2021年5月7日金曜日

症例検討会 〜たかが咽頭炎、されど咽頭炎〜

 28歳 男性 主訴:発熱、咽頭痛(※症例は一部加筆・修正を加えてあります)


Profile:生来健康


現病歴:6日前から咽頭痛と発熱(38度以上)が出現

    4日前に近医受診し、コロナPCR検査施行され陰性だった

    PL顆粒が処方された

    2日前から手背に皮疹が出現

    口唇にアフタも出現した

     1日前に近医受診、抗生剤とアセトアミノフェンが処方された

    当日、発熱が改善せず、口唇のアフタも軽快しないため、来院

---------------------------------------------------------------------------------------------------------

コメント

生来健康な28歳男性の咽頭痛と発熱、口唇のアフタ、皮疹ですね

元気な人の急性の発熱と他の症状であり、感染症から考えたいです


ウイルスであれば、38度後半となる高熱はかなり絞られます

感冒の原因となるウイルスの多くは、38度後半にまでなりません


成人で高熱をきたすウイルスは、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、

アデノウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、EBV、HIVと限られています

もちろん、今の時期ならSARS-CoV2もあり得ますが、2回陰性が確認されているので、

今回は可能性としては低いですね


細菌の場合は高熱をきたしても良いです

今回は咽頭炎があると考えれば、killer sore throatのである深頸部感染症(咽後膿瘍、扁桃周囲膿瘍、Ludwig angina、レミエール症候群)や急性喉頭蓋炎も頭をかすめます


そのため、開口障害の有無や流涎、嚥下時痛、声の性状にも気を配ります


細菌であれば、溶連菌、フゾバクテリウム、マイコプラズマ、クラミジア、梅毒が鑑別になります

細菌性咽頭炎の場合、STIの要素もあるので、性行為についても確認する必要があります



非感染症としては、PFAPA、ベーチェット病、AOSDなどが上がります

ここで大事な質問としては、咽頭痛や発熱を繰り返しているかどうかです


周期的に喉の痛みや発熱があれば、PFAPAの可能性が上がります

成人のPFAPAは意外に頻度が多く、毎回溶連菌と言われて抗生剤が処方されていたりします

シメチジンやコルヒチンで予防ができるので、診断するとQOLが上がります



そしてこの時点で最も気になるのは、咳や鼻水の有無です

これがあれば、やはりウイルス性疾患を考えたくなります

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------

ROS:鼻水なし、咳なし、関節痛なし、頭痛なし

   嚥下時痛軽度あり、頸部痛なし、頸部の動きで痛みなし

   開口障害なし、味覚障害なし、嗅覚障害なし

   咽頭痛を繰り返しているエピソードはない

   sick contactなし、妻以外との性行為はなし 

   海外渡航歴なし

生活:妻と生活、仕事 会社員、喫煙なし、アルコールなし、アレルギーなし

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

コメント

はい、咳や鼻水はありませんでした

ここでは咽頭炎として考えて良さそうです


どこかが痛いという症状があった場合、考えることはABCです


A:解剖

B:VINDICATE(病因)

