62歳 男性 主訴:倒れていた (※一部、症例は加筆・修正を加えております)
Profile:DMで透析中、ADLはフル
現病歴:旅館で勤務
同僚が勤務に来ない患者を見に行くと、自宅の部屋で倒れていた
救急車要請し搬送となった
(本人からは病歴とれず、同僚からのみ病歴が取れる状況)
前日、会った時は元気そうだった
最終の透析日は2日前、予定では来院日の翌日が透析日
既存症:高血圧、狭心症、糖尿病
内服:アムロジピン、カンデサルタン、トラゼンタ、バイアスピリン
生活:旅館で勤務、飲酒なし、喫煙 20本/日
来院時バイタル:BP127/75, P 86, T 39.7 , Spo2 73% (RA) →95% (7L) ,RR 32
意識レベル 不穏状態で指示入らず
身体所見 項部硬直なし
心雑音なし 呼吸音 wheezesなし cracklesなし
腹部 圧痛なし
下肢浮腫なし 関節腫脹なし 皮疹なし
血液検査 WBC 11000,Hb 8, Pat 12, CRP 11
トロポニン上昇あり、BNP 上昇
LDH 軽度上昇あり、CK 軽度上昇あり
CXR 両側下葉の透過性低下あり
CT 両側下葉にコンソリデーションあり、胸水少量あり
血管陰影の増強あり
ECG 広範囲でST-T低下を認める
痰G染色:白血球少数、扁平上皮少数、porimicrobaial patern
重症肺炎、心筋梗塞が疑われ、集中治療室へ入室となった
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ディスカッション①
重症患者さんですが、どのように考えていけばいいでしょうか?
最も気を付けたいポイントはなんでしょうか?
T(ファシリ)
「はい、DMで透析中の62歳男性の急性の経過で起こった意識障害、呼吸不全という症例ですね。
肺炎はありそうですが、さらに心筋酵素上昇や心電図変化も伴っており、
心不全の合併もありそうな感じです。
多臓器にまたがるプロブレムがあり、by systemで考えた方がいい症例ですね。
さて、まずはどのように考えますか?第一印象はどんな感じですか?」
S「バイタルからは敗血症が疑われる状況です。
原因は肺炎だと思われますので、早めに抗生剤を投与していきたいです。
あとNSTEMIもありそうなので、循環器にも声をかけたいです」
T「はい、ありがとうございます。
早めに抗生剤入れたいですよね。
では抗生剤は何を使えばいいでしょうか?」
S「うーん、そうですね・・・」
T「先ほどのレクチャーでもあったように、感染症を疑った場合は、
ロジックで考えていくのが重要です。
一番大事なのは患者背景です。
どんな患者さんかが分かれば、自ずと菌名もわかってきます。
そうすれば、何の抗生剤を使うべきかも見えてきます。
この患者さんの人となりはどうでしたか?」
S「糖尿病があって、透析している方です。あと喫煙者で、vascular riskの高い方です」
T「そうですね、糖尿病と透析というのは、とてもコモンな免疫不全の原因です。
糖尿病や透析に特徴的な感染症はご存知ですか?」
S「わかりません」
TT「ぱっとは出ませんが、緑膿菌感染は考えたいです。」
N「透析の人であれば、穿刺部位からの感染は考えたいです」
T「はい、ありがとうございます。
そうですね、糖尿病で特徴的な感染症があるので、知っておいてもいいですね。
あと透析の方の場合は、結核のリスクが高いので注意が必要です。
糖尿病や透析というのは、「免疫」という観点からの人ととなりでした。
「暴露」という観点からの人となりはいかがでしょうか?」
S「旅館で働いているので、都会の方との暴露はあるかと思います。
それ以外の暴露については、病歴が聞けないのでわかりません。」
T「そうですね。この時代は不特定多数との人の暴露、
つまり3密への暴露が、一番、医療者を緊張させますね。
ということで、コロナ対応しますか?」
S「肺炎もありますし、呼吸不全の状態でもありますので、コロナ対応はした方がいいと思います。」
T「他の方も同じですかね、
そうですね、では個室隔離として入室時はPPEを装着し、
患者さんにはサージカルマスクをつけてもらいましょう。
でも不穏状態・意識障害のせいで、なかなかマスクもつけられなさそうですね。
感染症診療で次に考えるべきは、感染臓器です。
肺炎はありそうですが、他にfocusとなる臓器はありますか?」
T T「意識障害も伴っているので、髄膜炎対応をした方が良いかもしれません。」
T「ありがとうございます。そうですね。
髄膜炎対応するとすれば、どういう対応になりますか?」
TT「血液培養をとって、デキサート®︎を点滴して、
抗生剤をすぐに点滴します。セフトリアキソン、ビクシリン、バンコマイシン、
ヘルペス脳炎を疑う状況であれば、アシクロビルも投与します。
そして落ち着いたら、髄液検査を行います。」
T「はい、ありがとうございます。点滴ではなく、本気の髄膜炎対応の時は、
ivでいいですよ。VCM以外はね。
髄膜炎を疑ったら、30分以内に抗生剤を投与しなさいと言われるような疾患だから、
本気で対応する場合は、ivでお願いします。
この症例は髄膜炎対応すべきでしょうか?」
N「そうですね。した方が良いかと思います。」
T「みなさんも同じ意見ですかね。
そうですね、意識障害の原因は実は肺炎や敗血症性脳症でいいかもしれません。
でも、髄膜炎でもいいかもしれませんよね。
迷ったら、やる。
これは救急やICUの世界ではよく言われることです。
結核対応、コロナ対応、髄膜炎対応・・・
〇〇対応をするかどうかは、誰かがそれを口走ったら、やった方がいいです。
やらない時に限って痛い目に合います。
ということで、今回の症例は髄膜炎対応しつつ、コロナ対応するという非常に忙しい状況です。
さらに心臓の虚血も絡んで心不全になっており、
透析もすぐに必要な状況で、不穏状態という大変な状況です。
バイタルを立て直すためにも、挿管して人工呼吸器管理が必要そうですね。」
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経過
都会の人との暴露があり、コロナ対応でICUの個室に入室となった
その後、不穏状態で透析を行うことができず、鎮静・挿管・人工呼吸器管理を行なった
血圧も低下し、CV挿入し、NAが開始となった
Aラインと胃管も留置された
抗生剤は髄膜炎も念頭にMEPN,VCMが投与開始となった
当初は髄膜炎を積極的に疑ってはおらず、ステロイドの投与は行われなかった
鎮静後に髄液検査施行し、細胞数やタンパクの上昇は認めず、髄膜炎は否定的だった
その後、呼吸状態は横ばいのまま推移
呼吸器の設定を下げることができなかった
高熱も持続し、3日間が経過した
この時点で、初日の血液培養は陰性
痰の抗酸菌染色は陰性、コロナのPCRは陰性だった
そのため、再度、fever work upを行なった
・CRBSIを疑い血液培養を採取し、カテーテルの入れ替えを行なった
・画像評価を行うと、肺のコンソリデーションが増悪しており、胸水が悪化していた
・CDトキシンを提出したが、陰性であった
(前半終了)
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