2022年5月12日木曜日

昨日元気で今日ショック、皮疹がなければ・・・①

 70歳 女性 主訴:意識消失

(※症例は加筆・修正を加えています)


Profile:RAでアクテムラ使用中、ADL フル


現病歴:来院当日の午前中まではいつも通り元気 

    午後から吐き気あり、悪寒戦慄あり、

    その後、意識消失したため救急車で来院


既往:関節リウマチ、骨粗鬆症

内服:デノタス、プラリア、アクテムラ

生活:ADLフル、独居

予防接種:肺炎球菌ワクチン2回接種ずみ


バイタル BP 120/80. P 80,SPO2 95%,RR 20, T 36.8、意識 清明

身体所見は特記すべきものなし 皮疹みられず


血液検査 WBC 6000, Hb 12, Plt 28万, CRP 0, 肝胆道系酵素・腎機能 問題なし

尿検査 膿尿なし 細菌尿なし

単純CT  肺炎像なし、胆嚢壁肥厚なし、膵腫大なし、腹水なし、腸管壁肥厚なし

血液培養 採取


経過

悪寒戦慄や吐き気、意識消失で救急車で来院したが、

来院後は症状なく、バイタルも安定していたが、経過観察目的に入院となった


入院後、嘔吐や強い背部痛が出現

造影CT撮影されたが、大動脈解離や膵炎像はみられず

胸部〜腹部大動脈周囲に脂肪織濃度上昇あり

縦隔にも炎症所見あり

膵臓周囲に液体貯留あり

他に感染源となる部位はみられず


その後、ショックバイタルになり、乳酸上昇・乏尿あり

敗血症性ショックとして広域抗生剤開始

ICU入室しCVやAラインを留置

大量輸液とノルアドレナリン投与開始


心原性や閉塞性ショックはなし

皮疹みられず


背部痛や膵臓周囲の液体貯留あり、重症膵炎疑いで入院となった

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考察


来院当日の午前中まではいつも通りでしたが、

午後から夕方にかけてショックに至っています


膵炎疑いで入院となりましたが、膵臓腫大はみられず、

膵酵素の上昇もないため、膵炎ではないと考えられました



この急激な経過は感染症です


「昨日、元気で今日ショック。皮疹があれば儲けもの」


という青木先生のパールがありますが、まさにその経過です


この経過であれば、鑑別は逆に絞られます


・TSS/STSS 

・髄膜炎菌感染症 

・リケッチア感染症 

・脾臓がない人の肺炎球菌/インフルエンザ桿菌/髄膜炎菌/Capnocytophaga感染症 

・肝臓が悪い人のVibrio vulnificus/Aeromonas hydrophila

・黄色ブドウ球菌などによる急性感染性心内膜炎


今回は皮疹はありませんが、上記疾患も鑑別になります


何らかの感染症であることは間違いないため、型のごとく感染症の三角形に当てはめます


感染症の三角形


 


①患者背景

まずは患者背景がなんといっても大事です

患者背景は3つに分けて考えます

(1)免疫:皮膚バリア、局所の免疫(気管支の繊毛運動etc)、好中球、
       細胞性免疫、液性免疫(脾臓の有無etc)、薬、腫瘍、DM、CKD、LC

(2)暴露:食事、人(シックコンタクト、性行為、結核、小さな子供etc)、動物、
       虫、淡水(カヤック、カヌーetc)、海外渡航、職業

(3)余力・全身状態:バイタル、基礎疾患(心臓、腎臓、肺、肝臓etc)、
             認知機能、余命、人生観



 今回の症例では、RAに対してアクテムラを使用中でした

 生物学的製剤は一般細菌感染症や結核のリスクをUPさせます


 アクテムラはCRPが0になるという危ない薬です
  
 そのため、アクテムラを使っていてCRPが0でなかったら、やばいと思った方が良いです 


 今回の症例はCRPは0です


 CRP based medicineをしているDrは気をつけてください


 曝露は特にありません 小さな子供との接触は1ヶ月前に孫にあった程度でした

 余力はありませんね。バイタルが危険な値になっています
   乳酸上昇や乏尿が出現しており、ショックといって良いと思います



②部位

 次に感染症を疑うのであれば、感染部位を考えます


 今回の症例では背部痛が急激に出現しています
 CTでは大動脈周囲の炎症がありました

 それ以外に画像上もfocusとなる部分はなく、暫定的に感染性動脈炎という診断になりました

 背部痛は大動脈の炎症のためか、もしくは椎体や硬膜外膿瘍の危険もあります


 エントリーになる部位はなく、primary bacteremiaです

 小児では有名ですが、高齢者でもよくあります


 高齢者の菌血症の4人に1人はprimary bacteremiaです

       Enferm Infecc Microbiol Clin . 2007 Dec;25(10):612-8.

 

③微生物


高齢者のprimary bacteremiaはGPC(ブドウ球菌、GGS)かGNR(腸内細菌)が多いです
 

感染性動脈炎の原因といえば、サルモネラや黄色ブドウ球菌、梅毒、結核などです

血液培養陰性の感染性大動脈炎との戦いは本当に辛いです







動脈炎ではなかなか鑑別は絞られませんが、
この急激な経過は、A群β溶連菌(GAS)や侵襲性肺炎球菌ですね

肺炎球菌ワクチンは接種済みであり、GASの可能性が最も高いのではないかと思いました


ですが、GASの急激な経過を疑った時は、同時にGGSも鑑別になります



④治療


感染症で最も大事な治療は、ドレナージです


特にTSSやTSLSでは、非常に重要です


今回の症例は毒素病態(充血、皮疹、下痢)はありませんでしたが、

TSSやTSLSの除外はできない状況です


TSSやTSLSは「一匹でもいたらショックを離脱できない」と考えよ

と言われるような病態です


壊死性筋膜炎も同様の病態です


全身管理はもちろんですが、

同時並行でドレナージすべき部位があるかを一生懸命探す必要があります


今回の症例では造影CTまで施行しておりますが、どこにもありませんでした


そうなると全身管理と抗生剤しかありません

余力がない敗血症性ショックの状況ですので、エンピリックに治療を開始します


TSSやTSLSといった毒素病態を疑った場合は、

クリンダマイシンやIVIGも追加で投与されることがあります


今回の症例では明らかな毒素病態はなかったため、クリンダマイシンの追加は行いませんでした



そんなことを考えていたら、入院翌日の午前中には血液培養陽性の報告がありました


なんだと思いますか?



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