C:common,curable,criticalの3C


ABで鑑別疾患を発散させて、3Cで収束させるイメージで考えます


順序としては、鑑別をたくさんあげられるようになるのが最初のステップです

次に、あげた鑑別の優先順位をつけられるようになるのが、2番目のステップです

most likely, less likely, possible, must r/oのような形で順位づけを行うと良いです

日本語だと、本命、対抗馬、大穴、絶対除外したい疾患を考えてもらえればいいです


今回の症例では、本命はEBVかCMVですね

高熱が続き、皮疹が出ているので、まずはEBV、CMVを考えたくなります



対抗馬としては、ヘルペス性の歯肉炎・咽頭炎です

ヘルペスの場合、成人で初感染した場合、高熱と口内炎がひどく出ます

食事もできないくらい痛みが強いのが特徴的です

口の中の所見次第で、ヘルペスを積極的に疑うか決めたいと思います


大穴としては、AOSD、ベーチェットです

これらは決して頻度が多い疾患ではないので、最初からは考えません

何も原因がわからなければ、可能性が上がってきます

AOSDかどうかは、皮疹の性状をみて考えます

皮疹は熱が上がった時にだけ出るのが、常時出ているのかは気になります


絶対に除外したい疾患としては、深頸部感染症、急性のHIV感染症です

抗生剤の修飾があるのをどう考えるかですね

これも喉の所見で決めたいと思います

性行為については、踏み込んで聞いてみる必要があります



ただ、現状では病歴だけでは絞るのは難しそうです

咽頭炎の場合は喉の所見が重要で、喉を見ればわかることが多いです


例えば、喉を痛がっているのに綺麗であった場合は、亜急性甲状腺炎を疑います

扁桃に白苔がついていれば、左右差があるかどうかや

べっとり白苔がついているかどうかなどで、

溶連菌っぽいとか、EBVっぽいということは言えるかもしれません


あとはリンパ節腫脹の部位が重要で、後頸部にあるかどうかが気になります

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

身体所見

BP120/80, P 86, SPO2 98%, R 20,  T37.8、意識 清明

咽頭 両側扁桃が全体的に発赤あり、白苔は付着なし

口唇 アフタが多発

頸部LNは両側下顎や側頚部で数個腫脹あり、圧痛あり、後頸部にはなし

開口障害なし

皮疹 両側前腕や手背にポツポツと散在する丘疹様紅斑あり

後頸部正中にも同様の皮疹あり

手掌や体幹、下肢にはみられず 

関節炎所見なし

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

コメント

なるほど〜

リンパ節腫脹は後頸部にはないときましたか・・・

そうなると、EBVの可能性は下がりますね


ただ、考え方としては伝染性単核球症(IM)likeのカテゴリーで考えるのが良いと思います

IM崩れとも言ったりします



感染症であれば、EBV、CMV、HIV、トキソプラズマ、梅毒、HBV、HAV、HSV

非感染症であれば、AOSD、ベーチェット病、PFAPA、菊池病、AITL、キャッスルマン病です



(同じように昔、頸部LN腫脹と不明熱で悩んだ症例で考えた時のメモ)


感染症の中では、CMVはあってもいいです

CMVの場合、咽頭痛もそこまで強くはありません

ただ高熱が出るという人が多いです


外来でフォローして勝手に治ってしまう不明熱の代表的疾患は3つあります

CMV感染症と亜急性甲状腺炎と菊池病です


熱が続くけど一体なんだろうな・・・と思いながら、

痛み止めだけ使っていると、自然に治ることもある疾患群です


入院するほどのバイタルの悪化もなく、本人もお元気なことが多いので、

入院精査のタイミングが難しく、外来でフォローできてしまう疾患です


ということで、次に行うことは、

EBV、CMV、TSH、T4のチェックです

もちろん、一般的な血算、生化はみておきます


ヘルペスに関しては口唇のアフタのみであり、

歯肉炎や咽頭の奥の潰瘍やアフタはなかったので、ヘルペスはやや下がる印象です

ですが、後々、歯肉にまでアフタが広がることがあるので、

ヘルペス性咽頭炎・歯肉炎は鑑別からは消せません


より疑った場合は、HSVの抗体も出してもよいですが、手っ取り早いのは、

アフタのところの細胞をとってきて、Tzank試験を行うことです



細菌性の咽頭炎については、可能性としてはありますが、

それにしては長引きすぎな印象です

溶連菌だったとしても、抗生剤なしで普通は治ります

診断に行き詰まりそうであれば、咽頭培養はとっておいてもよいかもしれません


改善しない細菌性の咽頭炎は扁桃周囲膿瘍含めた深頸部感染症を疑いますが、

開口障害もなく、全身状態がsickではないので、可能性は低いと思います

そうは言っても、レミエール症候群からのseptic emoboliの可能性もあるので、

血液培養は取っておきます



ですが、ここまでの検査は次のステージに行くためのお膳立てです

おそらく上記の検査では引っかかりません


この症例の行き着く先は想像できていますでしょうか?


行き着く先を想像できていれば、あとはそこに向かって進むのみです


この症例の行き着く先は、AOSD(成人発症still病)、もしくは菊池病です


鑑別のためにリンパ節生検が必要になるなあ・・・とぼんやり考え始めます

リンパ腫も鑑別ですが、リンパ腫であればAITLでしょうか


しかしAITLは高齢者が好発年齢なので、多分違います

IVLも皮疹でますが、やはり高齢者が好発であり、多分違います





若年者の血液がんとなると、白血病(特にM5)は心配になります

M5は歯肉に浸潤傾向があり、皮疹が出ることもありますので、

血液検査のWBCが著明に上がっていれば、可能性はUPします


トリソミー8のMDSの場合、ベーチェットlikeなプレゼンもありえますので、

口腔内アフタもその一症状なのかもしれません


白血球の分画や目視も一緒に見たいですね


(前半終了)


0 件のコメント:

コメントを投稿

気腫性骨髄炎

 

人気の投稿