2022年6月8日水曜日

低血糖 〜インスリンとCペプチドの測定を忘れずに〜

低血糖について


解説動画

解説動画②


まず、その低血糖に病的意義があるかを考える必要があります

いわゆる 低血糖と低血糖症の違いです


低血糖は検査値として血糖値が低いことです


低い血糖が全て問題というわけでもありません

健常者でも低血糖になることはありますが、普通は症状はありません



問題になるのは、低血糖症です


低血糖症はwhipple 3徴が揃う状態です


こちらは何らかの原因があり、原因検索を行う必要があります



無自覚性低血糖という状態もありますが、これは無症状の低血糖をいうわけではありません


無自覚性低血糖は自律神経症状がなく、いきなり中枢神経症状が出現する状態のことをいいます


無自覚性低血糖は非常に危険です

本人が気が付かないまま、意識障害に陥るため、場所や状況によっては命の危険があります


信号で例えると、自律神経症状は黄色信号です

このままだと危ないという注意喚起です


放っておくと、赤信号の中枢神経症状に突入します

進んではいけないところを進もうとしている状態です



高血糖は悪いのですが、すぐに命の危険が出ることは稀です

一方、低血糖はすぐに命の危険がありますし、後遺症のリスクもあります


高血糖は悪いのですが、低血糖はもっと悪いと覚えておきましょう




低血糖症の患者さんに出会ったら


低血糖症を起こす疾患は、

インスリノーマ、薬剤、副腎不全、アルコール、肝不全、ダンピング・・・


鑑別がたくさんありすぎて、パニックになります


ですが、低血糖は原因検索が難しいわりに治療は簡単です 笑


グルコースのIVです

簡単なのですぐに治療したくなりますよね


それはもちろん正しいのですが、

グルコースを静注する前に採血をしていただきたいと思います


原因検索はその採血があれば、後からでも構いません


低血糖時のインスリンとCペプチドの値があれば、

鑑別疾患を絞ることができます



現実は状況や文脈で原因は明らかなことがほとんどです


・敗血症を疑う状況での低血糖

・アルコール多飲歴があり、食事摂取不足している人の低血糖

・肝硬変の人が、ご飯がとれなくなった時の低血糖

・血糖コントロールが改善してきているにも関わらず、DO処方されているSU剤

・食事量が低下しているにも関わらず、同じインスリン量をうった

・胃切除後の人の食後の低血糖  など


ですが、状況から原因は予測できても、その時点で確定することはありません


インスリンやCペプチドがあれば、後で自分の予想があっていたかを確認することができます


多くの場合、インスリンやCペプチドは低下していることが多いのですが、

高値であった場合が問題です



低血糖症にも関わらず、インスリンが抑制されていない病態は限られています


インスリン自己免疫症候群やインスリノーマ、ダンピング症候群、薬(SU薬、グリニド)、インスリンの注射などです



これらを鑑別するためには、

①インスリンやCペプチドの絶対値:

→著明高値の場合、インスリン自己免疫症候群が疑わしい


②インスリンとCペプチドの比:

→1以上の場合、インスリン自己免疫症候群が疑わしい


③インスリン自己抗体の有無:
→陽性であれば、インスリン自己免疫症候群が疑わしい

④Cペプチドが上がっているかどうか:
→上がっていなければ、インスリン注射

に注目することで、鑑別が進みます




インスリンが上がっている疾患の代表格は
インスリノーマとインスリン自己免疫症候群です


他のダンピングや薬は原因不明になることは少ないので、
この二つの鑑別を進めることがメインになります


インスリノーマのゲシュタルトは、
「原因不明の繰り返す意識消失や治らないてんかん患者さん」です



ですが、インスリノーマを診断したことがある医師はどれくらいいるでしょうか?



インスリノーマは非常に稀な疾患であり、
ほとんどの医師は名前だけ知っている疾患になっていると思います 



そのため稀すぎてインスリノーマを想起できない、
というのが1つ目のピットフォールです



そして、意識消失時は採血されておらず、
意識が改善した時には血糖値が戻っているということが起こり得ます


そのため低血糖が発覚しにくいというのが2つ目のピットフォールです




インスリノーマを疑う状況は、
パニック障害を疑った時や難治性のてんかん発作、
不定愁訴が続く人、副腎不全を疑う時です



血液検査ではHbA1cが5以下の時に
「あれ?慢性的に低血糖があるのだろうか?」

と疑うこともできます



インスリノーマを疑ったら、同時にインスリン自己免疫症候群も鑑別になります


低血糖時にインスリンとCペプチドを測定しておくことで、
この二つの疾患に迫ることができます


インスリン自己免疫症候群は典型的には、食後の低血糖発作です


食後の低血糖発作といえば???


ダンピング症候群ですよね



ですが、胃はある


という時にインスリン自己免疫症候群を疑います


インスリン自己免疫症候群(IAS)は、平田幸正先生によって報告された疾患で、
なんと1970年にIASの概念を報告しております

海外では平田病とも言われます


20〜30歳の女性に多いのは、この年代の女性にバセドウ病を合併していることが多く、
メルカゾールを内服していること、美容目的のサプリやグルタチオンの影響が考えられます


若い女性の診断がつかない不定愁訴をみたら、
一度はインスリン自己免疫症候群を疑ってもよいかもしれません


インスリン使用歴がなく、インスリン自己抗体を測定し、陽性であれば診断がつきます





まとめ
・低血糖の人をみたらwhippleの3徴が揃っているかを確認する
→低血糖と低血糖症は違う

・低血糖症は早期に治療しないといけないが、治療前に忘れずに採血を行う
→インスリンとCペプチドを測定する

・低血糖症の鑑別は多いが、インスリンとCペプがあれば後で考えることができる
→インスリンとCペプが上がっているか、下がっているかで大きく鑑別が異なる


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