80歳 男性 主訴:右側腹部痛(※一部、症例は加筆・修正を加えています)
Profile:HCCでTACE後の方
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ディスカッション①:システム1でどう考える?
T「はい、ありがとうございます。システム1とか2とかって聞いたことある?」
学「聞いたことはありますが、よくわかりません」
N「システム1は直感的思考と呼ばれるものです。
システム2は分析的思考と呼ばれ、網羅的に考えるものです。
初学者はこちらで考えなさいと習います。」
T「はい、ありがとうございます。では。システム3は?」
N「患者さんに聞いたり、pivot and clusterとして考えます。」
T「そうですね、システム3は志水先生が提唱したもので、他にも色々ありますが、
やっぱり、pivot and clusterの考え方が実臨床ではよく使われますね。
例えば、システム1で虫垂炎を思い浮かべたら、それをpivot つまり中心において、
虫垂炎と似ている病気をクラスターとして、思い浮かべます。
憩室炎や回盲部炎、鼠径ヘルニアなどですね。
では今回の症例は、システム1で考えるとなんでしょうか?」
学「癌の転移によって、イレウスが起きたとか。」
T「なるほど、ありがとうございます。システム1は経験値が重要なところです。
他の方はどうですか?」
M「HCCがあるので、そこから出血したとか?」
T「はい、そうですね。いわゆるHCCのraptureってやつです。
これは肝被膜に出るくらい大きなHCCであれば、腹腔内に出血してしまい、
数時間から1日、2日で亡くなってしまうことが多い疾患です。
他にも腫瘍内で出血したり、壊死したりすることもあります。
僕もここまでの文脈であれば、HCCの破裂や出血を考えたいです。」
Y「専門家から言わせていただくと、TACE後の右季肋部とか右側腹部痛っていうと、
胆嚢炎なんだよね。」
T「そうなんですか?どういう機序ですか?
やっぱり塞栓物質が胆嚢動脈に入る虚血ですか?」
Y「そうそう。」
TACE 後の急性胆嚢炎の発生頻度は0.31%と報告さ れ,その多くは塞栓物質の逆流などによる胆嚢動脈の 偶発的な閉塞によるものと考えられており,本症例の ように直接胆嚢動脈へリピオドールを注入してしまっ た症例は本邦では未だ報告がない.また,TACE 後 に発症した急性胆嚢炎の多くは保存的に治療可能であ るが,壊疽性胆嚢炎や胆嚢穿孔,気腫性胆嚢炎を合併 した患者では重篤な転帰をきたす可能性が高く早期に 胆嚢摘出術を考慮する必要がある
日臨外会誌 79( 8 ),1753―1757,2018
T「なるほど、経験の差でシステム1の鑑別が変わることがよくわかりました。
ありがとうございます。他はどうですか?」
U「帯状疱疹とかも鑑別ですか」
T「そうだね、痛みがあればまず帯状疱疹は考えるね。
でも、どちらかというと、いきなり考えるような疾患でなくて、
システム2的に網羅的に考えると、出てくる疾患かな。
システム2の時は、A(解剖)とB(VINDICATE)で考えるけど、
解剖の時に浅いところから深いところまで、臓器を考えます。
その際に皮膚を考えた時に、いつも帯状疱疹を思い出しますね。ありがとうございます。」
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バイタル BP 120/80, P 80 reg, SPo2 98% , T 36.1, 意識 清明
既往:もともとHCVからのHCCでTACEを1年前に施行
高血圧、便秘、パーキンソニズム
内服:酸化Mg、アムロジピン
生活:ADL 車椅子
現病歴:来院の4日前から血尿が出現
来院前日の夜に急に右脇腹にズキズキするような痛みを自覚
眠れないほどの痛みであった
来院当日の朝に救急外来をwalk inで受診
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ディスカッション②:他に何か聞きたいことはありますか?
T「血尿!?そっち???
