※ 症例は加筆・修正を加えてあります
自動車の単独事故は「何か」が潜んでいます
8Sでも10Sでもなんでもいいですが(笑)
たくさん「何か」が潜んでいることだけ覚えておけば大丈夫です
難しいのは事故後のバイタルが、
外傷性変化なのか、
外傷を引き起こした内科的疾患なのか、
それとも混合なのか、非常に悩みます
今回はBP120/91, P147, T39.2でした
さて、何かおかしいことに気がつきますか?
熱があって、頻脈は良いとしても
脈圧がおかしいのです
脈圧は心臓から拍出される血液量と動脈の伸展性によって定まっています
脈圧が収縮期血圧の25%未満であれば、
低心拍出量状態(心原性ショック、左心不全、循環血液量減少、心膜疾患、心タンポや収縮性心外膜炎)、大動脈弁狭窄症を考えます
今回の症例ではsBP120なので、25%となると30です
脈圧は29であり、25%以下ですね
さらにおかしいのは、これだけ熱が高く頻脈にもかかわらず、
この脈圧ということです
発熱があると高心拍出になり、脈圧は上がって欲しいです
脈圧が80以上であれば、高心拍出量状態(大動脈弁閉鎖不全症、甲状腺機能亢進症、動脈管開存、脚気、妊娠、貧血)を示唆します
高齢者の場合、動脈硬化により動脈の伸展性が低下し、脈圧は上昇していることが多いです
アルコール多飲歴があるので、脚気を疑いたくなりますが、
この脈圧からは可能性が低くなります
今回の症例ではJATEC対応が行われ、
FSATを行った際に、ショックとしてRush も行うのがスマートですね
心エコーを行うと全周性の壁運動低下があり、EF30%以下でした
心嚢水は少量あり、心拡大もありました
IVC 10mmです
気胸はなく、大動脈にもフラップはありませんでした
救急隊からの情報では、
電柱にぶつかった単独事故です
事故後、自分で車から降りて横になっていたようです
あまり大きな事故ではなかったようですね
ただ、受け答えはできますが、朦朧としていて、
しっかりした病歴は取るのが難しいです
心臓の動きが悪く、心電図をとってみると、
広範囲でST-T上昇がありますが、Ⅱは上がっているものの、
Ⅲは陰転化していたり、aVrのPRが上昇していたりしています
冠動脈疾患よりは心筋炎を疑う所見でした
結局、カテで優位狭窄は見られず、心筋炎の診断になりました
今回は外傷性の要素も考えつつ、
内科的疾患を考えるという二重の思考プロセスが必要でした
どこで、外傷対応→内科的対応に切り替えるかは、難しいですね
ある時から全振りというよりは、
こんな感じで徐々に移行していくイメージでしょうか
結局、インペラ以外の治療は行いましたが、
それでも最後はerlectrical stormになってしまいました
激症型心筋炎は恐ろしいですね
心筋炎をいかに見逃さないか?というのは、内科医の使命です
循環不全や胸痛があれば、誰でも疑えますが、
風邪やインフルエンザを疑うような症状だけの心筋炎をどう疑えばよいのでしょうか?
自分は、岸田先生に教えてもらった、
風邪の症状のわりに「やたらとだるそう」な人を見たら、
心筋炎と肝炎を疑うというパールがあり、それを実践してきました
killer flu-like diseaseという覚え方もあって、
急性心筋炎、急性肝炎、急性白血病、激症1型DM、RPGNです
さらに今回の症例のようにバイタルと絡めて疑えるとなお良いですね
みなさん、脈圧、注目していますか?
まとめ
・自動車の単独事故は内科的な疾患が隠れていると思って対応
・外傷対応と内科的対応、どちらも同時並行に行いつつ、何が一番criticalかを見極める
・発熱時に頻脈で小脈圧の時は心筋炎を考える
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