2021年5月27日木曜日

高齢男性の前頭部の皮疹と痛み 〜帯状疱疹の先へ〜


 

今回も面白かったですね

帯状疱疹は奥が深いです

commonな疾患ですが、プレゼンテーションが多彩で合併症も多彩です


帯状疱疹について改めて勉強したい人にオススメです

オススメ度:★★★★☆


症例 78歳 男性 主訴:頭皮・顔面の皮疹


入院3日前まで患者は元気であった

入院3日前、左側の額と前頭部、両側上顎洞圧迫感のある疼痛が生じた

他院のプライマリケアクリニックを受診し、

以前の副鼻腔炎での疼痛と同様であると話した

副鼻腔炎と暫定診断され経口クリンダマイシンが投与された

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コメント

副鼻腔炎の既往のある78歳男性が、左の前頭部と両側の頬の痛みでこられています


副鼻腔炎の既往があって、以前と同じ痛みと言われると、

バイアスに負けてしまい、そりゃあ副鼻腔炎でしょう!と、

抗生剤処方したくなる気持ちはよくわかります


ただ、そんなバイアスがかかりそうな状況では、

自分に待ったをかけなければなりません


バイアスに負けないためには、

まずはバイアスがかかりそうな状況である、

ということに気がつくことからスタートです


今回であれば、本当に副鼻腔炎だろうか?と考えます

副鼻腔炎の好発部位は上顎洞であり、頬の痛みはそれでも良いかもしれません

ただ、急性の副鼻腔炎であれば、感冒症状が先行して欲しいですね


左の前額部の痛みも副鼻腔炎でよいでしょうか?


副鼻腔炎であれば前頭洞?

片側の痛みであれば、帯状疱疹も鑑別になります


実際の臨床現場は忙しいので、自分の鑑別に合わない情報があったとしても、

聞かなかったり、無視してしまうことがよくあります(confirmation bias


現時点では、副鼻腔炎 VS   帯状疱疹 VS その他 という構図です


原因不明の痛みの場合、体のどこであっても、

この一言を添えて帰すことが重要です


「皮疹が出たらすぐにきてくださいね」

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入院2日前に患者は、左前額と左側前頭部紅斑赤褐色の小病変があることに気づいた

2週間前床屋に行った時に、患者の頭皮に同様の無痛性の皮膚所見が認められていた

皮疹は痒くも痛くもなかった

その時点では、彼は医療機関を受診しなかった

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コメント


今回のように床屋で皮疹が見つかるパターンはたまにあります


(少々脱線します)

高齢女性が数日間続く、急性に出現した頭痛を訴えて外来を受診されました

脳神経学的な異常は見られず、CTで出血はありませんでした

発熱はなく、側頭動脈の痛みや額跛行、視力低下はありませんでした


帯状疱疹も鑑別になるので、長い髪をかき分け皮疹を一生懸命探しましたが、

見つかりませんでした


高齢者の新規の頭痛であり、巨細胞性動脈炎も鑑別になるかな・・・と思いつつ、

帯状疱疹もありうると思い、1週間後にフォローとしました


もちろん、皮疹が出たらすぐにきてくださいと伝えるべきですが、

頭皮に皮疹ができても、本人はわかりません


頭皮の帯状疱疹や背部の帯状疱疹を疑う場合は、

「皮疹が出たらすぐにきてください」では△です

「毎日、他の人によく見てもらってくださいね」とお伝えします




そこでこの患者さんがとった行動にとてもびっくりしました



なんと、その3日後、

床屋で髪を切って丸刈りにされたのです!


