特に基礎疾患なし
診察では末梢性パターン
⇨ベル麻痺で入院
症例2 80歳 男性 主訴:右顔面が歪んでいる
肺がんで治療中
診察では末梢性パターン
⇨ベル麻痺で入院
症例3 60歳 女性 主訴:右顔面が歪んでいる
シェーグレン症候群で経過観察中
診察では末梢性パターン
⇨ベル麻痺で入院
症例4 70歳 男性 主訴:右顔面が歪んでいる
vascular riskあり
診察では末梢性パターン
⇨ベル麻痺で入院
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「ベル麻痺」という診断名をつけるのは、やめにしませんか?
上記はいずれも実際にあった誤診例です
症例1はよく診察すると、右耳介がわずかに発赤がみられ、
外耳道付近に水疱の出来かけの皮疹がみられました
耳が赤いかどうかは、実際はとても難しいですが、
左右差を比べると分かります
症例1はラムゼイ・ハント症候群でした
症例2は肺がんで治療中というのがポイントです
よくよく診察すると、嚥下困難もありました
CTやMRIを取っても脳梗塞や出血はありませんでしたが、
よくみるとMRIで側頭骨がDWIで高信号になっていました
症例2は肺がんの側頭骨の骨転移による顔面神経麻痺でした
症例3はシェーグレン症候群という背景がポイントです
シェーグレン症候群は顔面神経麻痺を発症することがあると知られています
治療はベル麻痺と大きく変わりませんが、
髄膜炎や他のニューロパチーを伴っていないか、確認する必要があります
症例3はシェーグレン症候群に伴う顔面神経麻痺でした
症例4はvascular riskがあるというのがポイントです
MRIを撮ると橋の背側に小さな脳梗塞がありました
顔面神経核が障害された場合は、末梢性パターンになるので、
中枢性=脳梗塞、末梢性=ベル麻痺というわけではありません
症例4は脳梗塞でした
末梢性の顔面神経麻痺=ベル麻痺ではありません
ベル麻痺という診断は、なんだか診断した気になってしまう変な錯覚があると思いますが、
よくよく考えると、原因はわかりませんって言っているだけです
原因不明ということは、特発性です
もっと平たくいうと、ゴミ箱診断です
末梢性の顔面神経麻痺の人にベル麻痺ですね、と
ドヤ顔で言っている場合ではありません
ベル麻痺という診断をつけることは、もっと謙虚であるべきです
病歴や診察を行い、他の疾患を本気で探し十分に検討しましたが、
現時点では残念ながら末梢性の顔面神経麻痺の原因は不明ですので、
暫定的にベル麻痺という病名をつけさせていただきます・・・
くらいがちょうどよいと思います
そもそもベル麻痺は、
1830年に報告された原因不明の急性発症片惻性顔面神経支配筋麻痺を呈する症候群です
時代は進み、現在はベル麻痺の主な原因として、単純ヘルペスウイルスの関与が示唆さされており、必ずしも原因不明ではありません
ただ、実臨床では単純ヘルペスウイルスによって起きたことが簡便に証明できないため、
まだベル麻痺という病名が残っています
もしベル麻痺という診断名をつけたいのであれば、他に原因がないかをひたすら探した後にしてください
⓪ベル麻痺の人は糖尿病が背景にある人が多い
糖尿病による脳神経麻痺は動眼神経麻痺が有名ですが、
顔面神経麻痺も虚血の関与が疑われています
この時点で特発性じゃないじゃないか・・・というツッコミもあります
妊娠している人にも起きやすいということも知られています
(理由は凝固活発や体液量増加による浮腫などが考えられています)
急性に起こった末梢性パターンの顔面神経麻痺だから、ベル麻痺かな?
と思ったら、グッとこらえて他の疾患を探しに行きます
①なんといってもVZV
皮疹が出ないタイプはみなさんご存知かと思います
Zoster sine hepete(ZSH)ですね
ですが、時間が経つと皮疹が出現してきたり、
皮疹が出ていても気がついていない、ということもあるので、
安易にZSHと診断するのはよくないです
見落としやすいのは、外耳道や耳介、口蓋の皮疹です
耳の痛みが強い場合や重症の顔面神経麻痺の場合は積極的に疑いましょう
顔面神経麻痺は後遺症が残る可能性があるので、最初の治療が肝心です
重症例では閾値低めに抗ウイルス薬の治療を検討します
VZVの証明はペア血清での抗体値の上昇や
耳介皮膚擦過液や髄液、涙のVZV-DNAをPCRで検出するなど色々報告されています
抗体値はすぐには判明しませんし、
PCRは一般の病院では難しいのが現状です
もう少し簡便に証明できるキットが生まれるのを待ちたいと思います
それまでは、しっかり皮疹を探すことに尽きます
②実は脳梗塞じゃないか?
