若い女性の発熱と頭痛ですね
1日前から発症であり、それ以外の症状はないそうです
普通であれば、感染症、特にウイルス性疾患から考えます
頭痛が発熱に付随している程度のものであれば、
発熱の原因精査を始めます
focusになるような症状をひたすら聞きます
何もfocusらしきところがなければ、以下の通りです
頭痛が髄膜炎らしさを伴っていれば、無菌性髄膜炎を考えます
髄膜炎らしさとは、光過敏や振動(階段の登り下りや歩行)で頭痛が出るか
吐き気や頸部痛などを聴取します
体の膜に炎症がある時、
例えば腹膜炎や髄膜炎は、振動が響いて痛みが出ます
特異度は低いですが、感度は高めな印象です
細菌性髄膜炎は、非常に稀になので、
無菌性髄膜炎やヘルペス脳炎からまずは考えたいです
無菌性髄膜炎の考え方は以下の通りです
無菌性髄膜炎の時に注意が必要なのは、VZVの髄膜炎です
自分の失敗症例では、
上級医からSLEの無菌性髄膜炎疑いで入院となった若い女性がいました
確かに発熱と頭痛以外に症状がなく、もともとSLEでステロイドを内服されていたので、
SLEの無菌性髄膜炎でよいと考えていました
髄液検査でも無菌性髄膜炎に矛盾しない所見でしたので、
診察も適当になっていました・・・
入院後、本人から足の付け根にぶつぶつがあると、申告がありました
まさか・・・と思って、
鼠径部をみると、2、3個の丘疹様紅斑がありました
帯状疱疹でした
若年女性の鼠径部であり、最初は何も訴えはなかったので、診察していませんでした・・・
てっきり、SLEの無菌性髄膜炎だと思っていましたが、
帯状疱疹に伴う無菌性髄膜炎だったという症例です
アシクロビルを入れて、軽快しましたが、苦い経験をしました
Anchoring(はじめにこれと思った診断にとらわれて固執してしまう)
Premature closure(診断確定の前段階で結論づけてしまう)
overconfidence(仮設診断を過剰に信頼する、上級医の診断を信頼する)
には注意が必要です
本症例はANA640倍や強膜炎の既往があるため、
自己免疫性疾患の可能性も最初から考えなければなりませんが、
上記バイアスが働きやすい状況です
そのバイアスを認識しつつ、鑑別をあげます
SLEやGPAに伴う肥厚性硬膜炎が鑑別になります
SLEの方は頭痛の合併がとても多いです
CNSループスの一症状になることもあります
頭痛の前に何をしていたかも重要で、
太陽の光に長時間当たっていなかったどうか、聞きたいです
頭痛については、もともと頭痛もちかどうかということが非常に重要です
頭痛持ちであった場合は、その頭痛と今回の頭痛はどう違うか?
ということを聞きます
そして、もともとの頭痛が片頭痛らしいかどうかを確かめます
片頭痛がある人の今までと異なる強い頭痛では、RCVSを考えます
RCVSは皮質下のくも膜下出血を合併することもあり、注意が必要です
また片頭痛の人がピルを飲んでいると、血栓症のリスクとなるため、
ピルの内服があるかも注意します
今回の頭痛が今まで感じたことないくらいの頭痛であれば、SAHは考えます
血管奇形やIEに合併した感染性動脈瘤ができていた場合は、
若年者でもSAHはあり得ます
なので、若いからSAHではないということは言えません
では、もう少し頭痛について詳しく聞いていきましょう
どうやらもともと頭痛もちの方です
週3回、イブプロフェンを内服しております
片頭痛かもしれませんね
今回は強膜炎らしい目の痛みはないみたいです
強膜炎でステロイドが使用されていたりすると、
二次性の緑内障を合併することもあります
緑内障からの頭痛の可能性もあるので、目の痛みがあるかは聞きたいですね
目の周りが痛いと言われると、海綿静脈洞血栓や三叉神経痛も考慮します
診察では目の充血や複視や眼球運動障害の有無をチェックしたいです
ではここまでで、何を鑑別にあげますか?
そして、どんな診察をしたいですか?
無菌性髄膜炎は身体所見がかなり重要です
はい、ということで感染症であれば、キャンピロやリケッチア、マイコ、ウイルス性疾患が鑑別に上がりました
非感染症であれば、SLE、血管炎が鑑別の上位に上がりました
そして、強い頭痛の鑑別として、RCVSや椎骨動脈解離、SAHが鑑別になりました
では上記、鑑別を踏まえて身体所見をとっていきましょう
身体所見では左頸部にLNが少し腫れていましたが、圧痛はない様です
目の所見も問題なかったですね
脳神経異常もありませんでした
検査でもパッとした異常はありませんね
髄液検査でも細胞も蛋白の上昇もなく、無菌性髄膜炎も否定的です
髄膜炎でも細胞数は上がらない時はありますが、
流石に蛋白は上がっていることが多いです
本症例はどちらも上がっておらず、髄膜の炎症は現状では可能性が低いです
さあ、困りましたね
どうしましょうか?
まあ入院して様子をみますかね
入院後もずっと発熱が続いているようです
まだ数日ですし、熱源を全て検索できていませんが、
不明熱のカテゴリーに落ち込んでいくかもしれませんね
造影CTや頭部のMRIが次のステップになりそうです
毎日の身体診察も重要です
意識レベルの変化、心雑音の有無、脳神経異常、項部硬直、
皮疹が出てこないか、関節炎がないか、といったことに注目します
ということで、診断はついていませんが、今後に注目ですね
今回の症例は、若年女性の発熱と頭痛であり、それ以外に症状はありませんでした
そのため、髄膜炎かどうかが大きな分かれ道になりました
早めにルンバールを行うということが本症例では一番重要な検査となります
ルンバールにて髄膜炎でないとわかれば、
発熱の原因精査をしっかりしていくのが次のアプローチになります
ただ、今回はANA640倍で強膜炎の既往のある方ですので、
自己免疫性疾患も最初から鑑別の上位にくる症例です
最初から自己免疫性疾患を考えたくなりますが、
バイアスに負けず、普通の感染症も考えていく必要があります
原因不明の発熱の場合、時間がヒントになることが多いです
本症例も入院後に右股関節痛が出てきましたので、そこを探っていくと答えが出るかもしれません
頭痛に関しては、もともと片頭痛がありそうなので、
片頭痛や発熱に付随する頭痛と考えてもよいかもしれませんね
造影CTでも発熱の原因が掴めなければ、造影の頭部MRIを考慮します
RCVSや肥厚性硬膜炎、静脈洞血栓症を考えます
まあ・・・
あえて言いませんでしたが、一番嫌なシチュエーションはCOVIDですね
咳があったり、CTで肺炎あったら、再検してください
本当、嫌な時代ですね
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