この病歴を聞くと、また鑑別が変わりますね。どうでしょうか?」
学「尿路結石でしょうか」
T「そうなるよね。圧倒的に尿路結石に見えてきたね。
他の鑑別思い浮かばないくらいになっちゃうよね。笑
尿路結石以外に鑑別上がりますか?」
聴衆 シーン
T「上がらなくなるよね。血尿と右側腹部痛って聞いたら、
システム1では、圧倒的に尿路結石だよね。
だけど、ここで使うのが、pivot and clusterだよね。
尿路結石をpivotにおくと、どんな鑑別疾患が思い浮かびますか?」
M「この人の脈は整でしたか?」
Y「はい、整でした」
T「それはどういう意図ですか?」
M「尿路結石は腎梗塞も鑑別になると思うので、聞きました。」
T「はい、ありがとうございます。
そうですね、尿路結石がなかった時に次にどうするかを考えて動かなければなりません。
臨床家はギャンブラーではありません。
一本釣りもしません。
尿路結石でなければ、次はこれかな・・・
そうでなければ、次は・・・
みたいな感じで、臨床医はカードをたくさん持っていなければなりません。
尿路結石、腎梗塞、他にありますか??」
Y「尿管結石かと思ったら、必ず超音波をあてて、大動脈解離もみるようにしています」
T「そうだね、その通り。特に初発の尿路結石疑いは注意しないといけないね。
その場合、必ず解離や大動脈瘤の切迫破裂を考えましょう。
システム1を使って、尿路結石を思い浮かんだ後は、
尿路結石をpivotにおいて、clusterとしてAAAや大動脈解離、腎梗塞を考えます。」
T「他に何が聞きたいですか?」
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ROS
排尿時痛なし、血尿は真っ赤な色だった、褐色尿なし
右側腹部痛は持続痛で、ズキズキする
ピリピリはしない
痛みは移動しない
痛みで急に起きた
6/10くらいの強さ
起きた後に痛くて、ずっと布団に入っていた
楽な姿勢はない
痛みは悪くはなっていないが、我慢していた
我慢できなくなったので、病院にきた
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ディスカッション③痛みの問診の仕方
T「痛みの問診はみなさん、どうやってとっていますか?
みなさん、OPQRST2で習ったのではないかと思います。
そろそろ、OPQRST2を卒業しましょう。
OPQRST2は単発で情報を拾っている感じで、ストーリーになりません。
患者さんの記憶の中の情報をかいつまんで話させている印象です。
これでは患者さんはうまく、痛みについて語れません。
自分はどうしているかというと、大袈裟に身振り手振りを加えながら、
発症時の様子をジェスチャーや体を使って表現します。
そして、あっているかどうか、患者さんにも表現してもらいます。
その後、どうなっていったのかを、物語を語るように話してもらいます。
OPQRST2は時間軸を無視しています。
発症について聞かれたと思ったら、今度は増悪寛解因子を聞かれ、
その後、痛みの性状を聞かれ、そしてどこかに放散するか聞かれ、という感じです。
痛みの問診においてOPQRST2は
絶対に押さえてくべき基本的な情報ではありますが、初学者向きです。
OPQRST2に慣れた人は、物語を聞くように聞いてください。
例えば・・・
では、目が覚めたらこの辺に痛みがあったんですね。どんな痛みでしたか?
あー、ズキズキするような痛みだったんですね。
しかもかなり痛かったんですね。何もできないくらい、ずっと我慢してたんですよね、
自分だったらそんなに痛かったら、すぐに病院にいってしまいますけど、
病院に行こうとは思いませんでしたか?
みたいに聞くと、、、
実は、痛みどめを飲んだからそれが効くと思って我慢していた。とか
実は、以前にも同じ痛みを経験したことがあって、今回もすぐに治ると思って。とか
実は、妻の介護があるから病院に行きたくなくて。とか
単発で聞くよりも物語として、患者さんは語りやすくなります。
では、他に聞きたいことはありますか?
