(症例は一部修正・加筆を加えてあります)
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ディスカッション①これだけで何を考えますか?
T「はい、ではこれだけで何を考えますか?」
学生「これだけでですか?
えーっと、リウマチやSLE」
T「いいね、他には?」
R「線維筋痛症」
T「いいね、他には?」
F「反応性」
T「reactive arthritisね、他には?
D「パルボ」
T「そうねえ、
全身の痛みだけで30分は話せるんだけど、
あげて欲しい鑑別をあげてもらえたら、次に進もっか。笑」
→溶連菌、IE、甲状腺機能低下・亢進、副腎不全
T「いいんだけどね、ヒントはさっきの前座だね」
R 「あー。VD欠乏ですか?」
T「そう!ビタミンD欠乏って実はとても見逃されやすくて、多いんだよね。
骨の痛みを訴えることがあるから、鑑別にあげないと、
絶対に診断できないよね。
思ったより早く終わったね、じゃあ次に進もう。」
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症例 35歳 女性 主訴:節々の痛み、全身の痛み
Profile:産後2ヶ月、甲状腺はやや大きいとは言われているが、特に内服はしていない
現病歴:来院の2週間前まではなんともなかった
2週間前くらいから手足の指に痛みが出現してきた
その後、肘や背中など体のいたるところに痛みが出てきた
手のこわばりもあるが、朝に強いわけではない
10日前に開業医を受診し、血液検査実施
炎症反応上昇はなく、リウマチの検査も陰性だった
4日前に再診し、NSAIDsを処方されたが、改善せず当院紹介
既往:甲状腺が大きいと言われているくらい、精査は行っていない
内服:NSAIDs(近医より)
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ディスカッション②何を聞きますか?
T「じゃあ、いろいろ聞いてください」
学生「発汗はありますか?」
N「ありません」
学生「寒がりですか、暑がりですか?」
N「どちらでもないです」
D「経過中に皮疹はありましたか?」
N「なかったです」
D「経過で悪化していますか?」
N「そうですね、痛みも悪化していますし、たくさんの関節が痛くなっているので、
悪化してきています」
その他、ROSとして、日焼けしやすいことはなく、動機はなし
下痢や浮腫なし、体重減少なし
T「はい、ありがとうございます。
みなさん、あちこち痛いと言われたらどうやって頭の中で考えていますか?」
学生「膠原病や感染症じゃないか?とまずは考えます。
あとは内分泌やうつ病とかも鑑別に考えます。」
T「いいね、それも一つの軸ですね。病態の軸です。
ただここではもう一つの軸が大事ですね。
何かわかりますか?」
聴衆・・・
T「鑑別のあげ方でABCは聞いたことありますか?」
学生「ないです」
T「じゃあFさん、何回も聞いたよね?笑」
F「anatomy, VINDICATE, 3C :common, critical, curable です」
T「その通り!
ということで、二つ目の軸は解剖です。
あちこち痛いと言われると、解剖が疎かになりがちですが、
やっぱり大事です。
あちこちにあるもの、全身にあるものを考えます。
何がありますか?」
学生「関節、骨、筋肉」
T「いいね、他には?」
学生「皮膚とか」
T「いいね、もう少しあるね。
関節の周りには他に何があるかな?]
学生「・・・」
T「滑液包と腱・付着部があるね。
あとは皮膚の下の脂肪とか、血管とか、神経とかね。
あちこち痛いと言われたら、
これらの解剖のどこが痛いのかをまずは見極めることから始めた方がいい。
そして解剖が同定できたら、そこから病気を考えていくのがこつだよ。
例えば、皮膚だったら、コリン性蕁麻疹っていう病気があって、
皮疹を伴うんだけど、チクチク痛いっていう人が多い。
そしていろんな場所が痛くなるから、あちこち痛くなる。
関節だったら、病気はたくさんあるね。
筋肉もいろいろあるよね。
骨は若年であれば、ビタミンD欠乏とか、SLEでも痛くなる時あるね。
高齢であれば、もちろん、骨転移だね。
腱や付着部の場合は、脊椎関節炎が多いね。
滑液包は高齢だったら、PMRだけど、
偽痛風や痛風とか、感染でも滑液包炎は起こるね。
これらの解剖を考えて、なんだか当てはまらないなあと思ったら、
神経のことを考える。
多発神経炎とか、神経がエントラップされる病態とか、神経根の問題とかね。
あとはパーキンソン病も原因不明の痛みを訴えることがある。
そして精神的なものも考える。うつ病は全身の痛み出やすいからね。
という風に、病歴であちこち痛いと言われたら、
まずはどこが痛いのかを病歴と身体所見で詰めることが大事。」
参考:あちこち痛い
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身体所見
バイタル問題なし
眼球 充血なし 出血班無し
口腔内 潰瘍無し 口内炎無し
頸部 LN触れず
呼吸音 清
心雑音無し
腹部 平坦 軟 圧痛無し
関節 腫脹:無し、圧痛:左2.4PIP、左膝の内側
皮疹 無し
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ディスカッション③:他にとりたい所見は?
