、充実感は得られません


ぜひ、自分で方針を考え、

上級医とディスカッションしてください


最初は治療方針について10回提案しても、

採用されるのは1回かもしれません


ですが、経験や知識がついてくると、

自分の提案の採用率が上がっていきます



それが目に見える成長です



今でもそれは実践しています


自分は専門科がないので、専門医に自分の意見をぶつけて、
採用されるかをいつも試しています


それを繰り返し続けていくと、
専門家の先生と同じ思考を得ることができます



ぜひ、自分の意見をぶつけてください


ディスカッションする指導医や上級医がいなければ、
他のチームの先生でもいいので、探してください



目が合ったらバトルスタートするポケモントレーナーのように、

上級医を見つけたらディスカッションしましょう



・よい決断をするために


脳が一番疲れるのは、何かの選択に対して決断を迫られる時です


学生と医師の違いは、

「選択に対して決断を下すという行為」と

「その決断を行なった責任をとること」です



この二つが脳と精神に多大な負荷をかけてきます


臨床現場ではこの二つのプレッシャーが延々と襲ってきます


PHSがなるたびに一つ前の電話の内容は消し飛びます

(看護師さんすいません)



仕事のコツは、脳に負担をかけないこと、

つまり、脳に余計なことを記憶させないことです



覚えなければならないことは、紙やカルテに書きましょう


診察したらカルテはすぐにかきましょう

(綺麗なカルテよりも早いカルテが好まれます)


PHSにかかってきた内容にはすぐに対応しましょう

(後でやろうとすると必ず忘れます)


メールを一回読んだら、その場で返事しましょう

(二度見は時間の無駄になります)



皆様の脳の使える容量は限られています

良い決断をするために使ってください



・医師の仕事


医師の仕事は、マラソンのように人と競いあうものではなく、山登りみたいなものです


山登りに正解はありません


同期が優秀だと自分より先を進んでいるような感じがして、

自分が劣っているように感じます


ですが、山登りの時に人と競いますか?


どのルートから登ってもいいですし、途中で休憩してもいいです

嫌になったら、他の山に移ってもいいです



山の頂上を目指すとなると、大変かもしれませんが、

皆さんが目指したいのは、山の頂上(ex.世界一の外科医)ですか?



途中の景色を楽しんだり、澄んだ空気を吸ったり、

山登りの楽しみ方は千差万別です


ちなみに・・・

自分は山をある程度まで登ったら、

次の山、次の山へフィールドを変えて、そこでみえる景色を楽しんでいます



仕事も同じです


どうせやるなら、楽しみながらやりましょう


万が一、時間がたっても、

どうしても楽しめない人は仕事の内容か

職場を変えたほうが良いかもしれません



心から仕事を楽しめる人は最強です


ジョブズも孔子も言っていましたね


これを知る者はこれを好む者に如かず。

これを好む者はこれを楽しむ者に如かず




あなたが歩んできた道はあなたしか歩んでいないキャリアです


あなたが登りたい山を自由に楽しみながら登ってください



医師としてのスタートおめでとうございます




研修医の先生へ(というよりは自分への戒めとして)

