95歳 女性 主訴:左下肢の痛み (※症例は一部加筆・修正を加えてあります)
Profile:要介護5、ほぼ寝たきり、施設入所中
現病歴:4ヶ月前から急に左下肢の浮腫が出現 痛みも伴っていた
慢性心不全と診断され、フロセミドの内服が開始された
3ヶ月前、浮腫が増悪し、フロセミドが増量されて軽快した
2日前、発熱認め、左下腿の発赤・腫脹・滲出液が出現
前医にて抗生剤処方された
来院当日、症状改善せず救急外来受診
バイタル
血圧83/53、脈102、呼吸数22、体温37.8度、SPO2 92%
見た目 不穏状態
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ディスカッション①他に聞きたい情報は?
司会T「はい、ありがとうございます。
ショックバイタルですので、悠長に病歴聞いてもいられませんが、
他に聞きたい情報はありますか?」
K「飲んでいる薬はなんですか?」
N「たくさんあります。」
既存症:高血圧、糖尿病、Af、脳梗塞、症候性てんかん、喘息、便秘
内服:カルシウム拮抗薬、硝酸薬、フロセミド、ネシーナ、リクシアナ、イーケプラ、デプレノン、ピコスルファート、酸化マグネシウム、カロナール、エビナスチン、オーグメンチン、サワシリン、マイスリー
T「わーお、たくさんだね。笑
こう言うのなんて言うか知ってる?」
学「・・・・」
T「ポリファーマシーだね。
そして、マルモだね。multimobidity(多疾患併存)の略です。
この人は多分、骨粗しょう症もあるよね。
ガイドラインが入り乱れている世の中で、病気ごとにしっかり、
ガイドラインを遵守したら、大変な数の薬を飲まなければならなくなるね。
それが果たして、患者さんにいいことをしているのかなぁ?
マルモの場合、それぞれの病気のプロブレムリストを作ると、
#1〜#13・・・と膨大な数になってしまう。
だから最近は、ICUの時のカルテのように臓器別に考えたり、
このようにパターンごとに分ける方法が推奨されてきています
目の前の患者さんの病気を「虫の目」でじっくりみるのではなく、
「鳥の目」のように、全体像を俯瞰してみてみましょう。
覚えておいて欲しいのは、高齢者が救急外来にきたら、
まず、薬の関与を疑ってください。
病気を考える前に、薬のせいにしてみるのが、コツです。
さて、今回であればどんな薬が悪さしてそうですか?
入院になったら、みなさんはどの薬を中止したいですか?」
Y「カルシウム拮抗薬は浮腫む副作用があるので、中止した方がいいかもしれません。」
T「そうだね、カルシウム拮抗薬で浮腫んでしまって、フロセミドが処方される。
よくある処方カスケードですね。
いいと思います。」
O「後はリクシアナを飲んでいるので、腎機能悪かったりしたら、
効きすぎて血腫や出血傾向になっているかもしれません」
T「その通りですね。凝固系は確認しておきたいところです
ありがとうございます。
そんな感じでOKです
ある症状をみたときに、すぐに病気がなんだろう?
と考えるのもいいのですが、
同時並行で、薬害の可能性はないか?
と考える癖をつけておきましょう。
では、他に聞きたいことはありますか?」
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ROS:体重の推移不明、血便なし、血尿なし、悪寒戦慄なし、転倒歴なし
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ディスカッション②何を考えて、どう動く?
T「実際はバイタルが良くないので、病歴-診察-検査-治療が同時並行で進むと思います
この後、診察していくわけですが、何かを疑わないと見落としてしまいます。
この時点で何が思い浮かんでいますか?」
O「蜂窩織炎や丹毒といった感染症を考えています。」
T「そうだね、もう一声。
この前の進化する感染症っていうレクチャー聞いた?」
O「はい、聞きました。えっと、壊死性筋膜炎も鑑別になります」
T「その通り!