髪がなくなって見やすくなった頭皮を見ると、ポツポツと数個の赤い皮疹がありました

床屋の人がそれを発見し、すぐに患者さんは戻ってきました


丸坊主で帰ってきた時は、めちゃくちゃびっくりしました


そこまでしなくても・・・と思いましたが、

そこまでしなかったら、早期発見・早期診断・早期治療はできなかったと思います

幸い帯状疱疹後頭痛や合併症もなく、治癒しました



はい・・・

ということで、何が言いたいかというと、

頭皮の皮疹を自分で発見するのは難しいということです


この方も床屋さんのファインプレーで皮疹が判明しております

皮疹が加わったので左前頭部の痛みは、帯状疱疹でしょう


帯状疱疹を見つけると、診断できた!と嬉しくなってしまって、

診察終了!薬出して帰宅!となっているケースをよく見かけますが、

もう少し頑張ってください 笑



三叉神経領域の帯状疱疹をみたら、次にやることは3つです

①眼の評価

②神経学的所見の評価

③全身の皮膚の評価


      

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来院日、起床後、左眼瞼の発赤浮腫に気づき、

額左側と前頭皮では皮膚病変が悪化し、出血所見も認められた


左眼の眼球運動で痛みが生じ、霧視もあった

数時間で左眼瞼腫脹が悪化し、完全開眼は不可能になり、

精査目的で当院救急科を受診した

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コメント


はい、一言でいうと、左眼がパンパンに腫れて痛いし、

目が見えにくくなっているようです


まずいですね


三叉神経の1番領域の帯状疱疹は、眼部帯状疱疹を合併します

眼部帯状疱疹は失明するリスクがあり、早急に眼科に見てもらう必要があります


眼部帯状疱疹を予測するための有名な兆候がハッチンソン兆候です


では問題です


どうしてハッチンソン兆候(鼻の頭に皮疹)があると、眼部帯状疱疹を合併する危険が高いのしょうか?


ハッチンソン兆候を知っている人は多いと思いますが、

その意味まで理解できている人は少ないではないでしょうか


ハッチンソン兆候の意味は、

鼻毛様体神経の先(外鼻枝)までやらているということです


つまり、鼻毛様体神経が途中で枝分かれして、

眼球へ向かう神経まで侵されている可能性があるということです


      


帯状疱疹(±副鼻腔炎)だと思っていた人が、

眼が腫れて痛みがある状況で考えるのは3つです


1つ目は眼部帯状疱疹

2つ目は眼窩蜂窩織炎

3つ目は化膿性海綿静脈洞血栓です


眼科コンサルト、造影CT、MRIが必要になります

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救急科では、患者は眼や鼻の分泌物、味覚、聴力変化、顎跛行等の訴えはなかった

