2020年11月5日木曜日

脳炎・髄膜炎に対するステロイドの奥深さ

細菌性髄膜炎の初動は反射的にできるように叩き込まれます


発熱と意識障害で救急車で来院された人がいたら、

他の感染症も疑いつつ、

髄膜炎の可能性が高ければ、

血液培養とって、抗生剤とステロイドいきます

意識障害もあれば、HSVやVZVのカバーでアシクロビルも必要です

その後、髄液中の細胞数上昇していれば、髄膜脳炎の診断にはなるのですが、

問題はこの後です



髄膜炎や脳炎の治療で大事なのは、

細菌性髄膜炎としての対応の治療を抑えておくことと、

その後、治療に足し算と引き算が必要ということです



細菌性髄膜炎の場合、話は簡単です

細菌性髄膜炎は、

例えるなら、好中球が減少している時のFN(発熱性好中球減少症)対応みたいな感じです

あまり考えることもなく、いかに早く適切な抗生剤を入れるかという初動が大事で、

後ははやり切るだけです


なぜなら細菌性の場合、血液培養が陽性になることが多く、診断がつくことが多いからです



難しいのは無菌性髄膜炎や脳炎の場合です

臨床医にとっての最難関な病態だと感じています


理由は鑑別疾患が膨大であり、予後もそれぞれの病態に応じて異なるため、

今後の予測が非常に難しく、診断や治療も大変だからです


鑑別疾患としては、自然に治癒するようなウイルス性の無菌性髄膜炎から

マイコプラズマやリケッチア、ライム病のような特定が難しい細菌性髄膜炎、

ステロイドに反応する膠原病に関連する脳症やビッカースタフ型脳幹脳炎、

NMDAなどの自己免疫性脳炎・脳症まで、

とても幅広い鑑別疾患のリストとなります


例えるなら、無菌性髄膜炎は細胞性免疫不全やHIVの人の不明熱のような感じです

細胞性免疫不全の場合、発熱の原因となる原因微生物は多数あります

そのため、しっかり病歴や診察を行い、戦略を立てて検査を行い、

膨大な鑑別疾患のリストを少しずつ絞って治療に入る必要があります




実はいつもの髄膜炎対応の背景にはこんな膨大なことを考えながら治療に入っているのです


(FN対応のように)

反射的に動かないといけない細菌性髄膜炎と


(細胞性免疫不全の発熱のように)

じっくり病歴や診察、戦略を立てて、

検査・治療をしないといけない無菌性髄膜炎・脳炎を


同時に相手しなければならないのです


さらにそこに「時間」も加わります


髄液検査や画像検査を行なったり、バタバタしていることが多いので、

最初の段階では病歴が不十分のことが多々あります


最初の段階で病歴は不十分であるという認識が必要です

なので鑑別疾患のリストから何かを除外するのは困難で予後予測が非常に難しいです

家族に病状説明を行うのも慎重に行わないとトラブルになります



例えば・・・

実は前医で抗生剤の筋注が行われていた

実はMSMの人だった

実は海外旅行から帰ってきて間もなかった

実はダニに刺された後だった

実は慢性的に咳が出ていた

実はもともと日焼けしやすいし関節炎も伴っていた

実はもともと口内炎や陰部潰瘍ができやすかった



というように、

その情報があれば「〇〇ですね」と言えるような情報が最初はないことが多いです


情報がない中で、何を優先させるべきか?


それはもちろん、感染症です

細菌性やヘルペス脳炎は絶対に見逃してはいけません


細菌性髄膜炎やアシクロビルの治療効果が乏しく、

症状の改善がみられない場合にはじめて、


「この病態は自己免疫性脳炎じゃないか?

 神経ベーチェットやCNSループスじゃないか?」

という議論になってきます


感染症をしっかり治療していないと、この議論に水をさすことになるので、

研修医の先生は、

細菌性髄膜炎とヘルペス脳炎の治療だけは、

必ず一人でもできるようになっていてください


その先はみんなで悩みましょう

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神経内科Drは、髄膜炎や脳炎の対応の際にこんな感じで最初考えています(多分)


このプレゼンテーションは普通の細菌性髄膜炎やヘルペス脳炎ではない・・・

でも一般細菌やヘルペスのカバーは必須だから、治療は始めておくとする


最初の治療で効果が乏しかった場合、

もしかしたら、自己免疫性脳炎かもしれない

だが自己免疫性脳炎であってもすぐに診断がつくものではないし、つかないことも多い

ただ、ステロイドが入ることで、抗体検査に支障をきたす可能性があるから、

保存血清は一応、とっておこう


自己免疫性脳炎の場合、ある程度ステロイドが効果あるかもしれない

細菌性髄膜炎はあまり疑っていないが、

細菌性髄膜炎の時のデカドロンを投与するレジメンを利用して、

ステロイドを最初から入れてしまおう


もちろん、それで病態がマスクされてしまう可能性も考えておく・・・


ただステロイドが切れたタイミングが勝負だ

そこで悪化するようなら、やはり免疫が介在している病態をぐっと疑うポイントになる


それまでに、検査データや治療の反応性、追加病歴、追加診察を行なって、

診断に迫ることができないか検討していこう


ふぅ・・・・勝負はこれからだ



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