よく覚えててくれたね。あのポケモンレクチャーを(笑)
感染症は放っておくと、どんどんひどくなって進化(悪化)してくるっていう話ですよね。
皮膚軟部組織感染症だと、
丹毒、蜂窩織炎、皮下膿瘍、壊死性筋膜炎、化膿性筋炎、骨髄炎みたいな感じですね。
もちろん、この流れで進むわけではないですし、
いきなりすっ飛ばすこともありますので、あくまでイメージです。
今回であれば、蜂窩織炎と思わしき人がショック状態になっている。
蜂窩織炎 + ショック = 壊死性筋膜炎
とまずは考えちゃっていいです。
そして、この状況ならあと2つ考えておかなければならないことがあります。
なんだかわかりますか?」
聴衆・・・
TR「TSSですか?」
T「その通りです!
蜂窩織炎の原因菌として、ブ菌や溶連菌で、
さらに毒素産生するタイプであれば、TSSを合併することもあります。
第二の公式として、
蜂窩織炎 + ショック = TSS
これも忘れないようにしましょう。
TSSと壊死性筋膜炎を見極めるためには、TSSの所見を取りに行く必要があります。」
T R「全身の紅斑や目の充血ですか?」
T「そうです。あとは下痢も重要です。
今回のようにショックバイタルだと皮膚の紅斑がわかりにくいことがしばしばあります。
皮膚を押してみてはじめてわかる紅斑もあります。
White Island in the Red Sea
というのは、デングの皮疹でよく言われるタームですが、
TSSの時もそんな感じになります。
押したところだけ、薄ら紅斑が消退して、白い島状に見えます。
これは疑って、皮膚を押さないと見落とします。
TSSは菌の量が問題ではありません。
菌が一匹でもいたら発症する病気と覚えておきます。
ドレナージの必要性がとても高い疾患です。
この時点で 蜂窩織炎 + ショック = 敗血症
という公式をまず、思い浮かべてしまうと、
血培とって抗生剤点滴までは一緒ですが、
TSSと壊死性筋膜炎のようなドレナージが必須な疾患を見落としかねないので、
まずはこの二つを思い浮かべてください。
そして、もう一つ。なんでしょうか?」
TR「DVTや化膿性血栓性静脈炎ですか?」
T「うーん、というより、DVTからの肺塞栓ですね。
何はともあれ、ショックで足が腫れてるからね。
だから頸静脈もみるし、早めに心臓に超音波を当てたいですね。
さて、実際はどんな所見でしたか?」
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身体所見
頭頸部 特記事項なし
胸部 心雑音なし crackleなし
腹部 圧痛なし 脊柱巧打痛なし 褥瘡なし
左下腿に地図上の紫斑あり
周囲は発赤・腫脹・水疱形成あり
発赤を超えた範囲に疼痛あり
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ディスカッション③どう動きますか?
T「わーお、教科書的な壊死性筋膜炎の皮膚所見が揃っていますね。
この後、どうしましょうか?」
O「血液培養とって、抗生剤の点滴を開始します。
輸液を行って、血圧上がらなければNA使います。
壊死性筋膜炎を疑っているので、整形外科にコンサルトして、
試験切開をお願いしたいと思います。」
T「素晴らしい、その通り!
うちはすぐに整形の先生が開けてくれるから、とても助かります。
だからこそ、内科医もそれなりの準備をしておく必要があると思っています。
詳しくはwebで。笑」
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実際の経過
N「実際はみなさんのいう通り、整形外科にすぐコンサルトして、試験切開が行われました。
ですが、dish water signやfinger testも陰性で、
G染色も陰性で、後日の病理でも壊死性筋膜炎の所見はありませんでした。
結局、抗生剤の点滴で改善しました。
見た目の皮膚所見が派手で、バイタルも悪かったので、
絶対に壊死性筋膜炎だと思ったら、蜂窩織炎だったという印象的な症例です。」
T「そうだったんですね。それはよかったです。
一番、happyな経過です。
でも逆は良くない。
この皮膚所見とバイタルからは誰がどうみても、壊死性筋膜炎を考えます。
マネージメントとしては、全く問題ないというか、
素晴らしかったと思います。
あえていうなら、超音波検査はしておいてもよかったかもしれませんね。
はい、では今日は壊死性筋膜炎かと思ったら、蜂窩織炎だったという症例でしたね。
勉強になりました。ありがとうございました。」
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