前回解説したメトヘモグロビンは異常ヘモグロビン症の一つです
ですが、異常ヘモグロビンの代表はメトヘモグロビンではありません
世界的に見て断然多い疾患は、鎌状赤血球症です
鎌状赤血球症状ね、なんか、聞いたことはある・・・
確かマラリアに強いやつだよね・・・
という感じの理解ではないでしょうか
ですが、鎌状赤血球症は、
今後、絶対に知っておきたい疾患No.1だと思っています
その理由はまた解説します
ということで、ヘモグロビン異常症について復習してみましょう
ヘモグロビンはα鎖グロビンとベータ鎖グロビンが、
それぞれ2本ずつ会合した4量体と4つのヘムから構成されています
新生児のHbはHbF(α2γ2)がHb全体の60-90%を占めますが、
6ヶ月後にはHbA(α2β2)が成人と同じくらいの割合になります
成人ではHb分画の96%はHbAです
HbAの中には糖と結合したHbA1cが数%存在します
HbA2(α2δ2)が3%、HbFが1%弱を占めます
ヘモグロビン異常症
ヘモグロビン異常症はアミノ酸配列の置換や欠失などのヘモグロビンの質的異常による異常ヘモグロビン症と、
正常グロビンの合成異常や不均衡などの量的異常によるサラセミアに大別されます
異常ヘモグロビン症
異常ヘモグロビン症は世界で最も高頻度の遺伝病です
現在までに約1200種類の異常Hbが確認されています
ですが、異常ヘモグロビン症の半数以上が無症状なので、見逃されている可能性が高いです
症状としては、先天性の溶血性貧血、多血症、チアノーゼがあげられます
多血症が起こる機序としては、
酸素親和性に異常のあるHbでは、酸素親和性が高いと酸素解離曲線が左方に移動し、
組織での酸素の受け渡しが不良になり、低酸素状態を起こします
その結果、エリスロポエチンが増加して、多血症を呈します
不安定Hbというものもあります
不安定Hbとは、アミノ酸の置換、または欠失部位がヘムポケットの近傍にあると、
ヘムポケットにH2Oが入りやすくなり、
酸化されてメトヘモグロビンが合成されやすくなることで、Hb分子が不安定化するものです
このような不安定Hbを有する異常ヘモグロビン症を不安定ヘモグロビン症と言います
不安定ヘモグロビン症は溶血性貧血を起こします
前回の東京GIMの症例も不安定ヘモグロビン症だったのかもしれません
異常ヘモグロビン症の中での代表疾患は、鎌状赤血球症です
これについては、次で詳しく解説します
異常ヘモグロビンを疑うきっかけとしては、
・溶血性貧血(Reti増加、間接Bil上昇、ハプトグロビン低下)があること
・メトヘモグロビンが上昇している
・HbA1cの異常(血糖との解離)がある→異常Hbがあると正常のHbと干渉を起こし、検査の値が正しくでない
診断のためには、
・電気泳動法
・イソプロパノールテスト
・異常Hbの構造解析
・アミノ酸変異の遺伝子解析
が必要になります
サラセミア
サラセミアは遺伝子背景により、量的産生の不均衡によるヘモグロビンの異常をきたす疾患です
グロビンのα鎖、β鎖の合成欠損による無効造血から小球性貧血を呈する疾患群です
α鎖グロビン異常によるものをαサラセミア、
β鎖グロビン異常によるものをβサラセミアと言います
遺伝子異常があるグロビンの合成抑制がかかります
小球性貧血で鉄欠乏性や慢性炎症性でなければ、サラセミアを疑います
ということで、フェリチンをチェックします
積極的に疑うのであれば、有名なMentzer Indexを計算しましょう
Mentzer Index=MCV(fl)/RBC (×10の6乗)
MIが13以下の場合、サラセミアを疑います
Lancet 1973;301(7801):449-452
日本のサラセミア患者さんは軽症で、無症状のことも多いので、
偶然、健康診断などで見つかることもあります
診断のためには、ヘモグロビン分画や遺伝子検査が必要になります
治療としては、軽症であれば無治療です
症状や重症度に応じて、
輸血や鉄キレート剤、脾臓摘出、造血幹細胞移植といった治療のオプションがあります
まとめ
・ヘモグロビン異常症には、質的な異常と量的な異常の二つがある
→質的な異常:異常ヘモグロビン症、量的な異常:サラセミア
・異常ヘモグロビン症には、不安定ヘモグロビン症がある
→溶血性貧血を起こす
・異常ヘモグロビン症の代表疾患は鎌状赤血球症である
→サラセミアと異なり、毛細血管の閉塞をきたすことが特徴
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