いつ自分の病院に運ばれてくるか分かりません
火災現場から搬送された人は何に気をつければよいのでしょうか?
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56歳 男性 主訴:喉が痛い
救急隊より
独居の男性宅の風呂場から火災あり
火を消そうと水をかけたときに、暑い水蒸気が出て、
水蒸気や煙を吸ってしまった
今は消防隊が消火活動中
住人の男性は外へ逃げた後、喉の痛みあり、救急車要請
気道熱傷疑いで救急搬送となった
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ディスカッション①:到着までの数分間
上級医「火災現場からの患者さんだね、何に気をつける?」
専攻医「気道熱傷ですか?」
上級医「そうだね、今回は気道熱傷疑いとすでに救急隊からいってきてるしね。
あとはどうかな?」
研修医「一酸化炭素中毒ですね!」
上級医「そうだね。一酸化炭素中毒の可能性は大いにあるね。
だから酸素化がよくても、
ガスの結果が出るまでは、しっかり酸素を吸わせておくことが大事だね。
一酸化炭素中毒ときたら、もう一つ気をつけるものは?」
専攻医「えっと、わかりません」
上級医「一酸化炭素中毒ときたら、必ずセットで考えないといけないものがあるんだ。
それはシアン中毒だよ。
一酸化炭素中毒の割に代謝性アシドーシスが重度であったり、
乳酸値がやたらと高かったら、強く疑う根拠になるね
シアンの血中濃度を普通の病院ではすぐには測れないから、
臨床状況と血ガスの所見で判断するしかないんだ。
だから今回、ガスは絶対にとる必要があります。
シアン中毒は一酸化炭素中毒より怖いよ。
カーペットやソファー、断熱材などがある室内の火災で、
シアン化水素が発生して、それを吸入するとシアン中毒になる。
コナン君によく出てくるアーモンド臭で有名な青酸カリと同じだからね。
火災現場からの搬送でよくあるピットフォールです。」
JJAAM. 2014; 25: 797-803
専攻医「なるほど、わかりました。」
上級医「じゃあ、ガスをとって一酸化炭素中毒とシアン中毒を見極めるとして、
気道熱傷はどうやって評価する?
気道熱傷が疑われれば、挿管する?
うちの病院で見ててもいいのかな?」
専攻医「う、どうやって評価するんでしょうか。
鼻毛が焦げているかどうかとか、呼吸苦があるかとかでしょうか」
上級医「そうだね、その所見もチェックはするけど、それだけで見極められるかな?
ガイドラインには気管支ファイバーで確認するのが、
多くの専門家にとってゴールドスタンダードであると書いてあるね。
救急の場で即、気管支鏡ができる病院はかなり限られるから、
疑った時点で熱傷専門施設や三次救急に行ってもらってもいいんだけどね。
ま、まずは喉頭までファイバーでのぞいてみよう。」
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来院時、バイタルは安定しており、意識も清明
発語は明瞭で、嗄声もなし
呼吸苦はなく、落ち着いて呼吸できている状態
Spo2 100% (15Lリザーバーマスク)
症状は少し喉がいがらっぽい感じがするのみ
口腔内にススはなし
鼻毛は少し焦げている
Crackleやwheezes、stridorなし
右の下腿に手掌大の大きさの二度熱傷あり
喉頭ファイバー所見は鼻粘膜はやや腫脹し、ススが付着していた
咽頭、喉頭にもわずかにススが付着
喉頭に浮腫状変化なし
CXR 肺野の透過性低下なし 浸潤影なし
血ガス COHb. 5% 乳酸上昇なし
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ディスカッション②:さてどうする?
