2019年12月29日日曜日

妊娠高血圧症候群


近くの産婦人科病院より、紹介がありました


生来健康な初産の若年女性

分娩は正常分娩で、滞りなく終了
しかし、分娩3日後から血圧が高くなり、尿タンパクが出ており、
頭痛や目がチカチカする症状がある

アダラート®️内服し、血圧は落ち着いてきているが、精査加療目的に紹介となりました

さてどうしましょう?


まず、診断は妊娠高血圧症候群、妊娠高血圧腎症です

そして頭痛や眼のチカチカした症状は、子癇の前兆やPRESの可能性があります
ということで、非常に怖い状態ですが、
すでに分娩後であり、母体のことだけを考えればいいので少し安心です


結局、入院加療となった時点で、すでに分娩後7日経っていました

意識は清明で、血圧は120/80と落ち着いています
浮腫もあったそうですが、今は改善傾向です

今の症状は両手の痺れだけです

頭痛や眼のチカチカした症状は軽快していました
尿タンパクも陰性です
血液検査では、特に異常はありませんでした
MRIでは特に異常は見られませんでした


さて今、この状況はどういう状況で何をするのがよいのでしょうか?

痺れの原因は、妊娠高血圧が関係しているのでしょうか

アダラート内服して血圧は落ち着いていますが、
以前に頭痛や視覚障害があり、マグネシウム製剤は使った方が良いのでしょうか



この領域って、内科医は苦手というより、手出しできない領域ですよね

ということで、ちょっと勉強してみたところ、
敗血症と同じように考えれば、とっつきやすいのではないかと思いました


まず、妊娠高血圧腎症とか、子癇とか、HELLP症候群とか、名前が色々ついていますが、
そこに惑わされてはいけません

結局は妊娠高血圧症候群というのは、

妊娠✖️高血圧✖️臓器障害がおきているということです

そして起きやすい臓器障害が、腎臓や脳、肝臓、血液であり、それぞれに名前が付けられているということだけです

この概念は敗血症も同じです
敗血症と比べながら見ていきましょう


まず定義は妊娠高血圧症の場合は、国ごとや学会でことなりますが、
ここでは大雑把に妊娠✖️高血圧✖️臓器障害としておきます

ただ、臓器障害が出る前に気が付きたいので、
想起するポイントとしては、血圧です

血圧が高くなってきたら、注意が必要です


敗血症の場合はqSOFAで想起します

そして、両方とも重症度を検討します
重症度の検討は各臓器障害の有無を調べる必要があり、
敗血症の場合は、SOFAで数字化できます

妊娠高血圧症の場合は、血圧の値や胎児の状態も考えなくてなりません



敗血症の場合、最も重症になると、敗血症性ショックといわれます

妊娠高血圧症の場合は、どの臓器障害があってもemergencyですが、
臓器障害がなくても血圧が著明に高値になると、高血圧緊急症といわれます



治療は敗血症の場合、すみやかに培養とって、focusを探して抗生剤治療です
そしてドレナージが必要であれば、すみやかに各科コンサルトです

重症であればICUに入り、バイタルをサポートする必要があります


妊娠高血圧症の場合は、軽症の場合、降圧やマグネシウム製剤の有益なエビデンスはないとされており、タイトフォローがメインになります

降圧薬は使ってはいけないわけではないので、現実は使われていることもよくありますし、重症化の兆しがあれば使います

今回は腎症や視覚障害の症状があり、降圧薬がすでに使用されていたのは、当然だと思います
こちらに紹介となった時には、幸い降圧薬が効いたのか、軽快していましたので、
本症例はマグネシウム製剤も使うことなく、すぐに退院していきました



ちなみに痺れの原因は分かりますか?
振ると楽になるそうです


妊婦が手の痺れを訴えたら、あれですよね

手根管症候群です

一応、神経伝導速度もしてもらい確定しました


まとめ
・妊娠高血圧症は敗血症と考え方が似ている
→妊娠高血圧症は、産婦人科医にとっての敗血症!

・妊婦が手の痺れを訴えたら、まずは手根管症候群を考える

参考文献:Intensivist VOL.8 NO.2. 2016-4
                 日本妊娠高血圧学会編  妊娠高血圧症候群の診療指針2015

0 件のコメント:

コメントを投稿

気腫性骨髄炎

 

人気の投稿