90歳 男性 心不全の末期で、お看取りになった方
T「お看取りしたことある?」
研「あります」
T「どうする?」
研「えっと、目に光を入れる前に眩しいですよ、と声をかけて、
対光反射を確認します。
そして、胸の音をききます。10秒間聞くのが大事だと習いました。
その後、ご家族さんが時計を持っていたら、その時刻で死亡確認の時間とさせてもらいます。
死亡確認の後、他の上級医の先生方がいつも気の利いたセリフを言っているので、
何か言おうとは思っています。
今回であれば、苦しくない最期でしたよと伝えようと思います。
あとは、心臓が止まっても耳は聞こえると言われますので、ぜひ話しかけてあげてください、ということと、
昨日お食い締めをしたので、そのこともお話しようと思っています。」
T「・・・・そっか。気の利いたセリフねえ。。。」
研「〇〇先生がとても素敵な言葉を仰っていたので、
そういういいなあと思った言葉を自分なりに言おうと思っています。」
T「・・・・なるほどね。わかった。じゃあ、行こうか。」
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病室へ
ご家族「あ、先生、ありがとうございました。」
研「それでは皆さん揃われましたね。
では最後の確認をさせていただきます。」
研「〇〇さん、眩しいです。ごめんなさい。
目に光が入ります。
胸の音も聞きますね・・・
はい、今確認させていただきましたが、目の光に対する反応がありません
胸の音を聞いても、呼吸と心臓の音が聞こえない状態です。
この3つの兆候をもって、死亡確認とさせていただきます。
ご家族さんの中で時計を持っていらっしゃる方はおられますか?」
息子さん「はい・・・」
研「〇時△分ですね、私の時計ともズレはありませんので、
〇時△分 死亡確認とさせていただきます」
ご家族「ありがとうございました。。。。」
研「最後は穏やかな表情で苦しくはなかったと思います。」
ご家族「・・・」
研「心臓が止まっても耳は聞こえると言われますので、
よかったら是非、声をかけてあげてください」
ご家族「・・・」
研「昨日もすり下ろしたリンゴを食べることができて、よかったと思います」
ご家族「・・・ありがとうございました。」
研「それでは、失礼いたします」
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振り返り
T「どうだった?」
研「いやあ、なんだか最後は居辛くなって出てきてしまいました。
うーん、やっぱり難しいですね。。。」
T「そうだね。お看取りは難しいよね。
究極のお看取りはどんな感じだと思う?」
研「先生がそう仰るということは、医者が居なくてもいいという感じですか?」
T「あー、まあ確かにその通りだね。
最後の場面で、医師としてできることはあんまりないからね。
でも死亡診断書書いたり、死亡確認しなければいけないから、医師は必要ではあるんだよね。
じゃあ、質問を変えよう。
実は、産まれてくる時と亡くなる時って似てるんだよね。
産まれてくる時ってどんな感じ?」
研「えっと、お母さんが頑張って産みます。」
T「そうだね。
産まれてくる時にはエネルギーが必要なんだ。
赤ちゃんもお母さんも一生懸命頑張っているでしょ?
実は亡くなる時もエネルギーが必要なんだ。
本人も一生懸命、最期を迎えようとしているし、
家族もそれを一生懸命支えてくれている。
そして産まれてくる時、赤ちゃんの周りはどう?」
研「笑っていますね。」
T「そう。赤ちゃんは泣いているけど、周りは笑顔に包まれているんだ。
いい看取りってそんな雰囲気で、産まれてくる時のように暖かい感じになるんだ。
最期の場面でみんなが「いい人生だったね、ありがとう」って、
笑顔でいられるのが、自分の中ではいい看取りだと思っている。
もちろん、性格や病状とか、いろいろな要因があるから、
笑顔でなんかいられない時もあるとは思うけど、
理想はそういうあったかい雰囲気で、最期が迎えられたらいいなあって思っている。
そこに気の利いた言葉なんで準備する必要はないんだ。
大事なのは、その雰囲気や空気を共有すること。
その場にいるだけでいいんだよ。
気の利いたセリフなんていらない。
最期は医師対患者の関係ではなく、人対人だから、
亡くなった方やご家族との思い出やその時の思いを正直に語ればいい。
語る言葉がなければ、それでもいい。
そこにいることが大事なんだ。
そしたら、ご家族の方から語りかけてくれる。」
研「なるほど、そうですね。
ご家族との信頼関係はもちろんですけど、
やっぱりその人の人となりを理解していないと、なかなか言葉は出てきませんよね。
いい看取りにつながるように、その人を知る努力をします。」
T「そうだね。
自分の看取りがいい看取りだっかなんて、毎回わからないよね。
ご家族の方から、先生のおかげで母の願いは全て叶いました。ありがとうございました。
って言われた時ですら、本当にこれで良かったのだろうか・・・と思ってしまう。
看取りの時は、いつも思い出す言葉があるんだ。
以前、自分の上司から言われた言葉なんだけど、
今回の看取りが、〇〇さんにとっていい看取りだったかどうかはわからない。
だから、いつか自分の枕元に〇〇さんがやってきて、
「あの時は、本当は苦しかったんだぞー」って言われたり、
「全然痛くなかった、苦しなかった。ありがとう」
って言われたりするんじゃないかなって思ってる。
っていう言葉が、自分にはとてもしっくりくるんだよね、
なんでかというと、家族からのフィードバックももちろん、大事なんだけど、
やっぱり最後は本人に聞いてみたいんだよね。」
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参考人:自分の上司の先生
内藤いづみ先生
→本当の緩和ケアがどういうものかを教えてくれた先生です
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