2024年7月14日日曜日

超難治性アナフィラキシー

7月になり、夏が始まりました

もうすぐ夏休みで、野外活動も増えてきます


この地域の夏の救急といえば、

熱中症・蜂刺されのアナフィラキシー・滑落 です


皆さんの地域ではどうですか?



この地域は涼しいので、10年前は熱中症なんて見たことありませんでしたが、

最近は超重症の熱中症の患者さんが多く搬送されてくるようになりましたね・・・



救急診療は何度も反復させて、

頭を使わなくても「反射」で動けるようになると良いです


ある程度「反射」で動けるところと、

反射で動かずしっかり考えるところを分けるのが大事です



アナフィラキシーの初期対応は「反射」で動ける必要があります

あまり考えることはありません


いかに早く、アドレナリンを筋注できるかが重要です


しかし、アドレナリンを2回筋注しても循環動態が改善しない場合は、

「反射」は使えません


ここから先は、しっかり考えることが必要です



アドレナリンを2回筋注しても循環が悪い場合は、
難治性アナフィラキシーとして対応が必要になります


inをあまり入れていないことが多いので、
しっかり外液も入れてましょう


日本のガイドライン(2022)では成人の場合、
最初の5-10分間で5-10ml/kg投与すると記載されています


難治性のアナフィラキシーの診断をすると同時に、
色々と考えることがあります



難治性のアナフィラキシーと診断することは容易ですが、
「反射」でアドレナリン持続注射をすれば良いかというとそうではありません


なぜ、アドレナリン筋注が効いていないか考える必要があります


NEJMのケース(Case 22-2023)にもありましたが、
kounis症候群でないか確認する必要があります

なるべく早めに心電図と超音波検査を行います


流れとしては・・・

搬送された後、病歴と診察とバイタル測定を同時に行います

ABは確保されており、循環動態のみ破綻している場合、
即座にアナフィラキシーショックと診断し、
アドレナリン0.5mg筋注(成人の場合)を行います



次のアドレナリン筋注までの5分間で
点滴がとられていなければ、2本ルート確保し外液を全開で投与します

そして、心電図と心臓超音波を行います


アドレナリン投与も不整脈リスクがあるため、
必ずモニターはすぐにつけましょう


病歴やカルテで内服薬や既往歴をチェックします

βブロッカーの内服が判明すれば、
早めにグルカゴンの投与を考えますが、まずはアドレナリンからでOKです



そして、血圧低下が遷延し、2回目のアドレナリン筋注が必要であれば、
筋注後、RUSH examを行い、他のショックの可能性を探ります




アナフィラキシーの病態は、肥満細胞から脱顆粒したヒスタミンをはじめとした
炎症性メディエーターが体中に作用します


ヒスタミンをはじめとした多くの物質が作用し、
血管がだるだるになって、もれもれになります


時間と共に出てくるメディエーターは異なり、
症状が持続することがあります


アドレナリンは強いα/β作用を持ち、炎症性メディエーターの放出を抑えるので、
アナフィラキシー治療の第一選択となります


アドレナリンはアナフィラキシーの大元を断ち、
だるだるな血管を締めあげてくれます


ただ、もれてしまった水分はアドレナリンでもどうしようもありません


アナフィラキシーショックは分布異常性ショックでありながら、
循環血漿量減少性ショックでもあります


もれてしまった分は外液を補充しましょう



アドレナリンの効果が乏しい場合は次なる治療を考えます




ここから先の治療に慣れている先生は少ないと思います


なので、すぐに検索して治療方法を確認します


血圧が下がっており、焦っている状況ですので、
一度、まとめておいた方がいいかもしれません



アドレナリンの持続注射が必要な時点でICU入室は確定です
ICUに入ったらCVとAラインをとる準備を行います


場合によっては挿管・人工呼吸器管理も検討するタイミングです


アドレナリン持続点滴が著効し、経過がよければ
慎重に経過をみれるかもしれません


ですが、末梢からアドレナリン持続点滴をした場合、
漏れると皮膚壊死のリスクがあります

血圧計もアドレナリン持続点滴側は避けましょう


すぐに漸減中止できないのであれば、CVを確保したほうがよいでしょう


アドレナリン持続注射は不整脈のリスクも高いです

そのため、すぐに除細動器を使えるようにスタンバイしておきましょう



