2018年7月18日水曜日

高齢者の目撃者のいない転倒

高齢者が転倒し、頸部骨折疑いで搬送されることはよくあります

目の前で転倒してくれる人は少数で、

大多数は人目につかず、転んでいます




発見された時は、転倒後の骨折に目がいってしまう事が多く、

救急隊も慣れているので、頸部骨折疑いです

と電話してしまいます


そうすると、救急医も、また整形外科疾患が来るという

凄まじいバイアスの中、診療が始まります


ちょっとできる医者なら、転倒の受傷機転が不明だから、

JATECに乗っかって診療をするでしょう


しかし、その結果、

骨折があった!

整形外科コール!

手術!


という流れに乗っかってしまうと、

でも、何でこの人転んだんだろう?

という根本的な原因があやふやになってしまうことはよくあります


これは自動車単独事故と全く同じ構図です



結局、患者さんは転倒後の修飾がかかった状態で、

我々の前に現れます

目の前の患者さんのバイタルや意識レベル、血液検査の異常は、

全て外傷後の変化で説明がつけられるのか

ということを自問自答しなくてはなりません


もし、外傷でこの異常はおかしい、転倒して骨折だけでは説明がつかない


と違和感を抱いたら、それは無視してはいけません

人間は楽しようとする生き物なので、多少の違和感は気がつかないふりをします

自分のいいように解釈をしてしまいます


外傷後でショックだけど、

何だか皮膚あったかいなあ

普通、出血性ショックなら、冷たくなるのに

なんか変だけど、まあ、そんなこともあるか

といった具合です


ではどうすれば、見逃しが減るかというと、

転倒前に空白の時間があるのであれば、

その空白の時間を大事にします

まずは空白の時間があることを認識することからです


後で、その空白の時間は埋まる事があります


埋まらなければ、想像力を働かせます


ここでもシャーロックホームズになった気分で、情報収集します






実例を挙げます

転倒して、後頭部にたんこぶを作った人が入院になるとのこで、

見に行くと、救急医は頭部の挫創を縫合中でした

バイタルは安定しているという情報でしたが、縫合中にショックになっていました


転倒しただけという触れ込みで、目立った外傷も頭だけだったので、

全身検索がされていませんでした


急いで、全身のCTをとると、骨盤骨折していました


一つ目の教訓として、高齢者は高エネルギー外傷でなくても、

ただ転んだだけでも、骨盤折れます



二つ目の教訓は、転倒した原因に思いをはせることです



CTをよく見ると、

この患者さんは気腫性膀胱炎になっていました


外傷の変化にしては違和感があり、

尿培養と血培をとって、敗血症性ショック合併として抗生剤を投与しました


翌日には2/2でGNRが生えました


結局、敗血症でフラフラして、転倒したというのが、オチでした



目撃者のいない外傷にであったら、是非、

内科医と外科医が協力して

対応するのが望ましいと思います

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