Profile:PAfに対して、DOAC内服中
現病歴:来院前日、階段の上り下り中に軽度の右腰背部から右臀部の痛みを自覚した
来院当日、朝起きたら、同じ場所の痛みが悪化しており、
動けない状態であったので、救急車で来院
既往歴・既存症:PAf
内服:DOAC
生活:ADL自立
身体所見
バイタル 安定している 発熱なし
右股関節は屈曲肢位
右臀部から右腰背部にかけて強い自発痛あり
寝返りも困難
皮疹なし
右鼠径部に圧痛なし 右大腿外側に圧痛なし
脊柱に圧痛や叩打痛なし
仙腸関節部に圧痛なし
臀部(梨状筋上)や坐骨結節に痛みなし
股関節は屈曲肢位、進展すると右臀部から腰背部に痛み出現
Psoas徴候陽性
右股関節の内旋で右腰背部に痛み出現、外旋では痛みなし
下肢の痺れなし
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腰背部痛や臀部痛、鼠径部の痛みは内科医が苦手な症候学の一つだと思います
内科医は臓器や神経の解剖は得意ですが、筋骨格系の解剖が弱いのです
以前は筋骨格系の非特異的な痛みに対して、出来ることはボルタレンの座薬くらいでした
ぎっくり腰でもヘルニアでも坐骨神経痛でも、治療法があまり変わりなかったのでレッドフラグサインがなければ、内科医はそれ以上の原因を調べることはありませんでした
ですが、時代は変わりました
内科医は筋骨格系の解剖に強くなる必要があります
ハイドロリリースがあるからです
今は動作分析を行って、責任の疼痛部位が分かれば
リリースを行うことで著効する症例があります
自分はまだまだですが、プロの技は本当にすごいです
筋骨格系の痛みにとっては、革命的な治療だと思います
ハイドロリリースという新しい治療のおかげで、
筋肉の名称や動きを頭に入れるモチベーションが湧きます
この症例の腰背部痛もリリースが適応になるかどうか?という視点で、
どの部位に疼痛の責任病巣があるか動作分析をします
腰背部や臀部痛、鼠径部の痛みの診察の仕方
(仰臥位での診察)
①まず肢位に注目します
→痛みのある足が外旋位で短縮していれば、大腿骨の骨折を疑います
鼠径部の膨隆がないかをみて、股関節の腫脹やヘルニアがないかを確認します
本症例は腸腰筋肢位と呼ばれる股関節が屈曲している肢位になっていました
②自発痛や痺れがどこかを確認します
→大腿内側と股関節から膝にかけての痛みの場合は、
閉鎖神経を巻き込んだ閉鎖孔ヘルニアの可能性があります(Howship-Romberg sign)
帯状疱疹の可能性もあるので下着はずらして皮膚は確認します
大腿外側のポケットの位置の痛みは外側大腿皮神経痛を疑います
デルマドロームに沿った痺れならば、椎間板ヘルニアを疑います
本症例は痺れはありませんでした 自発痛は腰背部から臀部にかけてみられました
③次に鼠径部やスカルパ△の圧痛を確かめます
→大腿骨頭の病変や股関節炎、鼠径・大腿ヘルニア、ACNESで痛みがでます
本症例ではありませんでした
④鼠径部や股関節に痛みがありそうなら、
股関節の病変かを見極めるために股関節の外旋や内旋を行います
→股関節の病変であれば、必ず痛みが生じます
骨折が疑われる症例では転位してしまうので、やらないでください
本症例では内旋時に腰背部から臀部に軽度の痛みが生じましたが、
股関節の痛みはありませんでした
④大腿骨の大転子の外側の圧痛を確認します
→滑液包炎があるかを確認します、PMRで痛みが出る場所です
滑液包炎の他に大腿直筋や小殿筋、中殿筋の付着部に炎症を起こすような
石灰沈着性腱炎の場合にも痛みが生じます
本症例はありませんでした
⑤下肢を挙上させます
→坐骨神経痛の診察です
SLRだけでなく、下肢挙上後に足首を曲げるBragardや反対側のSLRで痛みがでるCross SLRも行います
本症例はやっていません
⑥MMTの確認を行います
→筋力低下があった場合、それは痛みで出力できないのかどうかを見極めることが大事です
本症例は腸腰筋のMMTをとると痛みが出現してしまいMMTは4でした
(ここから、うつ伏せもしくは座位)
⑦脊柱柱叩打痛や圧痛をみる
→椎間板炎・椎体炎・圧迫骨折・骨転移で痛みがでますが、
圧迫骨折の場合、骨折部位が痛くないこともあります
本症例は叩打痛はありませんでした
⑧傍脊柱の圧痛と腰の動作分析
→傍脊柱筋(多裂、最長、腸肋、腰方形筋)に病変があるか確認します
この辺はぎっくり腰の原因になりやすく、リリースしたくなる部位です
本症例はありませんでした
⑨上殿皮神経領域の圧痛
→ヤコビー線より1横指尾側、上後腸骨棘(PSIP)より2横指外側の圧痛をみます
ここもリリースしたくなる部位です、こりこりと神経が触れることもあります
本症例は上殿皮神経領域を含めた部位に手掌大の範囲に圧痛がありました
⑩仙腸関節の圧痛やストレステスト(パトリック、ゲンスレン)
→仙腸関節炎の有無を確認します
坐骨神経痛のような痛みで来ることもあり、仙腸関節炎の有無の見極めは非常に大事です
本症例は仙腸関節の圧痛はありませんでしたが、ストレステストは痛みでできませんでした
(最後は側臥位で診察)
⑪梨状筋の圧痛を探します→仙骨縁と大転子を結ぶラインに走っています
殿筋群に圧痛や硬結があれば、血腫を疑います
梨状筋は坐骨神経の絞扼をよく起こす筋肉であり、
坐骨神経の走行も意識して圧痛を確認します
本症例はありませんでした
⑫腸腰筋徴候(Psoas sign)を確認します
→腸腰筋は腸骨筋と大腰筋からなる筋肉であり、股関節の屈筋を担う
そのため腸腰筋に病変があると股関節の過伸展にて、筋肉が引きのばされるため痛みが生じる。または腸腰筋のMMTをとると痛みが生じる
本症例はありました
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という動作分析の結果、本症例は腸腰筋に何かありそうということで、CTとると腸骨筋と大腰筋内に血腫がありました
腸腰筋血腫にであったら
①原因は何か
②合併症はないか
③治療はどうするか
を考えます
治療はケースバイケースです
本症例の原因はDOACと階段の昇降動作によるものと考え、DOACは中止し保存的に治療中で経過は良好です
小児の場合は非骨折性の腸骨筋血腫はスポーツでも起こることが多いようです
ですが、小児の場合は血友病の検索は必須でしょう
成人の場合でも悪性腫瘍に伴って出現してくる後天性の血友病もありますので
注意が必要です
まとめ
・筋骨格系の痛みはハイドロリリースの適応かそうでないかの視点で診察する
→2hit、3hit theoryもあるので、病変は一か所だけとは限らない
上流に痛みがないかという視点は重要
・腸腰筋肢位にピンとくる
→股関節が屈曲肢位になっていて、伸展できない肢位
・原因不明の筋肉内血腫をみたら、後天性血友病を疑う
→APTTチェック
参考文献:臨整外 42巻5号 2007年5月
整形外科Vol.63 No.3(2012-3)
日農医誌 61巻4号 636~642頁 2012.11
BMJ case Rep 2015.doi:10.1136/bcr-2014
PLoS ONE 14(2):e0211680.
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