アドレナリン持続点滴と共に考えるのは、グルカゴンです

βブロッカーを内服していなくても効果はあります


アドレナリン持続点滴は本当に不整脈発作が怖いので、
グルカゴンをまずは試してみてもよいと思います



救急の坂本先生の言葉で、



アドレナリン、アドレナリン

それでもダメなら

グルカゴン


という合言葉があるように、
グルカゴンはβブロッカーを内服していなくても効果があります



グルカゴンを使う時は、ゆっくりIVすることと、
嘔吐する人が多いので、
吐かれるだろうな・・・と思いながら使うことが大事です


グルカゴンを使うと、一時的に血圧は上がることが多いですが、
またすぐに下がってきますので、グルカゴンの持続点滴に移行します



グルカゴンの持続点滴の問題点は、
グルカゴンの院内在庫が十分ではないことです



薬剤部の院内在庫が限られている場合は
院内のグルカゴンを探しに行かなくてはなりません


内視鏡室やカテ室など院内中のグルカゴンをかき集めないと、
持続点滴がもたないこともあります




難治性アナフィラキシーの流れです


アナフィラキシーの診療には、

ギアチェンジのタイミングが2回あると思っています


1回目はアドレナリン筋注を2回しても効果がないタイミングです


難治性アナフィラキシーとしての対応が必要になります




ICU入室後、アドレナリンやグルカゴン持続点滴を行っても、
まだ循環動態が安定しない場合、2回目のギアチェンジのタイミングです


グルカゴンまで使っても血圧が安定しない時は、
再度、RUSH examを行ったり、病歴の再確認をしたり、
患者さんの病態を考えます


その時点で末梢がまだ開いていて、
ポカポカしているのであれば、NAやピトレシンは良い選択になるでしょう


IVCが虚脱していてVTIが低い場合は、Volumeの問題かもしれません



ショックによる相対的心筋虚血やKounis症候群、タコツボ型心筋症の併発によって、
心原性ショックに至っている症例もあります

トロポニンや心電図、UCGを再検する必要があります



乳酸が上がり続け、頻脈で末梢が閉まりすぎている時は、
アドレナリンが効きすぎていると考え、
アドレナリンの減量を検討します



このセッティングで覚えておいた方が良いのは、

アドレナリンで乳酸が上昇し、
グルカゴンでケトンが上昇し、
大量の生食で高Cl性代謝性アシドーシスになります



循環がよくなっても、代謝性アシドーシスが悪化していく場合は、
治療の悪影響を考えます



これだけ手を尽くしても、改善がなければ、
薬の最終手段は、メチレンブルーです


メチレンブルーの投与方法はその都度確認するとして、
そもそも院内在庫があるかを確認します


それでもダメなら、PCPSとなります




最後に

アナフィラキシー診療で最も大事なことをお伝えして終わります



これまでは超難治性のアナフィラキシーについて解説してきましたが、
ここまで重症例には、滅多に出会いません


圧倒的に単発のアドレナリンの筋注で良くなるアナフィラキシー症例ばかりです


そこで研修医の先生は、アドレナリンの筋注をできるだけ早く、
自分で実際に打たせてもらってください



なぜかというと、
アナフィラキシーはいつでも、あなたが第一発見者になる疾患だからです


そして、アドレナリンの投与を躊躇うことが、
上記のような難治性のアナフィラキシーにつながってしまいます

下手したら、命を落とす場合もあります


実際に自分で筋注することで、
アドレナリンの筋注の心理的なハードルを取っ払うことが重要です



自分も最初は抵抗がありましたが、
救急の上司があえて、自分に注射をさせてくれました

その時から心理的なハードルがなくなりました


1回目のアドレナリン筋注は鮮明に覚えていますが、2回目以降は覚えていません


0と1には大きな違いがあるのです




まとめ
・難治性アナフィラキシーの診断の前にアドレナリン筋注の効果が乏しい原因を探る
→実はKounis症候群、実はβブロッカー内服、実は他のショックを合併

・アドレナリン、アドレナリン、それでもダメなら、グルカゴン
→βブロッカーの内服の有無は問いません

・超難治性アナフィラキシーの治療は、個別化が求められる
→その都度、患者さんの中で起こっている病態生理を考え、トライアンドエラーで治療を行う


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