今回のNEJMは勉強になりましたね〜
43歳の女性が成分不明の漢方薬を使用した後に体重減少、慢性の下痢、爪の変化、脱毛、皮膚色素沈着などの複数の皮膚異常を呈し、発症したという症例でした
病歴だけですと、漢方が悪さしてそうですね
漢方による慢性の消化器症状といえば・・・
腸管膜静脈硬化症
1991年 小山らにより日本で初めて文献報告され、
1993年 岩下らにより新しい疾患概念が確立されました
ほとんどが本邦からの報告で、長年(10年以上)漢方薬を服用した症例や
肝疾患や膠原病の症例に多いようです
漢方の特にサンシシ含有製剤との関係が指摘されています
2013 年にサン シシ(山栖子:gardenia fruit)含有漢方製剤の長期服用が発症の寄与因子となることが明らかにされました
2018 年 2 月には,厚生労働省からサンシ シ含有製剤に対して添付文書の
「使用上の注意」の改訂指示が出されました
サンシシ含有製剤の長期投与(多くは 5 年以上)により,
大腸の色調異常, 浮腫,びらん,潰瘍,狭窄を伴う腸間膜静脈硬化症があらわれるおそれがあります
長期投与する場合 は定期的に CT,大腸内視鏡等の検査を行うことが望ましいとされています
病変部は右半結腸を中心に強くみられることから、
水溶性の毒素的は刺激物質が上腸間膜静脈支配領域の右半結腸からより多く吸収される過程で、静脈内膜障害を引き起こすのではないかと考えられています
症状は便通異常、腹痛、下痢、腹部膨満、血便、無症状など様々です
発症患者の 93%がサンシシ含有漢方製剤服用を 5 年以上の服用歴があります
今回の症例は4ヶ月程度なので流石に違いそうですね・・・
皮膚側でアプローチすると、色素沈着する病態を考えます
皮膚の色が浅黒くなってくる時はどうやって考えたら良いのでしょうか?
・皮膚の炎症、光線過敏(光線過敏まとめ):ペラグラ
・お風呂に入っていない(アカツキ病)
・透析患者さん
・内分泌・代謝疾患:副腎不全、VB12欠乏
・メラノサイトによるメラニン産生増加
・沈着系:金属(鉄:鉄鍋、チタン:差し歯、鉛:仕事、ヒ素:農薬、水銀:仕事
アマルガム、セレン)
薬物(アミオダロン、ミノマイシンなど)
最近、ビタミン欠乏やカルニチンの意識はできるようになってきましたが、
次は重金属だと思っています
論文の報告も年々増えています
各金属によって沈着する部位が違うため、ゲシュタルトが異なります
重金属の暴露は、呼吸、消化管、皮膚からの3つです
いつか金属中毒でまとめたいと思っています
今回は謎の漢方も怪しいのですが、中国のお茶を飲む習慣があれば、
お茶を入れる容器や調理器材など特殊なものを使っていないかどうかは気になりました
金属中毒は環境や仕事中に知らない間に暴露していることがほとんどです
症例に戻ると・・・
検査所見では、吸収不良と電解質異常が認められ、蛋白喪失性腸症と一致する所見でした
皮膚の色素沈着、爪の異常、脱毛などは栄養障害の結果の可能性もあり、
慢性下痢・吸収不良→様々な栄養障害による二元論でも良いかと思われます
慢性下痢やアルコールによる栄養障害がかぶっていた場合は、
一元論で全ての症状を説明しない方が良いです
指差し呼称で確認するように、栄養障害・ビタミン欠乏系は全てチェックです
個人的には、何かしらの沈着物が皮膚や腸管に沈着し、
腸管では吸収不良をきたし、皮膚では色素沈着をきたしているのではと考えました
その沈着物は金属に違いない!これはheavy metal poisoningだ!
病歴をもっとしっかりとって、皮膚と大腸内視鏡で診断がつく!
と思いましたが・・・果たして今回の原因は?
そこにCronkhite–Canada syndromeも入れて考えていきたいと思います
ところで今回、Cronkhite–Canada syndromeが思いつかなかった理由を考えてみました
内科医は病態生理を考えます
下痢をして吸収不良の結果、栄養障害やビタミン欠乏をきたしている
ということは、ビタミン欠乏による症状を出している可能性がある
だが、病態ドミノを巻き戻していくと、なぜ下痢をしているのだろう?と考えます
上流にも下流にも時間を進めるイメージです
下痢の上流まで考えていくと、
炎症なのか、非炎症なのか、沈着病態か、腫瘍か・・・
病態生理や解剖学的な知識を動員して、鑑別疾患をあげていきます
今回感じたことは、発生まで戻ることはしてこなかったということです
Cronkhite–Canada syndromeは1955年 に Cronkhiteらにより、初めて報告された疾患です
消化管ポリポーシスに脱毛,爪甲萎縮,皮膚色素沈着などの
外胚葉系の異常を伴う非遺伝的な症候群です
中年以降の発症が多く,初発症状の大部分が下痢であり,
それと共に外胚葉系異常が顕著になるとされています
治療や合併症の詳細はは今回のNEJMやGastroenterology Report, 8(5), 2020, 333–342をご覧下さい
解説を読んだ感想としては、
・思った以上に予後が悪い(5年で55%の死亡率)
敗血症や消化管出血が死因になりやすい
・おそらく見逃していはいないと思われるが、出会ったとしても診断はできそう
症状が進むと大腸内視鏡でわかるため
・診断よりも治療が大変な病気
・ステロイドが半分しか効かない
・その後の免疫抑制剤も多種多様で、これが効く!というものがない
今回の症例もアザチオプリンやネオーラル、レミケードなど様々な治療がされましたが、
診断後30ヶ月で逝去されています
・治療の最初にピロリ除菌を最初試みるのが興味深い
・非遺伝性ではあるが、急にストレスなどを契機に発症する
・抗凝固因子が腸管から欠乏していくので、プロテインCやSが喪失し過凝固病態になる
抗凝固療法が重要になる
実際、本症例もPEを繰り返した
・骨異栄養症によって異常骨折が起こりやすい
本症例では多発肋骨骨折からフレイルチェストにもなっている
今回の病態を一元論で考えるには、
沈着病態を持ち出さないと考えることができませんでした
外胚葉というキーワードがあれば、今回の皮膚、毛髪、爪の共通した異常を説明できるはずでしたが、
外胚葉ってなんだっけ???となってしまいました
今回の症例を読んで改めて、主に高齢者をみている内科医(というより自分)は
発生学が弱いことに気がつきました
今なら発生学も興味深く勉強できる気がします
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