尿路結石は吐き気がくることが多いですね。嘔吐や吐き気はありましたか?」
Y「ありませんでした。」
T「これでいうと9点で、事前確率50%ですね。
意外ですね。
そこまで尿路結石らしくないです。
確かに80才の初発の尿路結石って、あってもいいのですが、
もっと若い時に既往があって欲しい気がしますね。」
学「この方は健康診断とか行かれていましたか?」
Y「行っていません。うちにかかりつけだったので、色々検査がされています。
1ヶ月前にちょうど、HCCの評価目的にCTが撮影されていました。」
T「いいね、使える情報は全部使おう。
臨床はクイズ番組じゃないから、ヒントは全て使う。
以前のCTがあれば、それを見れば腎臓に結石があるかどうかわかるね。
腎結石がない人がいきなり、尿路結石を起こすかというと、違和感があるね。」
1ヶ月前のCTでは腎結石なし 尿路結石なし HCCは大きさ変化なし
T「ないね・・・。尿路結石ではないのかな?」
E「ちなみに、外傷歴はありますか?」
Y「それが、5日前にベッドから落ちています」
T「すごいね!何で外傷聞いたの?」
Y「いやあ、痛みがある人の場合、
最初にぶつけませんでしたか?って聞くようにしてるんですよ」
T「素晴らしい!
いつまで、元気だったのか?とかと同じで、
スタートの位置が変わる感じがしますね。」
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ディスカッション④鑑別はどうかわる?
T「転倒が加わって、鑑別はどう変わりますか?
システム1で考えると・・・」
学「腎損傷とか、肋骨骨折とかですか?」
T「そうだね。それが加わるね。
肋骨骨折も考えるとなると、大雑把にCVA巧打痛だけではなくて、
肋骨を一本一本押す必要が出てくるね。
転倒という病歴を聞かないと、そういう診察ができないので、
転倒を聞けたのは素晴らしいですね。
じゃあ、診察を教えてください。」
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身体所見 右CVA巧打痛がありました
肋骨は一本一本押しましたが、痛みはありませんでした
右季肋部に圧痛がありました
肝巧打痛がありました
マーフィーは陰性でした
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ディスカッション⑤
T「うーん、そうなると尿路結石や腎損傷、腎梗塞、肝膿瘍、HCC絡み・・・
まだ鑑別が絞れないね。
どうやって、絞っていく?」
E「エコーや血液検査をしたいです。」
Y「エコーをしましたが、大動脈解離やAAA、水腎症の所見はありませんでした。
胆嚢の腫大や壁肥厚はありませんでした。」
T「そうなると、尿路結石や大動脈解離、胆嚢炎の可能性は低いね。
ここで次に造影CTでいくか、単純CTでいくかですね。」
単純CT 多数・・・
造影CT 少数・・・
Y「ここでは単純CTを取りました。
読影依頼には、尿管結石や胆嚢炎、胆管炎といった疾患の精査目的。と書きました。」
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単純CT 肝臓内のHCC内に高濃度の腫瘤影が出現
肝臓全体がやや腫大
腹水なし
T「あーこれは、HCCが内部で出血していたり、壊死しているかもしれませんね。
やっぱり、一番にシステム1で考えた疾患の通りでしたか・・・
本当の臨床推論ってこんな感じですよね。
情報が全て最初からあるわけではなくて、情報が少しずつ加わっていくと、
考える疾患が変わってきます。
HCCの既往がある人の右側腹部痛といえば、HCC破裂
TACE後の右側腹部痛といえば、胆嚢炎
血尿がある人の右側腹部痛といえば、尿路結石
転倒した後の右側腹部痛といえば、肋骨骨折
システム1は情報が加わるたびに、新たな鑑別疾患が想起されます
ただし、これでは一つの情報によるバイアスがかかってしまう可能性が高いので、
システム2で網羅的にも考えます
解剖:皮膚⇨帯状疱疹、腸管⇨憩室炎、胆嚢⇨胆石
そして、システム3の代表のpivot and clusterで、
尿路結石をpivotとして想起した場合に、
clusterとして、大動脈解離や大動脈瘤、腎梗塞を考慮します。
本日は、システム1と2と3という考え方の復習になりましたね。
とてもいい症例でした。ありがとうございました。」
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まとめ
・「痛み」の病歴をとる時は、初学者はOPQRST2で、中級者は図に描いてみて、
上級者は「物語」としてとる
⇨コツは時間軸を意識して、いったりきたりしないことです
・「痛み」の主訴の場合、まずはぶつけたかどうか聞いてみるのと、
痛みの部位を直接見せてもらうことから始める
⇨アザがあったり、ぶつぶつがあれば、すぐに診断ができる
・システム1と2と3は使い所がある
⇨誤診しやすい人は、システム1しか使っていない人かもしれない
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