 医師は残念なことに病院の中ではヒエラルキーの上位に位置しています


自分はそうじゃない!と思っていたとしても、

担当医が決まらないと、何も始まりません


バイタルを何検すればよいか

リハビリは入ったほうがよいのか

食事は食べていいのか

いつ退院できるのか・・・など


医師の決断で各職種が動けるようになります


医師はオーケストラの指揮者のような役割が求められます



指揮者が各楽器や演奏家に熟知していないといい演奏はできません


医師も同じではないでしょうか



病院にどんな職種の人がいて、

どんな仕事をしているか知っておいたほうが

よい医療ができると思いませんか


そしてどこで働いているか

ということまで知っておくべきです


電話交換の人や用務の人、清掃の人がどこで働いていたり、

休憩しているか知っていますか



一度、行ってみるといいです


いかに自分たちが恵まれた環境にいるかがわかります


自分よりも安い給料で大変な仕事をして、

労働環境も劣悪な場所で働いている人が

たくさん、病院にはいます



自分が労働環境や給料を変えることができないのであれば、

せめて、多くの人の支えがあって、

自分が働かせてもらっていることに感謝の気持ちを忘れずに働きたいものです



・あなたのワンクリックで、誰かが動く


指揮者の一振りで、トランペット奏者が演奏するように、

医師が行なったパソコンのワンクリックで、一人の人が動くのです


パソコン画面でオーダーするとどうしても機械的な印象がありますが、

その向こう側には生身の人間が動いていることを自覚しなければなりません



何も考えずDoした尿沈渣の検査オーダーで、

一人の技師さんが尿を遠心分離して、カバーガラスをかけて、

顕微鏡で覗いて、円柱の数を数えてくれています



お願いですから、腎盂腎炎のフォローで尿沈渣を入れないでください

安心したいなら、自分で尿のグラム染色してください



腎臓内科の元上司は、

聴診器も持たず、診察もろくにせず、CTを乱発する人でした


ただ必ず、自分で患者さんをCT室に連れ行っていました


そこは見習おうと思いました



他職種の仕事がわかると、

手伝えることは手伝いたいと思いますよね


医師としてというより、人として



ぜひ、一人でベッドを運んでいる看護師さんや

看護助手さんを見かけたら、手伝ってあげてください



どれだけ一人でベッドを動かすのが難しいか、

やってみたらわかります



書類の提出期限が遅れた場合、

自分の知らないところで誰かが、患者さんに謝ってくれています


患者さんを待たせてしまった場合、

受付の人があなたの代わりに謝ってくれています



本当にいつもありがとうございます

(というよりごめんなさい)


事務や受付の方にはいつも感謝の気持ちをもって接しましょう



・医師としての評価は3つ


一つ目は医師(同僚)からの評価

二つ目は患者さんからの評価

三つ目はコメディカルからの評価です


驚くべきことに、この評価が解離してしまう医師が大勢います


この評価の怖いところは、仕事をしているとわからないということです


評価がわかるのは、あなたが病院を辞める時です



気持ちよく病院を去れるために・・・

というわけではありませんが、


気持ちよく仕事をするために、

どんな人がどんな仕事をどこでしているか、

できる限り、このオリエンテーション期間中に知っておいてください



2023年4月4日火曜日

振り返り2






なるべく初診に来てくれた患者さんには、
「イラスト」の処方箋をお渡ししています


イラストには主に病名と病態と治療法を書いてお渡しします


なぜかというと、同じ方向を向いて治療に望みたいからです


医師だけが、診断や治療が見えていてもよくありません


患者さんの体なので患者さん自身が、
ご自分の体に起きていることを理解していないと、
治療がうまくいかないことがあります


関節リウマチなのに関節が痛くなるまで筋トレしてしまったり、
薬が嫌いという理由で、内服を自己中断してしまったり、
片頭痛を我慢しすぎてしまったり、痛みどめのタイミングが遅すぎたり、
パニック発作を精神的なものと片付けてしまったり・・・


これらの治療失敗は薬のせいではありません

医師の説明不足からくるものです




医師の説明は一般の人にとっては、
早すぎますし、難しすぎます


専門用語を使っている人は論外ですが、
医学用語を使わずに平易に話しをすれば伝わると思ったら大間違いです


ほとんど伝わりません

もしくは、間違って伝わっています




医師の説明能力は
患者さんの予後を変えるほどの力があります



そのことにどれだけ真摯に向き合えるかです



SGLT2やARNIの予後改善効果よりも
医師の言葉は大切です




話が脱線しました

CTRについて解説します














患者さんのなぜ?に答えてあげましょう

それが何より安心につながります




イラストは患者さんへ情報を伝えるためだけに
使うものではありません


「ホワイトボード」としても機能します


痛みの経過図、痺れの部位、家の構造・・・

絵に描きながら、こうですか?と確認していきます


この作業も患者さんの同じ方向を向くためです


会話だけでは、お互いの認識がずれてしまっていることがよくあります

ですが、絵に描くことでお互いの共通認識が得られます
























2023年4月2日日曜日

振り返り1




3月は「振り返り」のシーズンでした

一年に一度は自分の診療も振り返ってみたいと思います

(※症例は加筆修正を加えてあります)


