2021年2月21日日曜日

日本一朝早いカンファレンス 〜担癌患者さんの発熱〜

 85歳 男性 主訴:発熱(※症例は一部修正・加筆を加えてあります)

Profile:2ヶ月前に発熱精査で入院したところ、胆管癌が発覚しステント留置し退院となった

現病歴:退院後、外来通院中 元気に生活していた

    来院1日前の夕方から発熱あり(37度台)

    発熱以外に症状はなく、普通に生活していた

    来院当日、発熱が持続するため、救急外来を受診


ROS:排尿時痛なし、排尿回数増加なし、喀痰なし、咳なし

嚥下問題なし、食欲低下なし、寒気なし

既往:胆管癌、末梢動脈疾患

内服:バイアスピリン、ネキシウム、ウルソ

ADL:自立、食事は普通食

---------------------------------------------------------------------------------------------------

ディスカッション①他に何か聞きたいことはありますか?


K「悪寒戦慄の有無とバイタルをまずは知りたいです」


T「そうだね、救急だしね」


悪寒戦慄なし

バイタル

T37.6,  BP 104/78,  P  79,  SPO2 94% , RR 14

見た目 お元気そう 自分で歩ける 会話可能


T「バイタルは大丈夫そうですね、見た目も元気なようです

    ゆっくり話を聞いてもいいようですね。」


K「どれくらい動ける人ですか?」


発表者「一応、介助は必要なく、身の回りのことは自立していますが、

    一日のうちで寝ている時間が長い人です。」


T「いい質問ですね。担癌患者さんのADLは非常に大事です。なんで大事かわかる?」


K「PS:performanse statusの度合いで、治療ができるかどうかが変わるからですか?」


T「その通り!よく知ってるね。笑

  PSを把握することは、担癌患者さんの診療を開始するスタート地点になります。


  この人のPSは何かな?」

 

0:まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。
1:肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行う ことができる。例:軽い家事、事務作業
2:歩行可能で、自分の身のまわりのことはすべて可能だが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。
3:限られた自分の身のまわりのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
4:まったく動けない。自分の身のまわりのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす


K「3ですか・・・・?」


発表者「多分それくらいだと思います」


T「そうなると、ケモは難しいかもしれないね。

  今回は担癌患者さんの発熱という切り口で考えてみよう。

  どうやって、この症例を解きほぐしていけばいいかな?」


M「癌がある場所で感染が起こっている可能性があるので、

  この方の癌のProfileをまずは確認したいです。」


T「癌のProfileって何?」


M「癌によって解剖学的な構造異常や閉塞が起こる可能性がありますので、

  どこの部位の癌で、stageはどれくらいかを把握します。

  転移先で悪さすることもあります。


  そして、癌に対する医療介入は何かないかをチェックします。

  例えばポートが作ってあったり、手術や放射線治療がされていないかどうか?

  今回のようにステントが入っているかどうかも重要です。


  さらに腫瘍や治療に伴う免疫不全状態はないか?ということを確認したいです。」



T「ありがとうございます。素晴らしい!

  そうですね、付け加えると担癌患者さんの診療を始めるステップとしては、

  

  ①告知してあるかを確認する

    超高齢であったり、認知症が背景にある場合、

    家族の希望から告知してない場合もあります

    未告知の人に癌の話をいきなり始めるわけにはいきません


  ②次にPSや認知症の有無を確認する

    認知症の有無は本人からの病歴がとれるかどうかに直結します

    PSは元々のベースを知ることで、目の前の患者さんの具合の悪さがわかります

    PS:3、認知症:なし


  ③癌のProfileを把握する

    診断(stage):下部胆管癌(stage Ⅲ)

    病理:高分化型腺癌(20XX年Y月Z日)

    手術:なし  放射線治療:なし

   <治療経過>

    抗がん剤の使用歴:なし

    ステロイド使用歴:なし

    処置:ステント留置あり(2ヶ月前)

   <最終画像検査>

    2ヶ月前

      

 ④主治医が誰か確認をします

  担癌患者さんの治療方針を決めるのは容易ではありません

     そこで主治医の先生に直接相談して決めることは、他の疾患と比較して多い気がします

     主治医の先生も相談されて、嫌な顔をする人はいません


 ⑤最後に予後の見積もりとACPを確認します

   末期でBSCの方針なのか

   ACPが一度もされていなさそうな人なのか



   癌患者さんの診療が苦手な人も多いと思います。

   なぜかというと、普段と同じように、いきなり診察をはじめてしまうからです。

   

   そうすると、過去(腫瘍の診断時のことや治療歴)と現在(発熱)の情報が、

   行ったり来たりして、頭の中がごちゃごちゃになります。


   まず、担癌患者さんを診察するときには、(順番はどうでもいいのですが)

   この5ステップを踏むことで、パニック状態にならずに診療に臨むことができます。」


----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

身体所見


------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

ディスカッション②鑑別は?


T「身体所見はあんまり目立った異常はないようです。

  みなさん、何を考えますか?」


K「胆管癌でステントが入っているので、胆管炎が一番ありうるかなと思います。

  あとは、腫瘍熱はあるかなと思いました。

  元気だということで、薬剤熱とかも鑑別ですか?」



T「そうね、いつも薬・クスリ・くすりって言いまくっているけど、

 今回はどうだろうね。あんまり薬も飲んでいないから、普通に感染症かなって気がしますね。


 感染症かなと考えたら、いつもの三角形で考えましょう。みなさん覚えていますか?



