Intensivistの表紙が新しくなりました
新装版のはじまりはARDSです
読みやすいと銘打たれてはいましたが、やっぱり読み応え十分でした 笑
エクスペリエンス(経験)の項目が載っているのが、実践的で参考になりました
さて、そんな新しいIntensivistのADRSをまとめてみました
ARDSの定義の変遷です
医療資源のない地域や挿管していない状況でもARDSと診断できるように
Global定義が2023年に提唱されました
ただ、ARDSの診断に臨床的な意義はあまりないです
ARDSの診断はゴールではなく、むしろスタートです
ARDSと診断しても何の解決にもなっていません
むしろ思考停止になるリスクすらあります
ARDSか、ARDSじゃないか?という議論に意味はなく
むしろ、酸素化低下の原因は何?
BALする?ステロイド使う?リクルートメントする?
PEEPはどこまであげる?筋弛緩使う?
というのが実際のディスカッションになります
今後のARDS(に限ったことではありませんが)の流れは
個別化医療です
これまではARDSという一括りで治療法が考えられてきましたが、
治療成績が一貫しませんでした
治療効果があったりなかったりする報告があり、
我々はARDSに何をしたら良いのか分からず、混沌とした状況にいます
そこで今後はどの患者群なら〇〇が有効かどうかを探す時代になりました
ARDSが一つのフェノタイプであり、
さらにそこからサブフェノタイプに分かれて、個別の治療を探る時代になっています
治療法まで一直線につながれば、そのタイプはエンドタイプと呼ばれますが、
ARDSにおいてエンドタイプはまだありません
簡単にいうと、ARDSをどの側面から見るか?ということになります
コンプライアンス、リクルータビリティ、
炎症、画像、病理、病態・・・
ARDSといっても同一の病態ではなく、
それぞれ異なる病態であり、どの側面からみるかで見え方が変わります
病態と患者さんの状態に合わせて治療法や
数値目標を変えなければいけない時代になってきました
一律に〇〇と数字を決めるような治療ではなく、
トライアンドエラーで至適な数値目標を探す「〇〇チャレンジ」が
ICU領域では多くなってきました
例)MAP 65で良いのか? → MAPチャレンジ
至適PEEP → ベストコンプライアンス法、decremental PEEP titration
ただ、まだエビデンス不明の領域であり、
施設によっては機械がないので手探りで決めているのが現状かと思われます
ROX scoreはCOVIDで有名になりました
挿管を回避できるかどうかを予想するスコアです
酸素化が悪い人にいきなり、挿管するのではなく、
「時間」を使い「治療反応性」をみてから治療戦略を立てていきます
大事なことは挿管するしないの判断を最初に間違えないで行うことではなく、
挿管のタイミングを見逃さないようにタイトフォローを行うことです
簡単にいうと、
そういった状況では患者さんのそばを離れてはいけません
挿管するかしないかの決断は、勇気が必要です
「挿管を考えているということ自体が、挿管の適応である」
というICU bookのDr.Marinoの名言もあります
結核対応然り、髄膜炎対応然り、挿管然り
こういった対応が頭の中によぎった場合、
頭の中でディベートが繰り広げられます
面倒臭い、時間かかる、え・・今から?、大丈夫じゃない?、自信ないな・・
医師にはこのディベートに負けやすい医師と
しっかり勝つ医師がいます
楽観的な思考の癖のある人と、慎重派の人といっても良いかもしれません
自分の思考の癖は自分ではわからないので、
自分のことをよくみてくれている上級医に尋ねてみるとよいでしょう
この厄介な思考の癖があると
知識は十分あっても、致死的な疾患を見逃してしまう原因になります
楽観的に考えているなと気がついたら、
一度、大きく深呼吸してみましょう
「診断タイムアウト」と呼ばれる方法で、
一度自分が置かれた状況を振り返り、
自分の診断をメタ認知してみることをおすすめします
さて、深呼吸を行うと空気が肺に入ってきます
自発呼吸では、胸腔内を陰圧にして空気を肺に取り込んでいます
一方、人工呼吸器は陽圧換気です
自発呼吸があり外からは引っ張られ、なおかつ、
人工呼吸器で陽圧が肺に加わり、中からは押されると肺はどうなるでしょうか
もちろん、肺は傷みます
この肺にかかる圧力が経肺圧です
0〜25mmHgに収まることが適切とされています
胸腔内圧は簡単には測れませんので、食道内圧で代用して測定します
ですが、食道内圧も限られた施設でしか測定できませんので悩ましいです
この危険な自発呼吸を放っておくとP-SILIにつながります
陰圧がかかりすぎて、肺の血管透過性が亢進し、肺水腫を惹起したり、
一回換気量が多くなったりすることで肺障害をきたします
自発呼吸で管理することは、P-SILIを引き起こす可能性があり、
いいことばかりではありません
では人工呼吸器に繋いで、自発呼吸を無くせばよいかいうと、
そうではありません
人工呼吸器管理もVILIと呼ばれる肺障害をきたします
つまり、ARDSの患者さんの管理はP-SILIとVILIをいかに防ぐかということになります
人工呼吸器は治療というよりは、サポートです
人工呼吸器をつけたから治るというものではありません
あくまで、病態が治るのを待っているための時間稼ぎの道具です
使い方を間違えると、人工呼吸器自体で肺を傷めつけてしまいます
そのために適切な設定を行う必要があります
それが肺保護換気戦略です
最近は肺保護換気戦略を行いつつ、横隔膜保護換気にも注目が集まっています
換気量に関してはコンセンサスが得られています
悩むのは、PEEPの値です
以前のようにARDS net のtableのようにFIO2が上がれば、
どんどんPEEPをあげればよいというわけではなくなってきました
EITがあれば、PEEPを下げることに自信が持てます
このあたりは食道内圧やEITを使ったり、
各施設や先生でやり方や考え方が異なり、
早く統一された方法が見つかってほしいと思います
酸素化が悪化してきた時に残された手としては、
腹臥位療法、筋弛緩、リクルートメント、VV-ECMOがありますが、
これもケースバイケースです
ここまでくると、人工呼吸器の設定に夢中になり、
忘れがちなのが、ARDSにいたった原因です
起きている事象の下流にばかり目をやると、
上流に目をむけることができなくなることが恐れがあります
酸素化が悪化している場合は、改めて上流(原因)に立ち戻ることが重要です
実はCOVID合併、血管炎の肺胞出血、肺塞栓、急性MR、
薬剤性肺炎、偽膜性気管支炎、
HIV + PJP、レプトスピラのJarisch-Herxheimer reaction;JHR反応・・・など
ARDSという診断に満足してしまうと、
そもそもの原因は?に思いが馳せられず、
思考停止に陥ってしまうことがあるので、注意が必要です
呼吸器設定を一生懸命考えるのと同じくらい、原因検索への努力が必要です
まとめ
・ARDSの診断はゴールではなく、はじまりにすぎない
→ARDSは疾患名ではなく、症候群であり原因検索の努力を惜しまない
・ARDS の管理ではP-SILIとVILIをいかに防ぎ、病態の改善まで時間を稼ぐかがポイント
→肺保護換気+αの個別化治療を行う
・ARDSだから〇〇の数値目標や治療ではなく、
この患者さんのこの病態だから△△を意識する
→至適PEEP、リクルートメント、筋弛緩の適応
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