胃瘻造設前のCTで胃と腹壁の間に、
大腸が挟まっている人っていますよね

その場合、胃に空気を入れてぱんぱんにして、
CTを撮って再度確認します

さらに、胃瘻造設時に左側臥位→臥位へと体位変換することで、

横行結腸を落としたり、ベッドアップして横行結腸を落としたり・・・


最終的には外科的に作るなど色々方法はあります


そこで、超音波で見れば簡易的で安全ではないかと思ってやってみました


するとやはり、腹壁と胃の壁の間に何もないことが一目瞭然であり、

内視鏡で胃壁をつつくことで胃壁位置を確認することができました

さらに皮膚から胃内までの距離もわかり、
大血管がないこともドプラで確認できます


何度かやってみようと思いました




腹直筋血腫は有名ですが、
経験したことがありませんでしたので勉強してみました




腹直筋血腫は解剖が大事です

解剖から勉強するのではなく、
病気から入ると解剖って大事ってわかりますよね



危ない腹直筋血腫は臍より下の場合です

後方に腹直筋鞘がないため、血腫がどんどん大きくなります

膀胱のように大きくなってしまうこともあり、
pseudo bladder signと名付けている同僚がいました 




診断は容易ですが、治療が難しいです

保存か手術か血管内か・・・

まれな疾患で治療経験がある医師が乏しいので、
誰が最終的な判断を下すか、担当医は悩むことが多いです





また別の症例で腹直筋血腫を疑う人が来ました


腹直筋血腫は病歴と診察で大体わかりますが、
USすればよくわかります

USでは皮下に腫瘤がありました

ですが、腹腔内か腹腔外か、見分けが難しかったです




その時に気がつきましたが、
胸部と同じで腹膜もsliding signがあります

深呼吸してもらうと、腹膜が動いているのがわかり、
腹腔内外の鑑別に有用でした





問題はこれが血腫で良いか?ということです





なんと血腫ではなく、膿でした

びっくりしました

そんなことある???




腹直筋血腫よりもさらに稀であり、
治療も決まったコンセンサスがありません

膿瘍が大きかったり、腹腔内に進展していた場合は、
ドレナージが必要になることが多いです



今回は穿刺吸引と抗生剤のみで治療完遂できました





  最近、QT延長している人が多く、

さらにVTになる症例が多いです



みなさん、入院時の心電図みてますか?

ST-T変化だけみて満足していませんか?


QTも必ずチェックしてくださいね


そして特指示のせん妄の薬を軽い気持ちで入れていませんか?


抗精神病薬を入れる時は、心電図に必ず戻りましょう!








マグネゾール®︎がこんなに効くのか・・・と感動しました








簡単に脳血管性やアルツハイマーと診断してませんか?
























外来で一番悩んだ症例かもしれません

















消化器の多くの疾患は2021年にガイドラインが改訂されていて、
勉強になります













本当によくなってよかったです



しばらく透析業務に従事してみて
透析室の患者さんには、
総合的にみれる医師が必要だと強く感じました


自分の存在意義は、そこにあった気がします


うつや自殺企図、認知症があり、DLBと診断しアリセプト®︎著効した人

足の皮疹からIgA血管炎の診断に至った人

毎回のように転倒する患者さん達

バスキュラーアクセスが感染しまくる人

うつ病があるが精神科にはいきたくない人

自宅で最後を迎えたい人

謎の汎血球減少でCu欠乏だった症例(ノベルジン®︎が原因)

毎月熱が出るFMF疑いの症例

セフェピム脳症

アシクロビル脳症

原因不明の小腸出血の原因が湿布だった症例


・・・

あげればきりがありませんが、
透析に1年間と少し関わっただけですが、とても印象に残る経験をさせてもらいました




中でもこの方は自分で救急で関わり、
緊急SDMを行い、透析導入した思い出深い症例です












皮疹はシステム1(直感)が非常に大事です

システム1を鍛えるためには、システム2(考え抜くこと)のトレーニングが必要です
















原因不明の出血傾向といえば・・・

知っていれば診断は困りませんが、問題は原因です





3ヶ月前に胆嚢的手術が施行されていますが、その時は全く止血に困らなかったそうです

その間に何があったのか・・・


























カタトニア in the ICU

 

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