有名なのは、fastと呼ばれる語呂で、
顔面の歪み、上肢の麻痺、呂律不良が早期発見のサインとして啓蒙されてきました
その様な状況で来院されれば、脳梗塞をもちろん疑いますが、
実は脳梗塞じゃなかった、何てことはたまに経験します
特にtPAや血管内治療が可能となり、time is brainと言われる昨今、
脳梗塞の診療はスピードが命です
そのため、じっくり考えている暇はなく、落とし穴にはまることがあります
もっとも有名で、M and Mカンファのネタにもなりやすいのは、大動脈解離でしょう
解離にtPAをうってしまったという症例報告は後を絶ちません
tPA適応になった患者の全例で解離を否定するために、
ルーチンで胸部のCTやUSをしている施設もあります
理由は大動脈解離の10-55%は胸痛や背部痛がないという報告があり、
臨床状況からは100%解離を否定することはできないからでしょう
しかし、脳梗塞を合併した解離の症例には特徴もあります
- 右側の脳梗塞が多い、つまり左に症状がある時は注意
- →解離が上行大動脈から腕頭、総頸へと続いていくため
- 血圧が脳梗塞の割に低い、 sBP130以下のことが多い
- 血圧の左右差がある人が多い
- Dダイマーが高値になりやすい
という人に多いですが、もちろん確率論なので、当てはまらない人もいます
そのため、まさかないよね。と思いつつもしっかり解離を除外する事が、
脳梗塞の診療においては重要です
低血糖は看護師さんも知っているくらい有名になりました
tPAや血管内治療が全盛期となり、
今後は脳梗塞と診断する前に解離の除外も同じくらい有名になってきそうですね
そんなわけで、脳梗塞の診療のまとめです
部位診断は当たり前ですが、神経診察が重要です
ポイントは2つです
1つ目は皮質症状(失語、運動失行、観念運動失行、失算、半側空間無視、着衣失行など)が
あるかどうかです
皮質症状があれば、塞栓の可能性が高まります
例外は視床の梗塞です
視床の機能は語ると長くなるので、また今度にしますが、
皮質がやられた時の様な症状が出るので、注意が必要です
部位診断で大事なもう一つは、後方循環の症状があるかどうかです
つまり、脳神経の異常や小脳失調、視野障害の有無を確認します
後方循環の症状があれば、椎骨動脈解離の可能性を一度は考えます
NIHSSをスピーディにとれることも重要ですが、
部位診断のための神経診察もできる様になりましょう
次に脳梗塞の原因ですが、これは一般的な診察が重要です
熱があれば、IEや血管炎を疑います
心雑音があれば、IEや大動脈解離、心臓粘液腫を疑います
頸動脈雑音があれば、頸動脈狭窄やA to aを疑います
足の指にblue toeがあれば、コレステロール塞栓を疑います
四肢の末梢や眼瞼結膜に塞栓徴候があれば、IEを疑います
頭痛や後部硬直があれば、慢性髄膜炎(結核やクリプト)からの梗塞を疑います
といった感じで、一般的な診察を蔑ろにしてはいけません
しかしこの様に診察して、脳梗塞を疑ったとしても、
脳梗塞には三回騙されるタイミングがあります
まずは画像評価前です
有名なのは低血糖です
それ以外にも代謝性脳症や痙攣、単神経麻痺など色々ミミックはあります
次に騙されるのは、DWIです
DWIでhighになった場所を見て、脳梗塞だ!と突っ走ってはいけません
しっかりADCmapも見ましょう
ADCmapで高信号を呈している時は脳梗塞ではなく、PRESを疑います
最後にDWIもADCmapも両方見て、
脳梗塞に間違いないとなってからもまだミミックは存在します
脳腫瘍や膿瘍も同じ様な画像になる事があります
もちろん、血管支配に沿っていない事が大きく鑑別点ですが、
一見しただけでは、分かりにくいこともあります
そして脳梗塞だとしてもプラスαがある事があります
例えば、脳静脈洞血栓症や血管炎、解離に合併したもの、
髄膜炎に合併したもの、帯状疱疹ウイルスに伴う血管炎などです
毎回、脳梗塞を見る時にこの思考過程を踏めば、
脳梗塞全例でシャドーボクシングならぬ、
シャドーシンキングをする事ができ、身体に染み込ませる事ができます
100人の脳梗塞をみて、100人は普通のアテローム性や塞栓性の脳梗塞かもしれませんが、
101人目はクリプトコッカス髄膜炎に伴う脳梗塞かもしれません
シャドーしておかないと、絶対に鑑別にあがりませんので、
一瞬頭に思い浮かべて、
でも違うよな
という手順を踏む事が重要です
その目で見ると、実はIEだった!
なんていうケースも一瞬で診断できる様になります
0 件のコメント:
コメントを投稿