専攻医、研修医は外傷のショックの対応へ行ってしまった。。。
1人取り残された上級医
上級医の心の中
「上気道は今のところ、しっかり開通している。
嗄声やstridor、呼吸苦もない。
ただ喉頭にススがあったし、若干ひれつ部が浮腫状だった気もする。
あんまり積極的に気道熱傷ですぐに挿管!って感じではないが、
気管支鏡で確認はしてないから、実際どうなのかはわからない。
気道熱傷が疑わしければ、挿管した方がいいのは自明の理だ。
この症例に挿管が必要かは、もう少し評価が必要だろう。
やっぱり、気管支鏡してもらおう!」
ということで呼吸器内科の先生を呼び出して、気管支鏡検査をしてもらった。
気管支鏡所見としては、気管支にススの付着は所々に見られたが、
気管支壁の肥厚や発赤、分泌液、閉塞はみられなかった
結局、気管支鏡検査の結果からは積極的に気道熱傷は疑わないという結論になって、
そのまま厳重に経過観察目的に入院となった。
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火災現場からの救急搬送
火災現場からの救急搬送されて来る患者さんをマネージメントするのは、とても難しいですが、基本に立ち返り、まずはJATECの流れに沿って考えていきましょう
とはいうものの、
普段のJATECとはだいぶ考えることが違うので、
火事場から搬送された患者さんver.のABCDEをみていきましょう
気道熱傷が主にかかわるのは、AとBです
まず気道"熱傷"という名前がよくないです
熱傷というと、ただ気道がやけどしたのかなあと思いきや、
熱による損傷だけではなく、化学物質や有毒なガスで下気道も障害されます
そして、CO中毒や低酸素血症といったものもすべて含めて、気道熱傷と言います
なので海外では、burnではなくinjuryです
気道熱傷で一番悩むところが、
①まず気道熱傷があるかどうか
②そして、挿管が必要かどうか
です
決まった基準がありそうで、実はないんです
明らかに気道狭窄している所見があれば、簡単ですが
現実は微妙な症例が多いです
極論、気道熱傷が強く疑われた場合で、怪しければ挿管してしまえばよいです
しかし、挿管も侵襲的であり、できれば必要ない挿管は避けたいものですよね
ということで、
現場ではこの葛藤が毎回繰り広げられます
でも考えることは単純で、
①まず想起し、気道熱傷かもしれないと疑います
疑う所見としては、鼻毛が焦げていることや口腔内の煤
嗄声や顔面・頸部の熱傷です
②疑ったら、挿管が必要かどうかの評価を行います
すぐに局所をみることも大事ですが、
実は全身を見ることも大事です
つまり、熱傷面積がどれくらいか、重症かどうか、
というのも、実は気道熱傷で挿管が必要かに関わる因子なのです
③挿管すべきと評価が下れば、挿管します
顔面や頸部、体幹にかけて広範囲な熱傷の場合、換気困難になる症例も多いので、
なるべく自発呼吸を温存した状態で挿管が望ましいとされています
気管支鏡で評価しつつ、気道熱傷が強く疑われればそのまま挿管の流れになります
浮腫んでいるのかどうかわかりにくいので、
見慣れている人と一緒に判断しましょう
気道熱傷を3つの酸素化障害という別の切り口でまとめてみました
普通の呼吸は外呼吸と呼ばれます
気道熱傷で上気道や下気道がやられれば、外呼吸の障害がおきます
AとBに問題ない場合、酸素は肺から血液(赤血球)へ受け渡されて、全身にわたります
赤血球が酸素を上手く運ばれないと、運び手の問題で、
全身の細胞は酸素欠乏に陥ります
その病態が一酸化炭素中毒です
細胞まで酸素はいきわたったけど、細胞の呼吸(内呼吸)が障害されてしまうのが、
シアン中毒です
シアン中毒は非常に危険であり、治療法も複雑なので一度確認しておきましょう
このように火災現場から逃げてきた人は、AやBの評価だけでなく、
3つの酸素化障害が起きていないかを確認しましょう
Cの評価では血圧も大事ですが、全身の熱傷範囲の評価が必要です
熱傷範囲の推定を行わないと、専門施設に送ったほうがよいかの判断や補液量が決められません
熱傷の重症度は三次元的に考えましょう
つまり、深さ×広さ×時間です
最後にABCDEが落ち着いたら、どうして火災が起きたかに頭を使いましょう
病歴を詳しくきいて、物語に腑に落ちないことがあれば、あとは想像力で原因を探ります
まとめ
・火災現場から搬送されてきた患者さんのABCDEは特殊
→普段のJATEC対応+気道熱傷の評価や熱傷の体表面積を計算する・気道熱傷はInhalation injuryといい、ただの気道のやけどではない
→3つの酸素化障害(外呼吸・運び手・内呼吸)が起こりうる
・気道熱傷疑いの患者さんがきたら、①想起、②評価、③挿管の順で考える
→局所×全身の評価を行い、迷ったら他のDrとも相談し決める
参考文献:uptodate
Intensivist VOL.11 No.4 2019-10 ←よくまとまっている
N Engl J Med 2016;375:464-9.
日気食会報,66(3),2015 pp.203-207
JOHNS Vol.33 No.3 2017
J Burn Care Res 2012;33:65-73 ←気管支鏡検査のgradeで予後予測ができると報告
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