2021年1月9日土曜日

鷹にご用心 〜東京GIMカンファレンス(後半)〜

 前半まとめ


数十年来の乾癬でステロイド内服中の90歳女性

認知症もあり、ADLはベット上で人生の終末期を迎えているといっても過言ではない方


尿路感染症を繰り返しており、今回も発熱・食思不振があり、

膿尿や細菌尿を認め、ピペラシリン・タゾバクタムで治療が開始となった

しかし、食欲低下は改善せず転院


ESBL 産生の大腸菌の腎盂腎炎として、セフメタゾールに治療変更し、7日間投与された

相対的副腎不全の可能性も考慮され、入院3日間はソルコーテフ100mgが投与された

食思不振や発熱はその後、改善し食事摂取ができるようになったが、

入院後、10日目を過ぎてから、徐々に食欲低下と意識レベルの低下が出現した

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他の先生からのコメント

「意識障害からすると、高カルシウム血症も考えます。

 マキサカルシトールは外用薬ですが、塗布でも高カルシウム血症をきたすことはあります。」

「ステロイドで改善したというのは、例えばPMRとかもあり得ますかね。

 PMRは痛みというよりも、意識障害で来ることがありますね」

「レボセチリジンが腎機能だとdoseが多いかもしれませんね」

「腎不全は腎後性とかではないですよね?」

「心不全はどういう原因なんでしょうか?」

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経過


血液検査を提出し、これで介入できる点がなければ、お看取りの方針で考えていた


ただ、入院2週間目の血液検査にて

カルシウムが13mg/dL(Alb 2.9)と高値であった


そのため、高カルシウム血症の診断で、

ゾレドロン酸2mg静注とエルシトニン80U/日の筋注が開始され、輸液も行われた。


その後、カルシウムの低下とともに食事量は上がっていった


高カルシウム血症の原因検索として、下記が行われたが、原因ははっきりせず

リン 4.2mg/dL

PTH-intact 13 pg/mL

PTH-rp  <1.0 pmol/L

1.25- Vit D  54.9  pmol/L

25- Vit D 7.2  ng/mL


胸腹部CT 粗大な固形がんは見られず、骨病変も認めず

皮膚生検 乾癬で矛盾しない、悪性細胞なし

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ディスカッション②高カルシウム血症の原因は?


K先生「意識障害があって、腎障害があって、脱水の場合は考えなければならないですよね。

   

   一般論から言うと、

   内科外来で見つかるようなゆっくり来るタイプの高カルシウム血症は、

   副甲状腺機能亢進症の方が多いですね。

   健診で見つかるような場合なので、症状はないことが多いです。

   高くても12くらいでしょうか。

      

   救急に来るような症状を伴っている高カルシウム血症の場合は、

   悪性腫瘍やビタミンD中毒が多いです。

   13〜くらいになると意識障害が出現してくるので、

   治療はゾメタとかエルシトニンを使います。

   輸液も必要になって、AKIを改善させる意味とカルシウムを排泄する意味があります。


   今回はPTH-intactが低めなので、副甲状腺機能亢進症ではなさそうですね。

   悪性腫瘍もrpの方も低いので、違いそうですね。

   他には肉芽種性疾患も鑑別ですね。

   サルコとかの肉芽腫性疾患では、ビタミンDの活性化をきたしてカルシウムが上がります。 

   後は不動とかでも上がりますが、ここまで病的に上がることは少ないですね。


   やっぱり、薬剤と悪性腫瘍関連がトップ2ですね。

   特に薬剤ではエディロール®︎が半減期が長く、作用が強いので、特に注意しないといけないですね。

   今回はマキサカルシトールの外用ですけどね。











   外用でもNSAIDsの湿布でも腎不全になったり、

  ステロイドの外用薬をずっと塗っていても、副腎不全になったりするので、

  外用薬は注意が必要ですね。」


N先生「今回のケースでは高カルシウム血症が原因になりそうですが、

   これまでの経過、つまりG群の菌血症になったり、感染症を繰り返したりしているのは、

   今回の高カルシウム血症が原因なのか、他の背景があるのかなと思ったりしています。


   ソルコーテフ100mgでいきなり良くなっているのは、なんでしょうかね。」


K先生「ステロイドに関して言うと、ステロイドの作用の食欲亢進作用や

    カルシウムの排泄を亢進させるので、

    昔はステロイドも高カルシウム血症の治療に使ったこともあるみたいですが、

    効果も高くないので、今はもう使わないですね。


    利尿剤も今ではあまり使いません。輸液で十分なので。

    あまりに高ければ、透析するってことにはなりますからね。」


H先生「ちなみに結核ではどちらのVDが上がるのですか?」


N先生「1.25の方です。活性化されてしまうので。

    25を測るのは、材料がビタミンD不足があるかどうかです。」


T「高カルシウム血症はピットフォールが多いです。

  高カルシウム血症をみると、そこに飛びついてしまって、原因検索だー!

