本日も朝からありがとうございました
診断もマネージメントも非常に難しい症例でしたね
検査よりも、病歴や診察が大事であることが印象的でした
50代 女性 主訴:両下肢脱力
(※症例は修正や加筆を加えてあります)
Profile:もともと元気な方
現病歴:40日前まではいつも通り元気
38日前 右下肢の重だるさを自覚
走ろうとしたら、右足がうまく動かず転倒
その後、右だけではなく、左の脱力も出現
30日前 近医A受診 頭部のMRI撮影されたが、所見なし
28日前 近医Bの神経内科受診 頭部、全脊椎MRI 異常なし
針筋電図 異常なし
14日前 歩行ができなくなり、車椅子生活になった
当日 両下肢脱力が進行しており、精査目的で来院
ROS:経過中に便秘が出現あり
排尿は問題なし
経過中に両側の足の指先に痺れ出現
先行感染なし 日内変動なし
上肢の動きは問題なし、皮疹なし
既往:両側手根管症候群で手術、右耳難聴
内服:なし
検診歴:毎年しており、EGD問題なし、便潜血異常なし
採血でDMなし
喫煙:10年前まで1箱/日
飲酒:機会飲酒
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T「はい、ありがとうございます。
この方は「病気」ですね。
つまり、探せば器質的な疾患が隠れている可能性が高いということです。
病歴を聞いた時にまず思うのは、
この人の症状が「器質的な疾患か」「心因性か」ということです」
S「どうして、「病気」があると思うんですか? システム1ですか?」
T「そうですね、あえて言語化すると、
・病歴を聞いて既存の疾患のゲシュタルトやillnes scriptsに合うかどうか
→ただこの場合、非典型歴や自分の知らない病気を心因性にしがちです
・解剖学的な矛盾がないか
→この場合もMSのような疾患では心因性にされやすいです
・患者さんの困り具合、症状をどう感じているか
→美しき(満ち足りた)無関心という言葉がありますが、
あまり困っていないような場合は心因性の可能性を考慮します
ただ病歴を聞いて論理的に考えているわけではありませんので、
雰囲気や何となくで感じとっています。」
S「わかりました」
T「この直感が鋭くなると、検査しても何も出ないだろうな・・・
と検査の予測を立てやすくなります。
あとは、早めから心因反応に至った社会・精神の背景を探りにいくことができます。」
S「なるほど」
T「さて、みなさん、追加病歴をどうとりますか?
病歴聴取のコツは、なるべく早くに仕事・職業を聴取することです
よくProfileに職業を入れなさい、といっていますが、
主訴の次は職業を述べて(聞いて)も良いと思っています。
職業を聞くことのメリットは3つあります
①特定の職業で起こる疾患(じん肺、リポイド肺炎)・
中毒(有機溶剤、シンナー、鉛など)を想起できる
例えば、
こういったものです
②症状の重さや生活に与える影響を知ることができる
症状の重さは訴えだけでは分かりません
誇張されてお話しされる人もいるので、訴えだけで判断しにくいです
「だるくて、だるくて、もう全然だめなんです!」
という割りに、普通に仕事はできている人もいます
仕事や学校は何らかの症状があっても、頑張れば行けることが多いです
特に仕事は休むと、辞めさせられる可能性や金銭をもらえないため、
簡単に休むことはできません
そのため、
症状のせいで仕事にも行けなくなっているというのは、症状としては重い
と判断する材料になります
③職業を聞くことで、インテリジェンスや経済レベルがわかる
患者さんの人となりを早めに理解するために職業を聞くのは有用です
医学部の大学教授とガソリンスタンドでバイトしている人では、
医療知識や医療に求めていることは違います
(※ガソリンスタンドのバイトの仕事を軽視しているわけではありません。あくまで一例です)
経済力も透けて見えます
よかれと思って検査をたくさん出すと、
「そんなにお金は払えない」「入院はできない」
という失敗をすることもあります
相手によってこちらの話し方や病歴の取り方、マネージメントは変わってきます
上手に病歴をとる先生は、相手に合わせて話し方を変えています
生活歴の一つとして唐突に職業を聞くのではなく、
病歴全体をイメージするため、相手のことを知るために、
職業を早めに聞くことをおすすめします
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職業:旅館の女将
経済力はありそうな風貌
インテリジェンスも高そう
症状が強くなってからは、仕事に行けなくなった
T「この方は理解力も良好で、自分の症状に対して、
不安を覚えて、かなり困っているようです」
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病歴聴取のコツは?
足の力の入りにくさや痺れについて、
どのように動かしにくいかを症状を詳細に聞くのではなく、
生活リズムに合わせて聴くとイメージがしやすいです
つまり、BADLを聞けばどのような症状かわかります
D:着替えを聞くと障害されている部位がイメージできます
E:嚥下や上肢機能を評価できます
A:下肢や歩行能力を評価できます
T:下肢や膀胱直腸障害を評価できます
H:上肢や下肢の総合的な評価ができます
高齢者の場合もADLに合わせて症状を聞くことで、
後でADLをわざわざ確認する必要がなくなりますので一石二鳥です
外来で見ていくか、入院するかの判断にもなります
病歴を聞くことは「音楽・曲」を聞いているイメージです
痺れの病歴聴取のコツは?
痺れの場合の病歴聴取のコツは、地図と年表を共有することです
地図というのは、痺れや脱力mapです
年表というのは、時間経過です
痺れmapで大事なのは、グラデーションをつけることです
1指か5指か、足底か足背か、遠位か近位かを聞きます
地図を描くことで、解剖学的な異常を来している部位を把握できます
年表を書くことで、Etiology(病因)や病態(VINDICATE)を把握できます
・日内変動 → 神経筋接合部
・突然発症 → 虚血・梗塞(血管炎)、代謝疾患
・急性発症 → 炎症(感染、自己免疫)、脱髄(GBS)、代謝
・慢性経過 → 脱髄(CIDP)、腫瘍圧迫
・階段状悪化 → 頸椎病変、MS
・増悪・寛解 → MS、ヘルニア、脊髄動静脈奇形
もちろん、例外もありますが、ある程度の方向性がわかります
例えるなら、「方角」がわかるイメージです
道に迷った時に東西南北のどこかが分かるだけでもありがたいですよね
さて、病歴を聞いて鑑別は何になるでしょうか?
まとめ
・病歴聴取のコツ
①早めに職業を聴取する
②日常生活に合わせて病歴をとる
・神経疾患を疑った時の病歴聴取のコツ
①地図(痺れmap)を描く
②年表(時間経過)を書く
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