2019年7月20日土曜日

治せる可能性がある嚥下障害 前半

もともと畑するくらい元気な75歳  男性が嚥下障害を主訴に来院され、

精査目的に入院となりました

病歴は1週間前から食事の途中で、嚥下をするのが難しくなってきたのが、

始まりでした


嚥下は徐々に悪化し、水分も取れなくなってしまったので、

来院されました


先行感染はなく、複視や眼瞼下垂の自覚もありません

日内変動や日差変動もありませんでした

頭痛、頸部痛、痺れ、手足の麻痺、めまいもありません


ですが、声は鼻にこもったような話し方になってきたとのことでした


既往、薬は省略します


診察すると、わずかに開鼻声であり、

両側軟口蓋の挙上不全がありました

カーテン徴候はありませんでした


また眼瞼もやや落ちているかな??くらいで、優位ととるかは微妙でした


エンハンスはされませんでした


嚥下はかろうじてできますが、やっとこさという感じで、

かなり頑張らないと、唾ですら飲み込めない状況でした


それ以外の脳神経や運動、感覚、小脳、失調の異常所見はありませんでした


顔面や口腔内に皮疹はありませんでした




サマライズすると、

1週間の急性経過で進行する嚥下障害と開鼻声を呈した高齢男性です


さて、診断は???


まずは、

嚥下障害のおさらいです

嚥下には5期ありましたね


そして、嚥下が悪化した人を見たら、

ABCDEを検討します





嚥下障害をもう少し簡単に分類します

グラム染色みたいに、4分割表で考えます

(1)咽頭か食道か

(2)器質性か機能性か





飲み込みが悪い人がいたら、

どの辺で飲み込みにくさを感じているか聞いてみましょう


頸部を指す人がいたら、その原因は咽頭か食道の両方あり得ます

しかし、

胸骨の裏を指す人がいたら、その原因は食道になります


あとは、通り道に物理的な障害があるかどうかで、分けます


なので、画像評価やファイバーや内視鏡を行う時もあります



今回は、明らかに咽頭にたまった唾液を嚥下する時につらそうなので、

咽頭が原因と考えました


また口腔内の見た目は何ともなく、

CTでも食道や咽頭に占拠性病変はありませんでした


耳鼻科のファイバーでも腫瘍や狭窄は一切認めず、

梨状窩に唾液の貯留がみられました



以上の所見と、両側の軟口蓋の挙上不全があり、開鼻声もあることから、


器質的なものよりは機能性であろうと判断しました



ここまで来ても、まだまだ鑑別はたくさんあります


一番難しい所です


次に咽頭期を詳しくみていきます


咽頭が「ごくん」と嚥下してくれるためには、

多数の神経と筋肉が連動する必要があります

とても高度なことを一瞬でやり遂げているのです



特に鼻に抜けないように、軟口蓋が挙上してくれているのですが、

それが出来なくなると、

空気や食べ物・液体が鼻に抜けるようになります

そうなると、

開鼻声になりますし、副鼻腔炎にもなります



咽頭が収縮し、食道へ食べ物を運ぶための神経の流れをみていきます


核が延髄にあることはよく知られていますが、

その核を支配する大脳の中枢については、

よく分かっていません


弁蓋部や島皮質などいろいろが、関与しているようです

そこから、核上の神経線維がでて、

延髄の孤束核や疑核にたどり着き、

舌咽・迷走神経を介して、

咽頭の筋群を動かしています


なので、考え方は、

①中枢性、②末梢性、③神経筋接合部、④筋肉


のどれかを考えます


さらに中枢性は、

(1)パーキンソニズム、(2)偽性球麻痺、(3)球麻痺

に分けて考えます

偽性球麻痺と球麻痺の鑑別は、

・下顎反射、口輪筋反射、眼輪筋反射の亢進があるかどうか、

・軟口蓋挙上の左右差やカーテン徴候があるかどうか
(偽性球麻痺は左右差なし)

・他の神経異常所見

・MRI所見

を総合して、判別します


最もやっかいなのは、ALSです


ALSは偽性球麻痺にもなりますし、

球麻痺にもなります


パールとしては、偽性球麻痺のパターンで、

頭部MRIに所見がなければ、まずはALSを考えましょう


本症例では、


下顎反射や口輪筋・眼輪筋の反射亢進はなく、

左右差はありませんでした

他の神経異常はみられず、

MRIでも異常所見はありませんでした


そのため、どちらかというと、球麻痺なのかなと思いました



球麻痺は延髄の核の障害ですが、

そこからでる末梢神経が障害されても同じ症状になります


ですが、末梢神経が両側でやられるという状況はかなり稀です

例えば、血管炎やVZV、肥厚性硬膜炎や悪性腫瘍の頭蓋骨転移で巻き込まれた

という鑑別がありますが、

両側同時に?ということが、起こり得るかを検討しなければなりません


例えば、GBSであれば、最初は片側ですが、次第に両側になってきます


神経筋接合部や筋肉がやられる場合は、

両側で障害が起こります


しかし、片側と両側にこだわりすぎると、非典型症例に足元をすくわれますので、

絶対ではないことを理解しておきましょう 

あくまで「傾向」です



この辺りは、

一つ鑑別にあがれば、芋づる式に鑑別疾患がわくところです


GBS(PCB)が鑑別だよね

といった瞬間に、

MGも筋炎も筋ジスもALSもVZVも肥厚性硬膜炎も癌の骨メタも血管炎も

鑑別にあがるという事です


あとは、どうこれらの優先順位を決めていくかです





嚥下障害 まとめ 前半
・嚥下障害をみたら、4分割して考える
→咽頭VS食道、器質的VS機能的



・咽頭の機能的障害が一番難しい
→中枢(パーキンソニズム、偽性球麻痺、球麻痺)、末梢、神経筋接合部、筋肉のどれか



・偽性球麻痺と球麻痺を鑑別できるようになろう
→顔面の反射、左右差、他の神経症状、画像で見極める

参考文献:Am Fam Physician 2000;61(8):2453-2462.
神経治療 Vol.31 No.4 (2014)
耳喉頭頸 88巻4号 2016年4月
medicina Vol.54 No.6 2017-5
uptodate

0 件のコメント:

コメントを投稿

倫理の勉強会

TED にジル・ボルト・テイラーという 脳科学者が脳卒中になった時の話があります  

人気の投稿