不易流行の症例は、マイコプラズマの髄膜炎だったのではないか?
と鋭い指摘をいただきました
The combination of budesonide and azithromycin demonstrates enhanced therapeutic effectiveness, promotes improved pulmonary function, shortens the duration of symptoms, and effectively mitigates the overexpression of inflammatory factors like c-reactive protein, TNF-α, and IL-6, all without an associated increase in adverse reactions in pediatric mycoplasma pneumonia.
確かに肺炎はマイコプラズマでよいとは思いますが、
髄膜炎がマイコプラズマでよいかは、なんとも言えません・・・
K先生が診療していたら、マイコプラズマ抗体のペア血清を出して、
上昇していることを証明し、マイコプラズマによる肺外症状として
ステロイド投与して治癒していた可能性もあります
その場合は、フィルムアレイも提出していなかったでしょう・・・
と言うわけで、マイコプラズマの中枢神経病変について調べてみました
そもそもマイコプラズマはとは?
第二次世界大戦の頃、軍隊を中心に謎の肺炎が流行しました
当初は謎のウイルス性肺炎と考えられていたものが、マイコプラズマだったのです
マイコプラズマは培養が難しく、
細菌の濾過フィルターであるseitz filterを通り抜けてしまうほど小さく、
当初はウイルスと考えられていました
1944年 Eatonはこの謎の肺炎(原発性異型肺炎)患者から得られた呼吸器検体を鶏卵に培養し、ラットやハムスターに接種させ同様の肺炎になることを証明しました
これをEaton agentと名付けていました
その後、Eaton agentがヒトのボランティアに下気道炎を起こすことが証明され、
1961年に米国National Institutesof Healthのカンファレンスで謎のウイルス肺炎が
細菌感染症であり、病原菌として認められました
そして、1963年にようやくMycoplasma pnumoniaeと命名されました
IASR Vol.45 p5-6;2024年1月
マイコプラズマはウイルスとは異なり、自己増殖が可能です
細胞壁を持たず、なめくじ?みたいな形の特徴的な菌です
βラクタム系は効果ありません
それにしても形が普通の菌っぽくないですね・・・
マイコプラズマと聞くと肺炎を想起しますが、
実は肺炎にならずに、風邪や咽頭炎、気管支炎レベルで
自然治癒していることが多いです
マイコプラズマはウイルスのような挙動を示し、
自然軽快することもあり、抗生剤での治療が必要かどうかは背景や病状次第です
呼吸器外症状には3つの機序が考えられています
①直接型、②間接型、③血管閉塞型 です
呼吸器外症状では皮疹や神経病変が多いです
神経病変は脳炎やGBSが多く、無菌性髄膜炎もまれではありますが、
起こりえます
ざっくりしたイメージですが、
直接型の場合は菌が悪さをしていると考えられ、
抗菌薬の効果が高いです
間接型の場合はすでに菌はおらず、
免疫反応によって起きていると考えられています
そのため、治療は免疫調整薬(ステロイドやIVIG)がメインとなります
マイコプラズマは針のように突き刺さり、細胞に侵入していきます
最近は肺炎も気道上皮細胞とマイコプラズマの免疫的な応答で
引き起こされている可能性が指摘されています
肺外症状の内訳です
間接型の疾患を見ると何でもありな感じです
これらの疾患を診断する時にマイコプラズマの抗体をチェックしていなかったので、
今度から閾値低めにチェックしてみようと思います
脳炎はどちらも起こりえますが、無菌性髄膜炎は直接型と考えられています
ただ、「いつから発症したか?」「途中で治療が入ったか?」
「NSAIDsの内服で症状が緩和された」などで修飾されると、
どちらかにすっきり分類することは難しい気がします・・・
臨床像は多彩です
まるでコロナです
コロナとの違いは潜伏期です
潜伏期が2-3週間と長いので、誰からもらったかわからないことが多いです
軽症の場合、自然に軽快し
他のウイルスによる上気道炎と見分けはつきません
マイコプラズマは細菌ではありますが、自然に治ってしまうので、
「細菌感染症=抗生剤が必要な病態」ではない
ことを覚えておきましょう
ただ、10人に1人は肺炎に至ることもあります
健康な若い人の軽症の肺炎といえば、マイコプラズマを疑います
「walking pneumonia」とも呼ばれます
K先生に教えてもらいましたが、
最近ではマイコプラズマ肺炎の症状を早期に改善させる目的に
吸入ステロイドをアジスロマイシンに併用するのが良いようです
Medicine (Baltimore). 2024 Jun 14;103(24):e38332.
