2022年10月1日土曜日

自己免疫性腸炎と診断されている33歳 男性

 


感想


今回の疾患ははじめて知りました


この回で学べることはこの3つです


・慢性下痢の鑑別の挙げ方、アプローチ法

・IPEX症候群やセリアッククラスターを作れる

・IPEX症候群について詳しく知れる


要約

生後二ヶ月から下痢が出現し、その後も再発を繰り返す慢性下痢に悩まされる症例です

慢性下痢による栄養不良や成長障害もきたしてしまいます

→新生児という疫学を抜きに考えると、

 慢性下痢で考えるのであれば、セリアックやIBD、アミドイドーシス、

 SLE、強皮症、好酸球性腸炎、寄生虫なんかが鑑別になります


 新生児ということで考えれば、乳糖不耐症や新生児・乳児消化管アレルギーが鑑別でしょうか


 新生児については、全く知識がありませんので、
 調べてみるとこんな実用的なガイドラインがありました





ここには慢性下痢の鑑別としてこのように分けられていました






本症例は、途中でネフローゼ症候群(病理で膜性腎症)、溶血性貧血、皮膚炎など

様々な自己免疫疾患を合併し、多種多様な免疫抑制剤が使われていました


経過中に何度も上部・下部消化管内視鏡検査を施行され、腸粘膜の生検を行われ、

IgE上昇や抗上皮細胞抗体陽性であり、「自己免疫性腸炎」の診断がついていました


ただ、自己免疫性腸炎に対して免疫抑制剤を使っていても、増悪・寛解を繰り返しており、

本当に自己免疫性腸炎で良いのか?


という疑念が湧いてきたという症例でした



実臨床でもたまにありますよね


今回の症例のようにすでに精査がされ尽くされて、原因不明の症例はあります

もしくは、何らかの「疑い病名」がついている時もあります


そういった症例は、主治医が交代になったタイミングや

増悪した時の入院担当医が優秀な場合、診断がつくということもあります



パズルのピース系疾患


「知っているか、知っていないか」という病気のことが多いですが、

ゲシュタルトがわかっていれば、一発診断できることがあります



一つ一つをパズルのピースのように俯瞰して見ることができれば、

診断がつけられる疾患群が存在します(パズルのピース系疾患と呼んでいます)


頭文字が病名になっていることが多いです

・TAFRO

・VEXAS(vacuoles, E1 enzyme, X-linked, autoinflammatory, somatic)

・今回のIPEX症候群

自己免疫性腸症の主要な基礎疾患である“多腺性内分泌不全症、

腸疾患を伴う伴性劣性免疫調節異常(immunedysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-linked)をIPEX症候群というそうです