シャンプーの変更やプールや温水浴槽への入水は最近なかった


既往歴には、再発性副鼻腔感染症、アレルギー性鼻炎、うつ病、良性前立腺肥大症、性腺機能低下症、むずむず脚症候群等があった

15年前に直腸癌に対して結腸部分切除術

50年前に精巣癌に対して精巣切除術と放射線療法が施行されている


眼の病歴としては、両側性の軽度眼瞼下垂、両側白内障摘出術(眼内レンズ移植)を受けていた

内服薬は、フィナステリド、タムスロシン、カルビドパ-レボドパ、アゼラスチンとフルチカゾン、テストステロン局所塗布薬

レボフロキサシン、セファクロル、スルファメトキサゾール-トリメトプリムでは発疹が惹起されたことがある


患者は引退したエンジニアであり、ニューイングランドの沿岸地域に妻と住んでいた

以前喫煙していたが、30年前に禁煙した

アルコールは毎日4分の1杯のワイン

家族歴で母方祖母の皮膚がんと妹の黄斑変性症があった

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コメント


気になる情報が色々出てきました

再発性副鼻腔炎、両側の眼瞼下垂、フィナステリド内服中の3つが気になります


何度も副鼻腔炎を患っているのは嫌ですね

副鼻腔炎は場所によっては、危ない合併症をきたします

参考:急性副鼻腔炎の合併症 


過去の画像で蝶形骨や篩骨、前頭洞に炎症所見がないか確認したいです


治らない副鼻腔炎の場合、細菌感染ではないかもしれません

血管炎(EGPA,GPA)や腫瘍(特にリンパ腫)、

真菌(特にムコール、アスペルギルス)、結核が頭によぎります


それぞれにあう情報があれば、生検や手術で培養を提出することも考慮されるでしょう



両側の眼瞼下垂については、

動脈瘤が両側にあって動眼神経を圧排しているという可能性が一番いやですね


海綿静脈洞内の動脈瘤があった場合、

そこで破裂すると内頸動脈-海綿静脈洞瘻になります

そうなると、眼球は突出し痛みや視力障害が出現します

この疾患は海綿静脈洞血栓症の鑑別になります


疑ったら、眼に聴診器をあてて血管雑音がないか確認します


他の原因としては、MGや加齢性の変化でも良いと思います

診察でenhanced ptosisを追加したいですね

今は難しいでしょうけど・・・



フィナステリド内服をしていると血栓症のリスクになるという報告があります

今回であれば、海綿静脈洞血栓症が疑われているので、原因の一つかもしれません

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身体診察では、温は38.1°C、血圧は122/58 mm Hg、心拍数74/

BMI 31.9


裸眼視力は、右眼で20/40、左眼で20/50

石原式色覚検査は正常


瞳孔は正円で左右差なく、対光反射あり

求心性瞳孔欠損(relative afferent pupillary defect.)は認めず、外眼筋運動は正常

左上眼瞼完全下垂があり、左上眼瞼と下眼瞼紅斑浮腫を認めた

右上眼瞼下垂は軽度で眼球突出はなかった


眼圧は両眼で17mmHg

細隙灯検査により、眼のびまん性結膜充血下結膜浮腫を認めた

角膜は透明で、前房に細胞は認められなかった

散瞳による眼底検査では正常眼底であった


額、左側前頭皮膚、左眼瞼等に紅斑を認めた

紅斑部位には出血と漿液性の皮膚で覆われた多数の癒合性びらんが、

主に額左側に認められ、正中線、前頭皮、左上眼瞼にまで及んでいた

びらんと紅斑は額右側にも認められたが、左側よりも軽微であった


他の身体所見は正常であった

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コメント


眼科に診てもらったようですが、視力は大丈夫そうですね

眼部帯状疱疹は多少あるのでしょう


帯状疱疹はあると思いますが、帯状疱疹だけではない印象です

帯状疱疹は合併症がたくさんあります


1、細菌感染症を合併:蜂窩織炎

2、VZV vasculopathy

 - 脳血管の狭窄、梗塞、出血、動脈瘤

    - 血管炎:特にGCA

    - 脳神経障害:特に顔面神経麻痺

    - 動脈解離

    - 静脈洞血栓症

 - 脊髄梗塞

3、脳炎、無菌性髄膜炎、脊髄炎、神経根炎、神経叢炎、ギランバレー

4、局所性運動麻痺

5、神経因性膀胱


果たして、帯状疱疹に何が合併しているのでしょうか


VZV vasculopathyの中の巨細胞性動脈炎や静脈洞血栓症がありえそうです

副鼻腔炎の既往もあるので、化膿性海綿静脈洞血栓症が鑑別の上位にあがります


そのため、アシクロビルの点滴加療はもちろんですが、

造影CTやMRIを撮影し、海綿静脈洞血栓症がないか確認したいです


そして蜂窩織炎はありそうなので、抗生剤も開始します

その際には髄液移行性をどう考えるかですね


やはり画像評価が必要です

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血液検査では、Na 125mmol/lで(基準範囲、135145)、腎機能、肝機能検査は正常でした

