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症例 92歳 男性 主訴:酸素化低下
Profile:9-12月まで圧迫骨折で入院歴あり
その後、施設へ退院
ADLは立位は可、車椅子移乗は介助が必要なレベル
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①ディスカッション:snap diagnosisは?
司会「はい、じゃあ、圧迫骨折の人が呼吸苦や低酸素血症になったら、
何を思い浮かべますか?
まあこの症例は骨折して退院後なので、ちょっとシチュエーションは違いますが」
研修医N「圧迫骨折後の呼吸苦ですか??
うーん、肺塞栓とか?」
司会「いいね!動かなくなるから、DVT-PEは起きてもいいね、他には?」
発表者「他ですか?うーん、脂肪塞栓とか?」
司会「脂肪塞栓はどちらかというと、頸部骨折とかで起こるかな。
あまり腰椎の圧迫骨折では見ないね。
骨折すると痛いでしょ?そして何がされる?」
研修医「コルセットですか?じゃあ、誤嚥性肺炎とか?」
司会「そうだね!誤嚥性肺炎もよくあります。
痛みで変な姿勢で水分とったりしている人が多いからね。
痛みのせいで、十分に咳が出来なくなったりするし。
他には?」
研修医「・・・・」
司会「痛みのせいで、カテコラミンがでたり、NSAIDsが入ったりして、
心不全になることもよくあります。
こんな風に圧迫骨折後の呼吸苦で起こりやすいことは知っておいていいね。」
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現病歴:入院3か月前 圧迫骨折 その後、後方固定術施行
その後ずっとリハビリ
入院5日前 3か月間のリハビリを経て、施設へ退院となった
入院3日前 食欲低下あり
37度台の微熱が出現
入院1日前 往診あり、風邪薬が処方された
入院日 SPO2 80%と酸素化低下あり、入院依頼
救急車にて当院搬送となった
既存症:高血圧、不眠症、COPD、褥瘡、認知症
内服:ロゼレム、ワンアルファ、ブロチゾラム、重カマ、カルボシステイン、センノシド、パリエット、カロナール
来院時バイタル
体温36.9度、血圧71/41、脈88、SPO2 97%(0.5L)、呼吸数27回/分
意識レベル クリア
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②ディスカッション:このバイタルみてどう動く?
司会「意識レベルって本当にクリアなの?
クリアっていうのは、見当識障害がない、
つまり、時と場所と人が完璧に言えないといけないんだけど、
認知症も進行している人なんだよね?
そんな人が「時」を正確に言えるとは思えないんだけど・・・」
発表者「そうですね、そこまではチェックしていないので、クリアではないですね
JCSⅠ台です。」
司会「了解です。あと見た目はどうでしたか?」
発表者「えーっとですね、あんまり重症感はなかったような・・・
自分でストレッチャーからベッドへ移動できたような・・・
あれ、どうだったかな・・・?」
司会「そうだね、記憶に頼ると失敗するので、記憶より記録ですね。(笑)
カルテ記録はとても大事です。
さて、この状況どうしましょう?
自分一人と看護師さんしかいない状況だったら、どんな風に動きますか?
病歴とる?診察する?処置する?
こういう状況って、病歴とってー、診察してー、そこから検査してー、治療してー
ってやっていると、遅いので、同時並行で物事が進んでいきますね。」
研修医「血圧が低いので、再検したいです。」
発表者「再検して83/41でした。
末梢の冷感は特になかったです。」
研修医「わかりました。では、ショックと考えて、
正中にルートをとって、外液を全開で投与したいので、
それは看護師さんにお願いします。その間に診察します。」
司会「なるほど、ありがとうございます。
他の皆さんはどうですか?」
専攻医\N「この状況だと、まだ何の血圧低下か分からないので、
心原性という可能性もあります。
心不全が悪化する可能性もあるかもしれないので、
本当に外液を全開で入れていいかは考えないといけないと思います。」
司会「そうだね。」
専攻医N「あとは、ルートとるときに血液培養もとります。
ガスもとるので、そこで血培もとります」
司会「ありがとうございます。
そうですね、血培という選択肢があれば、
ルートとる時に一緒に取ってしまえばいいですね。
今回の血圧低下をショックと言っていいかは、まだわかりませんが、
ショックを見た時の対応はどうですか?