他には・・・

・クリオピリン関連周期熱症候群

・アミロイドーシス

・sweet病

・IgG4

・サルコイドーシス

・セリアック

・whipple病

・SLE

・Fabry病



こういった疾患群は

#  ネフローゼ症候群 

# 慢性下痢

# 心不全


みたいな感じでプロブレムリストを並べて、それぞれの鑑別を考えていくと、

ドツボにハマります


一歩引いて、全体像を見れるかどうかが勝負です



今回のように診断名わからなければ、googleにkey wardを入れ続けることが診断に繋がります

これはAIが得意とするところですね


ただ、多くの医師は自分の知識の中で、知っている疾患に当てはめようとしてしまいます


あたかも知らない音楽を聞いて、似ている部分だけピックアップして、

知っている曲に当てはめてしまっている感じです



いわゆる確証バイアス(confirmation bias)ですね

反証する情報を無視し、集めようとしないことです



臨床をする上での根っこに自分は無知である、知らないことはたくさんある

という気持ちでいないと、確証バイアスからは抜け出せません


常に「自分の知らないことはたくさんある」という気持ちで、

調べる癖をつけると、思いもよらない病名と出会うことがあります


今回は、IPEX症候群というはじめて聞いた病名でした



長い歴史がある人がフレアした時


これまでの歴史がある症例がフレアした時の考え方も勉強になりました

この3つは入院中の〇〇の時の考え方に似ているなあと思います


①原疾患の活動性が上がっており、治療が不十分


②治療(免疫抑制剤)による影響で、他の感染や薬の副作用などの修飾がかかっている


③そもそも診断名が違う



結局、今回は改めて①〜③を考え直し、①の結論に至りました


免疫抑制剤では制御できず、造血幹細胞移植まで行って治療したというケースでした



慢性下痢の難しいところ


①診断が難しい

診断アプローチが教科書に載っているような病態で考えると、実は難しいです

鑑別が多くていったい、何からすればいいのか・・・と途方に暮れてしまいます


病態ベースよりも、むしろ検査ベースで鑑別疾患を考えた方が良い気もします

認知症の時と同じですね


血液検査でわかるもの:甲状腺、副腎不全、セリアックの自己抗体、ANA関連疾患

画像検査でわかるもの:悪性腫瘍、解剖学的な異常(輸入脚症候群)

大腸内視鏡検査でわかるもの:生検ではcollagenous colitis、好酸球性腸炎、

IgA血管炎、アミロイドーシス、IBD、CMV、アメーバなどを探しにいきます


病理でしか診断がつかないことはよくありますので、

大腸内視鏡検査の病理は情報量が多く、早めに行いたい検査です


大腸内視鏡での便培養ではアメーバ、結核などが重要になります


上部消化管内視鏡検査でわかるもの:セリアックやwhipple病、クローン病を疑った場合


便検査でわかるもの:脂肪便、白血球、血便、便中カルプロテクチン(IBD)などで滲出性、分泌性、浸透圧性を見極めます


蓄便でわかるもの:αアンチトリプシン(吸収不良)


感染症学的検査でわかるもの:寄生虫やCDI、免疫不全者の一般的な腸管感染症


絶食試験でわかるもの:浸透圧性は絶食で止まります



もちろん、検査の前には病歴や身体所見で鑑別疾患の上げ下げを行う必要がありますが、

病歴と診察では原因がはっきりしないことが多々あります


その時には、私たちはなんらかの検査を駆使して診断をつけにいきます

検査のカードをいつ切るか、どれを切るかということを常に悩みます


外来で慢性下痢をみることは非常に大変ですので、いつ入院精査させるか?を悩みます


ポイントは体重減少です

体重減少があれば、器質的な疾患の可能性が高く、早めに検査が必要でしょう



②治療が難しい


もともと慢性下痢の原因がわかっていることもあります


例えば、アルコール多飲、慢性膵炎、強皮症、アミロイドーシス、

薬剤性(コルヒチン、メトグルコなど)、糖尿病性胃腸症、腸管切除後・・・


このようにある程度、慢性下痢の原因に目星がついていても、

増悪した場合は、本当に〇〇(ex.糖尿病性胃腸症)で良いのであろうか・・・

他の疾患を見落としていないか・・・


ということに悩まされます


止めてもいい下痢の場合、ロペミン、イリボー、リン酸コデインなどの薬剤で

ひたすら止めるしかありません


慢性下痢の治療も実は難しいのです



③慢性下痢・吸収不良のことを考えなければならない


水様性・脂溶性ビタミンや微量元素などが低下してくることが多いですので、

忘れずにチェックや補充が必要です


今回の症例はペラグラ大丈夫?と思いましたが、全く触れられていませんでした  笑


ペラグラも下痢しますし、皮膚炎がくるので、実は重要な鑑別だと思っていました



このように原疾患があって慢性下痢を起こしているが、

途中から吸収不良によるビタミン欠乏による症状が前面に立つことがあります


体の中ではそれが同時並行で起こってくるので、栄養障害で起きていることと、

原疾患で起きていることを分けて考えなければなりません



IPEX症候群については、

そんな疾患あるんだな〜という知識で十分かと思います 笑


最終診断の病名よりも、診断プロセスや葛藤が垣間見えて、勉強になりました



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