 ってなって、他の原因が見えなくなってしまうことがあります。

  

  オッカムだけではなく、ヒッカムを高齢者の場合は常に考えるべきで、

  高カルシウム血症は症状が多いからこそ、全てを高カルシウム血症で説明しがちですが、

  他にも何か原因がないか?という視点はまだ捨てきれないと思っています。


  今回の高カルシウム血症の原因は、おそらく外用薬でしょう。

  乾癬の皮膚の状況が現在どうなっているかわかりませんが、

  紅皮症になるくらい荒れていたり、

  菌血症になるほどバリア破綻がひどいようなので、外用薬の吸収もUPしていると思います。

  

   なので、ここで気になるのは、

  今の皮膚の状況と外用薬が入院後も塗られていたかどうかを聞いてみたいです。」


K先生「そうですね。

   今までも塗られていたはずなのに、なんでここで高カルシウム血症をきたしているか気になりますね。」


発表者「皮膚は頭まで全身真っ赤かで、鱗屑が出ているような状況です。」


T「ありがとうございます。

  あとは、乾癬もピットフォールが多くて、乾癬の診断がどれくらい正しかったのか、

  どういう検査で乾癬の診断が着いたのかが気になります。

  

  実はT細胞性のリンパ腫だった、とかもたまにあるので注意が必要かと思いました。」


発表者「私も皮膚は悪性腫瘍かと思いました。

   ですが、これまでの皮膚科のカルテを見ても、何度か生検はされていて、

   乾癬に矛盾しない結果で、悪性所見は一度も見られていませんでした。」


K先生「ティアニー先生のパールに治らない乾癬は、

  T細胞性リンパ腫を考えるというのがありますよね。

   ステロイド塗ると、微妙に効いたりするので、診断が難しいです。」


T「そうですね。

 もう一つ、治らない乾癬を見たときは、HIV感染を考えるというパールがあります。


 HIV感染している人の感染は重症化したり、治療が難しいということが知られています。

 一般論ですが、梅毒の皮疹も乾癬に似る時があるので、もっと早い段階であれば、

 梅毒も一度は考えなければならないと思います。」


S先生「乾癬の人にステロイドは出来るだけ使いたくありません。

   けど、実際は使われます。

   

   どうして、使いたくないかというと、乾癬にステロイドを使うと、

   減らしてくるタイミングで紅皮症になることがあります。

   

  乾癬のタイプの中で紅皮症はイッチバン悪いタイプです。

   

   僕らもみたくありませんし、作らないようにしています。




   

   この方の歴史を紐解くと・・・

   おそらく、最初はこの方は違うタイプの乾癬だったと思います。


  でも治らなくて、ステロイドが開始されて、

  ステロイドを減らすと紅皮症っぽくなってしまって、  

  熱が出たり、食欲が低下したり、副腎不全っぽくなって、

  ステロイドが増やされて、

  ステロイドが長期にわたってしまって、PCP予防でバクタが始まって・・・


   みたいな歴史があるのだと思います。


   今は乾癬の治療はいいものがたくさん出ているので、ステロイドは基本は使いません。

   ですが、安いですし、いい薬ではあるので、ガイドラインにはまだ残っています。


   この人はステロイドが入っていたのは、いろんな事情があったとは思いますが、

   紅皮症になったのは、そういう背景があったと思います。


   なので、皮膚科のカルテを紐解くことはとても大事です。」



発表者「ありがとうございます。私もとても気になって、皮膚科のカルテをみてみましたが、

   日向過敏症など、いろいろな病名がついて、結局は乾癬に落ち着いているようでした。」

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経過


皮膚科医師より

外用薬のマキサカルシトールでも高カルシウム血症が起こるので、外用薬がロコイドに変更になった

その後は、高カルシウム血症を繰り返すことはなかった


マキサカルシトール外用薬の処方量を確認すると、50gを3日間のペースで消費していた

(週100g超のペース)


よくよく家族にも聞いてみると、家では節約して薄ーく使っていた

入院してからは、皮膚の状態が酷かったので、ベットり塗られていたことがわかった

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ビタミンD外用薬と高カルシウム血症


・乾癬の治療薬として標準的に用いられており、局所副作用が少ないため、認容性が高く広く用いられている

・全身の副作用として、高カルシウム血症が知られているが、

 使用上限を100g/週にすることでリスクを減らすことができる

・高カルシウム血症をきたしやすい患者群は、

 高齢者、腎機能障害、紅皮症、膿疱性乾癬患者


・マキサカルシトールは22位のCがOに置換されており、1.25-VDの測定には影響がない

 1.25-VDが上昇しないことはよくある


ミルク・アルカリ症候群からカルシウム・アルカリ症候群へ

・以前は消化性潰瘍の治療は牛乳(粘膜保護)とアルカリ(中和)の投与で、ミルクアルカリ症候群と言われた

→PPIの登場でミルク・アルカリ症候群は減った


・活性型VD→Ca濃度上昇→尿細管Ca濃度上昇

→Na排泄が進み、循環血漿量低下→近位尿細管での重炭酸の再吸収UP

→PTH分泌低下→重炭酸再吸収UP

その結果、高Ca血症+腎障害+代謝性アルカローシス


内服薬以外の副作用にもご用心を



・ステロイド外用薬による副腎不全

・β遮断薬の点眼による起立性低血圧

・NSAIDS貼付薬による消化生潰瘍、アスピリン喘息

・ステロイド吸入薬による副腎不全

・グリセリン浣腸による溶血性貧血

・フェントステープの貼りすぎによる麻薬中毒



鷹にご用心

→他科にご用心

→他科処方にご用心




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