5. 結論
ブデソニドとアジスロマイシンの併用は、小児マイコプラズマ肺炎において、治療効果の向上、肺機能の改善、症状の持続期間の短縮、CRP、TNF‐α、IL‐6などの炎症因子の過剰発現の効果的な緩和を示し、副作用の増加は伴わないことが示唆されています。これらの結果は、小児マイコプラズマ肺炎の治療レジメンとしてこの併用療法の採用を推進する上で、潜在的な価値を持つものです。
細菌感染症にステロイドは良くないと刷り込まれてきた世代にとっては、
衝撃的ですね
ステロイドの治療を行う点もコロナに似ていますが、
マイコプラズマ肺炎の誰に、どの重症度で吸入ステロイドを使うべきか
といったコンセンサスまではなく、前向きのRCTの研究が必要なのでしょう
マイコプラズマの診断は主に抗原と抗体でなされます
発症早期は抗原検査でされますが、感度が高くないので否定にはなりません
確定診断はペア血清でのPA法の抗体検査やPCRでなされることが多いです
マイコプラズマの肺炎が治ってきた頃に起こるのが、間接型の肺外症状です
この時期にはマイコプラズマはおらず(PCRでも見つからない)、
免疫反応が問題を引き起こしていると考えられています
ただ、治療が入ったかどうか?診断がつかず遅れて顕在化しただけ?
といった感じで、直接型と間接型の白黒をつけるのは難しい症例もあります
マイコプラズマが脳炎/髄膜炎に至るパターンは3つです
肺炎と同時に発症
肺炎後に発症
肺炎なく、いきなり中枢神経パターン
肺炎がなく、いきなり中枢神経症状で来た場合は、
マイコプラズマを想起するのは難しいです
前駆症状がないからといって除外できません
小児や若年者の脳炎ではルーチンで検査するしかない気がします
呼吸器症状の発症後7日以内の発症を早期発症型と呼び、
7日以降を晩期発症型と呼ばれます
早期は直接型、晩期は間接型の機序が考えられています
無菌性髄膜炎は早期発症(直接型)の報告が多く、
晩期発症の症例報告は見つけられませんでした
一方、脳炎(髄膜脳炎の報告が多い)の場合は、
早期も晩期もどちらもあり得ます
横断性脊髄炎やADEMもどちらも起こりえます
今回の症例はVZVが検出されず、マイコプラズマ抗体が陽性であれば、
晩期発症型のマイコプラズマの無菌性髄膜炎だったのかもしれません
ただ、発症時から頭痛を認めており、
NSAIDsやAZMがpartialに効いていた可能性もあります
その場合は、早期発症のマイコプラズマの無菌性髄膜炎が、
診断が遅くなって晩期にみえただけかもしれません
マイコプラズマ脳炎は報告が多いのですが、
マイコプラズマによる無菌性髄膜炎だけの報告はほとんどありませんでした
ほとんどが、髄膜脳炎の報告でした
なので脳炎について調べてみました
この報告ではマイコプラズマ脳炎の予後不良因子は、
11〜18歳での発症
血液でのLDH上昇
髄液の蛋白上昇
画像で基底核の障害
となっていました
この報告では全ての症例でAZMが投与されていました
AZMは髄液移行が悪いですが、脳細胞への移行は良好です
マイコプラズマによる髄膜脳炎の抗生剤治療は、
AZMが1stで良いと思われますが、
耐性が多い地域の場合、LVFXの併用がありえます
抗生剤治療に関しては、耐性がどれほど占めているか?
病状がどれほど重いか?小児か成人か?といった要素を考えなければなりません
加えてステロイドやIVIGを併用するかということを考える必要があります
ステロイドやIVIGを併用した方が、症状や入院期間が短縮される傾向がありました
ステロイドとIVIGを併用した群ではその傾向はありませんでしたが、
どちらも投与されたということは、おそらく重症例であったためでしょう
いまだに、マイコプラズマの中枢神経病変に対する治療はケースバイケースです
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あとがき
K先生からのツッコミでマイコプラズマについての知見が深まり感謝です
本症例を最初からマイコプラズマの肺外症状を想起できなかったことは反省でした

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