HIV 1型と2型は陰性

その他の臨床検査結果は表1





頭・顔造影CT(図1)では、眼窩と前頭洞に著明な浮腫を認め、主に左側の前頭頭皮軟部組織沿いを上方に進展していた

眼球(globe)、眼窩(orbit)、球後軟部組織( retrobulbar soft tissue)等は正常であった

右上顎洞は混濁し、壁肥厚壁硬化を認め、慢性炎症と副鼻腔炎と合致し、右上顎洞の内壁欠陥は以前の副鼻腔手術を示していた

左上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞等の他の副鼻腔は、十分に通気されていた


    


バラシクロビル、アモキシシリン-クラブラン酸塩、

局所バシトラシン-ポリミキシンBによる経験的治療が開始された


翌日、左眼瞼浮腫と紅斑が悪化し、右眼瞼に新規の浮腫と紅斑が認められた


患者は開眼不可能で、視覚的幻覚を生じ始めた(妻がその混乱に気づいた)

額左側の皮膚病変は不変で、右側額部皮膚に出血性の新規円形打ち抜き状びらんを認めた


       

バンコマイシン、セフェピム、アシクロビルの静脈内投与による経験的治療が開始された。 診断テストが実行された

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コメント


はい、ということで髄膜炎か脳炎を合併してしまった可能性が高いです


問題は原因がVZVかどうかです

細菌性髄膜炎の可能性があるので、髄液検査は必須です

抗生剤を髄液移行性が良いものに変えないといけません


自分なら意識変容が出現した時点で、血液培養を再度とり、

CTRXとVCMの投与を開始します

本症例ではCFPMとVCMが選択されていましたが、

緑膿菌までカバー行くかは悩みますね


なんらかの脳症や脳炎を疑っている中で、

セフェピム脳症が鑑別になるので自分なら避けます


この抗生剤の意図は髄膜炎を意識したものであり、

アシクロビルの点滴はVZV脳炎を意識しているのでしょう


これらに加えてドレナージすべきものがあるかどうかを探す必要があります


抗生剤を投与した後は、セルシンで少し鎮静を行い(NCSだったら効果あるかもと期待しつつ)、髄液検査とMRIへ行きます


心配なのは眼窩蜂窩織炎と化膿性海綿静脈洞血栓症、硬膜下膿瘍、脳梗塞です


CTでは眼窩蜂窩織炎や海綿静脈洞血栓症(CST)を示唆する所見はありませんでしたが、CSTは数日後に出現するため注意が必要です

眼窩蜂窩織炎は失明するリスクがあるので、手術が必要な場合があります



髄液が正常で画像で何もなければ、アシクロビル脳症を疑います

視覚的な幻覚はアシクロビル脳症でよくみられる印象です


播種性帯状疱疹でアシクロビルの点滴していた人が急に、

「そこに紫のものが見える」と言い出したことがあります


腎機能を再検すると急激に腎機能が悪化しておりました

アシクロビル中止し徐々に意識状態は回復しました


アシクロビル自体で腎障害が起こり、NSAIDs が加わるとさらに頻度があがります

特に高齢者では起こりやすいので注意が必要です



アシクロビル脳症が起こるとVZV脳炎との鑑別が一苦労です


さてこの症例の結末は?

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考察

眼部帯状ヘルペス  

 巨細胞性動脈炎よりも一般的で、眼周囲の皮膚病変を惹起する可能性が高い疾患は、水痘帯状疱疹ウイルスVZV)感染の再活性化による眼部帯状ヘルペスである。眼部帯状疱疹と他の帯状疱疹は、通常、単一のデルマトームを障害する。これは、ウイルスの再活性化前に、脳神経、後根、自律神経節内等で(ウイルスが)休眠状態にあるためである。


 米国では、生涯で最大30%の人でVZV感染症が再活性化3、(そのうち)1020%では三叉神経眼領域である。眼部帯状疱疹を発症する生涯リスクは14であり、発生率は年齢とともに増加する。  