サルも聴診器って習いました?」
研修医「え?それって、ショックの時の対応なんですか?」
司会「えー?違うの?ショックの時の対応って福井の林先生、言ってなかったっけ?」
研修医「なんか、どの主訴でも救急車できたら、
だいたいやっているなあっていう気がして、なんでも使っていました(笑)
あまりショックの時って気がしませんでした。」
司会「まあ、確かにそうだけどね、もともとはショックの時の対応なんだよ。
中でも今回大事なのは、超音波と心電図だね。
最近はショックの時の超音波の検査をRUSH(Rapid Ultrasound in shock)examとして、
流行ってきているね。
何みるんだっけ?」
研修医「ポンプ、タンク、パイプです、あと肺を見ます」
司会「はい、ありがとうございます。
ポンプ(Pump)は心機能、心嚢水、右室の拡大、心臓の内腔などを見ます
タンク(Tank)は体液量の評価をIVCをみたり、胸腔内、腹腔内の液体貯留をみます
パイプ(Pipes)は大動脈解離や瘤、下肢のDVTをみます
肺は気胸の有無やうっ血があるかどうかをチェックします
網羅的に系統だって、チェックすることで見落としが減りますね。
まあ、もちろん、その前に診察するわけですけども。」
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身体所見
見た目 るい痩が著明 36kg
末梢は冷たくも暖かくもない
痰がらみがひどく、吸引すると白色の痰が引けた
口腔内は汚染あり
胸部 呼吸音 全体的に減弱あり
心雑音なし
腹部 平坦 軟 圧痛は心窩部から右季肋部にあり
筋性防御なし
四肢 浮腫なし
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③ディスカッション:ここで出てきていない大事な診察は?
司会「隠すねえ(笑)
皆さん、追加の診察で何を聞きたいですか?」
研修医「頸静脈をみたいです!」
発表者「頸静脈は張っていませんでした。
臥位にしても張っているようには見えませんでした。」
司会「了解です。ショックの時に頸静脈はとても大事です。
末梢が暖かいか、冷たいか。
そして頸静脈がはっているか、張っていないか
この二つはショックの時に、パパっととることができて、
非常に有用な所見なので、血圧が低い人をみたらまずこの二つは必ずチェックしましょう。
ところで、頸静脈の診かたはみなさん、分かりますか?
頸静脈には内頚静脈と外頸静脈がありますよね。
本当は内頚静脈の↓に二度沈む拍動を探したいのですが、
なかなか慣れないと、見るのは難しいです。
特に高齢者の場合、動脈が蛇行して動脈の↑に来る拍動のせいで、
内頚静脈の↓に沈む拍動は分かりにくかったりすることもよくあります。
これは触ってみないと分かりませんし、それでも難しい時は超音波を当てます。
なので、まずは簡単に見える外頸静脈で代替してもよいと思います。
よく頸静脈の怒張はありませんでした。というプレゼンを聞きますが、
そんなものあるわけないだろう!
って言いたくなる時も結構あります。
頸静脈の怒張の意味わかりますか?
頸静脈の怒張というのは、内頚静脈の↓に沈む拍動がなくなり、
べたっと内頚静脈が浮き出てしまっていることです。
(と沖縄の宮城先生が言っていました)
この状態になるのは、3つの病態しかありません。分かりますか?」
外科医「緊張性気胸」
研修医「心タンポ、肺塞栓。つまり閉塞性ショックになるものですか?」
司会「その通りです。だからこれらを疑っていればいいですが、
めったにお目にかかる病気ではありません。
なので頸静脈の診かたは、頸静脈の怒張があるかないかではなく、
もっと実用的に使いましょう。
実際に使えるのは、外頸静脈です。
外頸静脈をみることで、そのtopがだいたい内頚静脈の拍動のtopと同じなので、
外頸静脈をみることをお勧めします。
45度の角度で外頸静脈がうまく観察できない時にはどうしたらよいでしょうか?」
研修医「寝かせてみます。」
司会「そうですね、寝かせると普通の人は見えます。
寝かせても外頸静脈がみえないというのは、かなりの血管内脱水があるという事です
他にはどうですか?」
研修医「・・・」
司会「外頸静脈がありそうな部位の心臓に近い所を指で押さえてみます。
そうすると、ふわっと、外頸静脈が浮き出てきます。
そしてその指を離すと、また消えていきます。
そうやって、外頸静脈の位置を把握して、どこにtopがみえるかを確認します
それを胸骨角からの距離を測定しておけば、治療効果判定に使うことができます。
なので怒張があるかないかだと、もったいないので、
血管内volumeの治療効果判定にも使える外頸静脈をしっかり観察しましょう」
司会「では、症例に戻りましょう。
今回は臥位にしても外頸静脈があまり見えなかったようです。
ということは、かなり血管内脱水があるということでしょう。
ショックの鑑別として、心原性、hypo、閉塞性、distributiveがありますが、
今回はhypoや敗血症が可能性としては上がりますかね。
さてこの後どうなっていきました?」
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その後、外液の補液にて血圧は上がってきたため、
誤嚥性肺炎の疑いで胸部CT検査へ進んでいった
しかし、CTでは肺炎像はみられなかった
血液検査にて肝酵素やbilの上昇はなかったが、胆道系酵素の著明な上昇があり、
炎症反応も上昇していた
そのため、胆管炎を疑い、USや腹部CTが追加され、閉塞起点の評価が行われた
しかし、明らかな閉塞起点は確認されず、胆嚢の腫大や壁肥厚も確認できなかったため、暫定的に胆管炎疑いにて、抗生剤が開始となった
MRCPは入院後予定
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④ディスカッション:この症例で、病院機能評価で問われる項目は何でしょうか?