まずは末梢性か中枢性かを分けることが第一歩です
末梢と中枢の診断のポイントは
①autonomic-voluntary disscociationの有無
②おでこの皺寄せ
③Bell現象
④味覚障害や音の過敏の有無
です
ですが、末梢と中枢を見分けられても、末梢性パターンの中に脳梗塞が混じっています
末梢性だと脳梗塞はない
と勘違いしている人がいますが、
末梢性パターンでも脳梗塞のことはあります
ではどうやって脳梗塞を見極めるかというと、
vascular riskと他の神経症候です
顔面神経核が障害されれば、末梢性パターンの顔面神経麻痺になりますが、
顔面神経核を栄養しているのは、AICAです
そしてAICAは顔面神経核だけではなく、内耳にも栄養を送っています
(AICAから分岐する内耳動脈)
つまり、AICA梗塞の場合は、内耳症状(耳鳴り、難聴、めまい)を伴うことが多いです
ですが高齢者の場合、もともと難聴があったりすると、難聴が新たに起きても気がついていないこともありますので、訴えがなかったからといって除外はできません
自覚症状に頼らず、ウェーバー、リンネ試験を行いましょう
vascukar riskが高ければ、MRIの検査の閾値も低く考えた方が良いと思います
③MRIで脳梗塞がないからといって安心できない、骨は大丈夫?
特に肺がんや乳がんの既往や治療歴がある人の場合、
脳神経異常をきたしたら、身構えなければなりません
骨転移による脳神経症状が知られています
CTやMRIをその目でみると分かりますが、
その目で見ないと見落とします
④小児の場合、中耳炎じゃないか?
抗生剤が普及したため、今は少ないですが、
特に小児の場合、中耳炎の波及から顔面神経麻痺を合併することがあります
また、稀ではありますが、糖尿病患者に悪性外耳道炎という緑膿菌感染に伴う
骨を浸潤していくようなタイプの感染症があり、
この疾患でも周囲の神経を巻き込む恐れがありますので注意が必要です
最近では、OMAAVと言ってANCA関連血管炎に伴う中耳炎の報告が増えています
高齢者の難治性の滲出性中耳炎が実はOMAAVだったということもあります
ANCA関連血管炎の診断がついている人で、難聴の訴えがあった場合は、
耳鼻科で診察してもらうことが重要です
顔面神経麻痺の原因が耳の中に眠っている可能性があるので、
耳鏡を使って外耳道から鼓膜までを観察しましょう
⑤実は癌じゃないか?
骨転移でなくても癌が原因で顔面神経麻痺は起こり得ます
有名なのは、顔面神経は耳下腺を通るので、耳下腺がんです
その場合は大体悪性です
耳下腺はしっかり触るようにしましょう
顔面神経鞘腫の場合も顔面神経麻痺を呈しますが、
最初のうちは小さいので、画像でもわからないことがあります
顔面神経麻痺を6回再発した症例で、
ようやくMRIで顔面神経鞘腫が見つかったという報告もありますので、再発例では注意が必要です
何度も同側の末梢性顔面神経麻痺を再発する人は、腫瘍を疑いましょう
⑥両側性であれば特に、サルコイドーシスやギランバレー症候群を疑う
もちろん、片側もあり得ますが、両側の場合はピンと来てください
サルコイドーシスの既往があれば分かりやすいですが、既往がない場合は、
皮膚のサルコイド結節を探してください
あと、レントゲンでBHLを探してください
⑦最後にライム病じゃないか?
出ました、ライム病
あえて、最後に持ってきています
海外では有名ですが、日本での報告はほとんどありません
だからこそ、見つけたいと常に思っています
ライム病の難しいところは曝露があってすぐに出現するわけではなく、
ダニに刺されてから数週間や数ヶ月後に出現してくることがあります
そのため、本人も忘れていることが多いですし、有名な環状紅斑も診察時はないことが多いです
病歴で山や林などへの侵入や
マダニに刺された覚えはないかを狙って聞く必要があります
はい、これで一周回りました
ここまで、考えたり、病歴を詰めて、何も引っかからなければ、
ようやく、「暫定」ベル麻痺という診断にたどり着きます
まとめ
・「ベル麻痺」という診断名は医者の思考をストップさせてしまう
⇨ベル麻痺はゴミ箱診断、積極的につけるような病名ではない
・ベル麻痺は実はHSV1の再活性化で起きているので、特発性ではなくなってきている
⇨ただ、HSV1が原因と断定する簡便な検査がないので、まだベル麻痺という病名で残っている
・どうしてもベル麻痺と診断したいのであれば、一周回る
⇨帯状疱疹でないか、脳梗塞でないか、骨メタじゃないか、中耳炎じゃないか、腫瘍じゃないか、GBSやサルコじゃないか、ライム病じゃないか?
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