 帯状疱疹の発疹は、他領域の帯状疱疹で見られるものと同じで、紅斑、斑点、丘疹、小胞等の特徴を有する。①小胞は数日間にわたって徐々に破裂し、②膿疱や痂皮になり、多くの場合、③周囲に紅斑や浮腫を伴う。これらの特徴(①~③)は本患者に認められた。  


 発疹の発症時に、眼部帯状ヘルペスのほとんどの患者では、炎症と知覚神経障害と皮膚障害による急性疼痛を伴う。疼痛は、掻痒、灼熱感、うずき(aching)、つんざくような(piercing)と表現される。本患者は、皮膚病変発症2日前に頭皮と額の痛みを訴え、以前の副鼻腔炎のエピソードと同様であると訴え、副鼻腔炎の暫定診断で治療された。  


 眼部帯状ヘルペスの最大3分の2は、皮膚病変に加えて眼症状(角膜、結膜、虹彩、網膜、視神経、他の視覚系など)を呈する5。本患者は、結膜充血結膜浮腫を認め、これは、眼部帯状ヘルペスで一般的所見である。  


 本患者では、皮膚病変と痂皮、疼痛、結膜浮腫、結膜充血等の組み合わせから眼部帯状ヘルペスが示唆されるが、皮膚炎は典型的ではない。


 古典的帯状疱疹は

①単一のデルマトームを傷害する

②通常は正中線を越えない

隣接する12のデルマトームに病変が見られることもある

④疾患が進行すると対側にも病変を生じる(複合両側性帯状疱疹ヘルペス(herpes zoster multiplex bilateralis


だが、対側に病変を生じることは本患者のような免疫正常患者においては非典型的である。本患者は、眼部帯状ヘルペスの標準治療であるアシクロビル投与中に、皮膚病変が進行したが、抗ウイルス療法開始後37日間は出現持続する可能性がある。  


 幻覚の発症はVZVによる中枢神経系の関与であろうか?可能性はあるが、眼瞼浮腫による眼瞼下垂が患者の視界を妨げ、機能的な盲目になることに注意する必要がある。本患者の幻覚の原因として考慮するもう1つの重要な疾患は、視覚障害者での幻覚を特徴とするCharles Bonnet syndromeである7。  


本患者は、眼部帯状ヘルペスが最も可能性が高い。眼部帯状ヘルペスは検査なしで診断可能であり、不確実な場合は、多数の検査が用いられる。本患者で検査は合理的だったであろう。病変底部から採取した皮膚の迅速分析目的で施行されるウイルス特異的直接蛍光抗体検査が、おそらく本患者に施行された診断検査であろう。



本患者の発疹の全体的な外観(主に左V1皮膚領域に位置し、額の正中線まで広範な病変が形成され、小胞と丘疹が集簇し、紅斑性と浮腫性の基部上に出血性痂疲を伴う多数の浸食丘疹)は眼部帯状ヘルペスと最も合致していた。発疹は左V1皮膚分布から正中線を越えており、通常の帯状疱疹では非典型的である。


ただし、眼部帯状ヘルペスでデルマトーム沿いにきちんと分布する発疹が常に観察されるわけではなく、反対側を障害する可能性はある。さらに、額の右側発疹は左側よりも軽度であり、免疫正常者での軽症右側病変は播種性帯状疱疹とは異なる。しかし、発疹に集簇化病変と異なる段階の病変(出血性痂疲で覆われた膿疱とびらんなどを含む)を認め、壊死性血管炎よりも帯状疱疹とより合致する特徴であった。  


注目すべきことに、眼部帯状ヘルペスの患者の3040は、眼神経の鼻毛様体神経枝(鼻の皮膚と角膜の神経支配枝)を傷害する。したがって、片側鼻側合併(ハッチンソン徴候)の存在から、眼合併症可能性が高くなる。本患者は鼻にヘルペス性病変はなく、眼神経の鼻毛様体神経枝外側枝は障害されていないことを示唆していた。  


