30歳 女性
主訴:薬を飲んだ後から、
喉が腫れたり蕁麻疹がでた
(※症例は一部加筆や修正を加えてあります)
救急車でこれから来院予定の方です
まずこれだけの情報で何を考えますか?
・アナフィラキシー
エピネフリンの筋注の準備
気道確保の準備(輪状甲状靭帯切開か穿刺)
・TSS
薬を内服した後に気道症状が出ているため、まずはアナフィラキシーとして考えるのが妥当ですね
来てから慌てるのも嫌なので、どこに何があるかは確認して、
すぐに取り出せるようにはしておく必要があります
来院してみると、若干の血圧低下がありますね
呼吸数はやや早く、浅いようです
病歴と身体所見を普通にとりに行く前に、ABCアプローチでいくのが良いでしょう
A 口腔内に腫脹はみられず、声もでる
stridorやwheezesはなし
B 酸素化低下なし
C やや血圧低下あり
蕁麻疹なし
本人は喉がつまるという訴えがあります
さて、どうしましょう?
具体的にはボスミンを打つかどうかですね
ボスミンをうつ禁忌はほぼないと思ってもらって良いです
病歴からは、薬を飲んだ後から症状が出ており、
アナフィラキシーの気道症状として対応してもよいでしょう
アレルギー歴を確認すると、クラビット点眼で目が腫れたことがあるようです
ということで、アナフィラキシーが疑われ、
エピネフリンが筋注されましたが、喉の症状やバイタルは変わりませんでした
本当にアナフィラキシーなのでしょうか?
ABCは安定しているということで、H & Pのアプローチに切り替えて、
詳しく病歴を聴取する必要があります
詳しく病歴をとってみると、腸炎は子供からうつったようです
腸炎症状に対して近医から
・レボフロキサシン
・ファモチジン
・ビオスリー
・メトクロプラミド
・カロナール
が処方されておりました
薬を内服した5分後に喉が詰まったような感じが出現し、
症状が改善しないため、救急車で来院されました
蕁麻疹もあったようですが、来院までの間に消失してしまったようです
さて、病歴を詳細にとったところで、どう考えますか?
喉のつまる症状が持続しているため、
アナフィラキシーとしてエピネフリンを打つ
抗ヒスタミン剤を投与してみる
胃腸炎として普通に対応していく
喉が腫れているかファイバーで見てみる
いろいろ意見は出ましたが、もう一つ大事なことがあります
ここですぐにやって欲しいことがありますが、わかりますか?
よくわからない喉の症状といえば・・・
心筋梗塞を疑いますよね
ということで、心電図をとりましょう
アナフィラキシーになった人は、同時に急性冠症候群になる人がいます
kounis症候群として知られています
その後、喉のつまる症状の他に眼球上転や手足をバタバタと動かさないといられない症状が出てきました
バイタルは変化なく、一見、不穏様でした
不穏になった場合、まずはショックかどうかを考えますが、
あまりショックのような状況ではなかったようです
この状況でどうしましょうか?
血管性浮腫も疑われ抗ヒスタミン薬が投与され、
腹痛に対してブスコパンを投与されましたが、何も変わりませんでした
プリンペランによるセロトニン症候群を疑い、神経診察を行いましたが、
セロトニン症候群らしさはありませんでした
さて、どうしましょう?
パニックや不安が強そうなので、セルシンをうってみるというのはありですが・・・
この状態はメトクロプラミドに伴う不随意運動でしょう
メトクロプラミドに伴う錐体外路症状は年齢によって違います
高齢者の場合は、振戦などパーキンソニズムのような症状が多いですが、
若年者の場合、アカシジアやジストニアのような派手な症状が目立ちます
実際はセルシンが投与されましたが、何も変わりなく、
急に泣き出したりしたようです
(これはBZによる脱抑制でしょう)
その後、神経内科で入院経過観察となり、翌日には症状は軽快し退院となりました
神経内科の先生は心因性という判断でしたが、
メトクロプラミドによる眼球上転発作とジスキネジア、アカシジアだと思います
本症例は薬による害が2つもあった症例です
①レボフロキサシンに伴うアナフィラキシー症状(蕁麻疹、気道症状)
②メトクロプラミドによる錐体外路症状(眼球上転、アカシジア)
この症例から学ぶことは、2つあります
メトクロプラミドによる急性の錐体外路症状には注意しよう!
というのが、一つです
詳しくはこの二つによくまとまっています
女性患者、小児、30歳未満の成人、
メトクロプラミドの高用量投与患者は、
ジストニック反応を発症する可能性が高い
まれにstridorや喉頭痙攣で呼吸苦もくるようです
Tianyi et al. BMC Res Notes (2017) 10:32 DOI 10.1186/s13104-016-2342-6
病気で苦しむのは、致し方ないところもあります
ですが、この方はよかれと思って出された薬で、もっと苦しむことになってしまいました
明らかにウイルス性腸炎の患者さんに
・レボフロキサシン
・ファモチジン
・ビオスリー
・メトクロプラミド
・カロナール
を処方された前医の先生は、その後の経過を知っているのでしょうか・・・
「無自覚の悪」「悪意のない悪」
ほど恐ろしいものはありません
というのが、2つ目の学びです
仏教の教えにもあります
阿難という弟子がお釈迦様に、
「悪いと知りながら造る罪」と「悪いと知らずに造る悪」と
どちらが恐ろしいと思うかと尋ねました
それに対してお釈迦様は、
「知らずに造る悪の方がより恐ろしい」と答えています
自分の行いが悪だと知っていれば、悪であることを意識しているので、
なるべく抑えようとしたり、罪の意識が芽生えるかもしれません
ですが、自分の行いを悪だと思っていない場合、
(むしろ善行だと思っている場合もある)
歯止めが聞かず、無自覚のうちに、悪を作り続けてしまうので、本当に恐ろしいです
つくづく、薬は有害ですね
余計な薬は出してはいけないといういい教訓の症例です
薬による副作用はどれだけ注意しても起こりうるものではありますが、
せめて
「薬は良いことばかりではなく、
悪いことをしているかもしれない」
という自覚は忘れずにいたいものです
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