司会「はい、ありがとうございます。
まあ、診断は胆管炎でよいのではないでしょうか。
発表者「でもbilがあがっていませんし、画像上も胆管の拡張はありませんでした。」
司会「まあ、それもよくありますね。
造影すれば、門脈周囲の造影効果が見えたりして診断に有用かもしれませんが、
診断基準に照らし合わせても、胆管炎の疑診にはなります。
極論すると、
胆嚢炎の診断は診察で行い、胆管炎の診断は検査で行います。
胆管炎というのは、診察はあてにならないので、検査だよりです。」
発表者「わかりました。」
司会「では、皆さんに最後の質問です。
この症例で、もし病院機能評価が行われるとしたら、
評価者は何を質問するでしょうか?」
専攻医「(笑)先生、そんなの分かるんですか?」
司会「わかります。僕が病院機能評価するとしたら、
この症例では必ずこの項目をチェックします。
それは何でしょうか?」
研修医「えーなんだろう?超音波したか?とかですか?」
司会「違います」
研修医「うーん、わかりません」
司会「では、聞きます。
皆さん、qSOFAって聞いたことありますか?」
研修医「あー、なるほど、ありますね。
確かにこの症例もqSOFAでやれば、敗血症が疑われます。」
司会「そうですね、来た時点でqSOFA3点で、敗血症が疑われます。
事実、すぐに血培はとっていますよね。
ということは、みんな敗血症は最初から頭にありましたよね?
じゃあ、聞きますが、
この症例で抗生剤が入ったのは、病院に来てから何分後ですか?」
発表者「えっと、、、最初は肺炎かと思っていましたが、CTで肺炎がなくて、
その後、血液検査が帰ってきて、胆管炎かもしれないってなって、
またCT撮り直したりして、結局その後なので、けっこう時間かかっています。」
司会「ですよね。この症例の肝はここです。
敗血症が想起された症例で、
いかに抗生剤を早く入れられるかどうか?
みんなしっかり教育されているので、
痰や尿といった検体があれば、グラム染色してそれをみてから、
抗生剤決めていませんか?
バイタル落ち着いていたり、すぐに検体がとれてグラム染色に、
時間がかからないのであれば、そのプラクティスでもいいです
ですが、検体をとるまで抗生剤をいたずらに待ったり、
敗血症っぽいけど、focusがはっきりするまで、検査のために、
抗生剤をまったりしていませんか?
覚えておいてください。
最初から正確な診断の下、正確な抗生剤投与を目指さなくてもいいんです
それよりもスピードの方がはるかに大事です
なんでもいいから、抗生剤を早く入れてください
検体が少し後からとれたり、グラム染色を後からして、
どうやら痰は肺炎球菌のようだ
ってなったら、その後から変えてもいいんです
抗菌薬の投与が遅れれば遅れるほど、死亡率は悪化します
(N EngJ Med 2017,May 21)
敗血症に伴う血圧低下があるなら、なおさら早く入れましょう
自分が抗生剤を投与していない時間で、
患者さんの命がだんだん短くなっているかもしれないという感覚をもちながら
診療することが大事です。
ということで、自分が病院の機能を評価するなら、
この症例では、抗生剤をいつ入れたかをチェックします。」
研修医「確かに、血圧が下がっていて、他の鑑別もある中で、
抗生剤を早く投与しなければならないという感覚は抜けていたかもしれません」
研修医「ですが、qSOFAって認知症のある高齢者の人の場合、意識レベルがひっかかってしまって、難しくないですか?」
司会「その通りです、昔はqSOFAなんてなかったですし、
自分もqSOFAに頼ってこなかった世代なので、ほとんど使いません。
ですが、初学者が敗血症を想起するためには有用だと思います。
敗血症の診療のポイントは、
いかに早く敗血症を想起・認知できるかと
いかに早く介入(抗生剤投与やドレナージ)できるかです。
伝えたいことは、qSOFAを使いましょうということではなく、
敗血症を想起・認知した時に、
早く抗生剤投与をしないといけない
という焦燥感に駆られてほしいという事です。
もちろん、ドレナージできるものがないかの検索も非常に重要です。
ではこれくらいで終わりにしましょう。
とても勉強になる症例でした、ありがとうございました。」
まとめ
・記憶より記録が大事
→正確なカルテよりも、早く書く方が大事
・血圧低下をみたら、末梢と頸静脈をチェックして、RUSHにつなぐ
→詳細な病歴聴取よりも、早く超音波を当てることが大事
・敗血症を想起したら、
→正確な診断よりも、早く抗生剤投与することが大事
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