本患者は、検査中に発疹の高度疼痛は訴えなかったが、発疹出現数日間に前駆症状の疼痛を報告した。帯状疱疹の疼痛は、急性神経炎によって惹起されるが、無痛性や軽度疼痛も一部の患者でみられる。帯状疱疹の患者では最大75%が前駆症状を有する8-11。 


本患者の診断評価には、①VZVおよび単純ヘルペスウイルス(HSV)に特異的直接蛍光抗体検査、と②水疱性病変の基部から得られたウイルス培養がある。直接蛍光抗体検査はVZV陽性、HSV陰性であった。直接蛍光抗体検査はVZVに対して感度100%ではないため、結果判明前に皮膚生検も施行された。


臨床診断  水痘帯状疱疹ウイルス感染

マイケルK.ユン博士の診断  水痘帯状疱疹ウイルス感染

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病理学的考察       




額左側皮膚のパンチ生検組織を得た。低倍率での組織学的検査では、表皮は露出され、真皮は炎症を示した。角化細胞が棘融解し表面に付着しているのが見られた。真皮は、高度な急性炎症を示し、毛包と皮脂腺を含む隣接付属器構造に深く広がっていた。高倍率では、角化細胞の棘融解は、型込め(molding)とクロマチン辺縁化(chromatin migration)等の多核化(multinucleation)を呈するウイルス細胞変性変化を示した。これらのウイルス性細胞変性変化は、VZV感染とHSV感染の両方で見られ、組織学的検査のみでは(両ウイルスの)判別は不可能である。原因(ウイルス)特定には、臨床病理学的相関と補助検査が必要である。

診断は、VZV免疫組織化学的染色で確認(感染角化細胞の高度、びまん性染色)された。


管理とフォローアップの議論

2週間前初発の皮膚病変の長期疾患経過を、免疫抑制の明確な病歴がない患者の新規デルマトーム合併症との関与の解明は困難であった。本症候群を播種性帯状疱疹と正式に診断するかの妥当性は不明だが、混乱した(診断に迷った)ことで、播種性帯状疱疹脳炎の可能性がある進行性帯状疱疹の評価と治療が推奨された。腰椎穿刺頭部MRIが推奨された。 


頭部MRIにより、中隔前軟部組織腫脹と増強が認められ、中隔前蜂窩織炎を示唆する所見が見られたが、中枢神経系疾患の所見は認めなかった。


脳脊髄液(CSF)分析は、TPGluは正常値であり、チューブ4の分析では(μlあたり)、3つの赤血球3白血球27(単核細胞99%で、リンパ球55%、単球38%、形質細胞4%、好塩基球1%非定型リンパ球1%)であった。 脊髄液のPCRにより、水痘DNAを認めたが、ウイルスが中枢神経系に存在するので帯状疱疹の患者で(認められても)想定内である。左側頭動脈生検では、炎症は認められなかった。  


アシクロビル静脈投与開始後、状態は次の数日間で急速に改善し、感覚系の改善、軟組織腫脹改善、皮膚病変進展等が認められた。腎毒性予防目的に適切な水分補給を維持し、アシクロビル静脈投与の14日間施行を指示され、第5病日に退院した。 14日間の抗ウイルス治療の最後のフォローアップ受診では、全身状態良好で、頭皮のわずかな痂疲をいくつか認めたが、額病変は完治していた。軽度の眼窩周囲腫脹と中等度の眼瞼下垂は認めたが、改善傾向にあると判断された。断続的な複視は軽快したと報告した。612か月以内に組換え帯状疱疹ワクチンのワクチン接種施行をアドバイスされた。最初のフォローアップ訪問から5か月間の眼科受診で、複視と眼瞼下垂は徐々に改善していった。


 最終診断 : 水痘帯状疱疹ウイルス感染

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はい、ということで意外にシンプルな症例でしたが、

色々と考えることはありましたね


まとめ

・帯状疱疹を診断しても満足しない、思考停止しない

→合併症に注意、播種性に注意

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