 真ん中に宿主(host)がいて、ここが一番大事です。

 僕のオリジナルでは、この宿主の中に逆三角形をイメージします。


  免疫状態・余力(全身状態)・曝露の3つを考えます。

   

 宿主が大事!ということは口すっぱく言われますが、

 実際何を聞けば良いかということ、この3つです。  


 今回は免疫の部分で担癌患者さんということでしたので、

 さらに癌のことを詳しくカルテチェックする必要がありました。


 そして、感染臓器と原因微生物を推定することができれば、病名がわかります。

 肺炎球菌による肺炎や大腸菌による腎盂腎炎とかです。

 

 病名が決まれば治療が決まるかというと、実はそうではありません。


 病名が決まってから、治療に踏み切るために、

 もう一度、宿主(host)のことを考える必要があります。


 宿主の全身状態やバイタル、免疫不全状態はどうか、肝機能・腎機能はどうか、

 といったことを考慮して、治療に踏み切ります。


 


参考:感染症の三角形と逆三角形


T「さて、では鑑別疾患や今後の検査をSGDしてみましょう!」

------------------------------------------------------------------------------------------------------

スモールグループディスカッション①


 



K「感染か、非感染かで考えると、胆管癌があってステントが留置されているので、

 胆管炎の可能性が高いかなと思いました。

 あとは、focus不明になりやすい感染症、例えば前立腺炎などを考えて直腸診を行なっても良いかなと思いました。」


発表者「今回は胆管炎を一番に疑っていたので、直腸診まではしていません。」


T「検査は何をしますか?」


K「検査としては、血液検査、尿検査、血液培養、超音波検査、CTを行います。


 感染症でなければ、血栓ができても発熱が見られるので、

 下肢のDVTとかは調べても良いかなと思いました。」



T「胆管炎の可能性は高いけど、そうでなかったら・・・

  ということまで考えているところが素晴らしいですね。

 

      focus不明になりがちな感染症のくくりがあることを知っておくのが重要ですね。」



 流石に15個は覚えられないなと思ったので、4つに分類しました。

 ①診察に一手間かかるシリーズ
 ②痛いと言わないシリーズ
 ③検査でしかわからないシリーズ
 ④時間が経たないとわからないシリーズ





T「ちなみにC Tは単純ですか、造影ですか?」


K「うーん、膿瘍を疑うなら造影ですかね・・・」


T「そうだね、あとは肺炎まで疑うなら胸部も撮るかどうかかな。」

----------------------------------------------------------------------------------------------------------

経過


発表者「結局、胸部のCTで肺炎像があり、今回は肺炎と診断しました。
    ですが、全く痰が出なかったので、治療に悩みました。
   
    あと、前回の入院時にせん妄が酷かったので、今回入院してもらうかも悩みました。
    みなさんならどうしますか?」


T「なるほどね、胆管炎だと思ったら、実は肺炎だったという症例だったんですね。
  肺炎も呼吸器症状ない人いるよね。

  早期閉鎖せず、しっかりと診断できて素晴らしいです。


  あとは治療ねえ・・・
  

  感染臓器までは分かったけど、微生物がわからないパターンですね。
  痰を出す努力は必要かと思いますが、どうでしたか?」


発表者「全く痰は出そうになかったです。
    ですが、そう思い込んだだけだったかもしれないので、誘発はしてもよかったと思いました。


T「わかりました。

  まさに今回のようなシチュエーションが、さっき言っていたことで、
  病名が分かっても、治療が決まるわけではありません。
 

  宿主を考えた時に入院治療が必ずしもベストかはわからないという状況ですね。
 
  じゃあ、SGDで考えてみてください!」
----------------------------------------------------------------------------------------------------------
スモールグループディスカッション②




T「ということで・・・

  今回は入院は家族も本人も希望されず、外来治療を選択されました。
  抗生剤はオーグメンチン・サワシリンで、治療は完遂できたようです。

  素晴らしいプラクティスだったのではないでしょうか。

  
  今回の症例はGIMに出てくるような派手な症例ではなく、
  日常でよく出会う、それでいて実は非常に困る症例です。

  こういった症例を丁寧に振り返り、みんなで共有することが大事なんだと思います。
  症例提示してくれて、ありがとうございました。
  


  今回の症例は、

  担癌患者さんの発熱 
        感染症診療の三角形・逆三角形 
        focus不明になりやすい感染症シリーズ  
      

 3つを駆使して、今回の症例を解きほぐすことができました。

 今回の考え方は、臨床をしていると何度も使う考え方です。
 頑張って思い出すのではなく、自然に頭で考えてしまうくらいまで馴染ませましょう。


 そのためには反復練習しかありません。大事なことは何度も出てきます。
 またよろしくお願いいたします。」


まとめ
・担癌患者さんの発熱を恐れない
→癌のProfileをカルテや画像で確認する

・感染症かな?と思ったら、感染症の三角形と逆三角形を頭にイメージする
→宿主の状態で確認することは、免疫状態・全身状態・曝露

・病歴と身体所見で、感染のfocusが不明だとしても焦る必要はない
→①診察に一手間かかるシリーズ
   ②痛いと言わないシリーズ
   ③検査でしかわからないシリーズ
   ④時間が経たないとわからないシリーズ
   のどれか考える

0 件のコメント:

コメントを投稿

気腫性骨髄炎

 

人気の投稿