D「関節は腫れていなかったのですか?」
N「腫れていなかったと思います。」
T「リウマチの関節の腫れ方ってどんな硬さか知ってる?」
N「知らないです」
T「リウマチの関節腫脹の硬さは、パン生地みたいな硬さって言われるんだけど、
現代っ子はパン生地こねないからわからないよね。笑
自分流の関節の触り方のコツは二段階方式です。
ゲームセンターのクレーンゲームやったことある人は、
それを思い出してください。
クレーンが最初、ぬいぐるみのところにいきますよね。
そしたら、その場で開いて、その後、クレーンが閉じますよね。
あんなイメージで、
まずはそっと関節を押さないように触って、そこからギュッと押す感じ。
だからいきなり、関節を押すように触らないようにします。
①まずは関節の表面を触れるだけ
②そこからグッと押し込む
この方が関節の腫脹はわかりやすいです。
さて、さっき学生さんが膠原病っていってくれたけど、
膠原病って何やねん!って突っ込まれちゃうね。
膠原病ってひとまとめにしてしまうと、カオスなのでもう少し分けて考えよう
ANA関連疾患と関節リウマチ、血管炎、脊椎関節炎に分けて考えるとわかりやすいよ。
ANA関連疾患の場合、よくみられる所見があるけど何でしょう?」
D「硬口蓋の口内炎ですか?」
T「そうだね、それはSLEに特徴的な所見だね。
確かに硬口蓋に炎症があったら、かなりSLEっぽい。
臓器障害と関連すると言われるので、注意が必要な所見です。
でもANA関連疾患で特徴的かと言われると、微妙かな。
ANA関連疾患の多くが、レイノー現象がみられます。
レイノー現象になるということは、皮膚の血流が悪くなってしまうということ。
病歴でレイノーを確認しつつ、
身体所見で、NFC:Nail-fold capillaryをみます。
ダーマスコピーなくても諦めないでください、肉眼でもその目で見れば結構見えます。
NFCCがあれば、ANA関連疾患の可能性がググッと高くなります。」
N「みてませんでした」
T「はい、では次はリウマチの身体所見ですね。
関節はさっき、言ったようにパン生地みたいな柔らかさです。
だからパンヌスと言います。」
聴衆・・・・・ しらー・・・
T「嘘です。すいません。
リウマチの場合は、リウマトイド結節がひどいと出てくることがありますので、
肘の関節を触ったついでに、前腕の外側面を掌でなぞって、結節がないかチェックします。」
N「すいません、結節はみてませんでした」
T「次に血管炎の診察です。
血管炎は大・中・小にわかれます。
大血管炎つまり高安動脈炎の診察ってどうしますか?」
D「頸動脈の雑音を聞きます」
T「そうだね、頸動脈雑音ともう一つは?」
D「わかりません。」
T「頸動脈の圧痛だね。
雑音や血圧の左右差きてたら、だいぶ病期としては進んでしまっているから、
そうなる前に見つけたいよね。
以前、この所見を拾って高安を診断していた専攻医の先生がいました。
格好いいよね、フィジカルで診断できたら。
頸動脈の圧痛は覚えておいてもいいと思います。
では中血管の炎症、つまり結節性動脈炎の身体所見は何をとりましょうか?
これが難しいんだよね。
中血管って内臓にいく血管だから、腎臓とか腸間膜とかね。
フィジカルで取りに行くのって、難しいんだけど、唯一とるとすると?」
学生「陰嚢の痛みですか?」
T「その通り、稀だけど陰嚢痛が出ることが有名だよね。
なので一応チェックしましょう。
じゃあ、最後に小血管炎は?
これは簡単。
皮膚をみます。触れる紫斑を探します。
目をつぶって、皮膚をなぞって、紫斑が触れれば、palpable purupulaと呼ばれる皮疹ですね。
あとは多発神経炎を起こすことがあるので、痺れがないかもチェックします。」
N「すいません、みてませんでした」
T「はい、次は脊椎関節炎です。
脊椎関節炎の中にはいろいろあります、ASや反応性関節炎や乾癬性関節炎、IBD関連、
ベーチェットはこの中に入れるかは微妙ですが、
同じような感じのプレゼンテーションになることがあります。
脊椎関節炎の中でも一番気をつけるのは、乾癬です。
これはフィジカルがとても大事です。
ずばり、爪をしっかりみます。
pittingと呼ばれる所見が有名ですが、ボールペンで押しつけたような点状の穴ぼこができることが多いです。
あとは、肥厚したり、oil drop様の変化をしたり、白癬と間違えられる時もあります。
質問の仕方としては、爪が脆くて壊れやすいかどうか?
と聞くといいと思います。
あとはもちろん、皮膚もみます。」
参考:乾癬
T「こんな風に膠原病を疑った時は、手と爪と顔をその目でしっかり見ることが大事です。
そして膠原病と一括りにせずに、ANA関連なのか、リウマチなのか、血管炎なのか、脊椎関節炎なのか、これくらいはもう少し分けられるといいですね。
さて結局、この症例はどうなりましたか・?」
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経過
N「自分としては、産後でもあったので、甲状腺機能低下だと思いましたので、
血液検査をしています。」
血液検査 特記事項無し、炎症所見無し、甲状腺機能低下無し
ANAはやACPAは結果まち
N「結局、甲状腺は問題ありませんでした。
痛みはそれほど強くなさそうだったので、NSAIDS継続し経過観察としました。」
T「なるほど、じゃあ、これで出した血液検査で何も引っかからなかったらどうします?
そして、ずっと痛みが取れなかったらどうしますか?」
N「そうなんですよね、それで困っています」
T「なるほど、そしたら原因不明の関節痛ってことになってしまうね。
正解はリウマチ膠原病科に紹介することだよ。笑
でもそれじゃ芸がないからね。
CSA:Clinically Suspect Arthralgiaを知っておくと、いいかもね。
つまり関節リウマチに進展するリスクのある関節痛っていう概念があるんだ。
CSAの定義(EULAR)
Ann Rheum
Dis 2017;76:491–496
T「まあ、結局、リウマチが顕在化してきたり、他の病気が出てこないか、
慎重に経過みないといけないから、
リウマチ膠原病科の先生にフォローをお願いするのが妥当だと思うよ。
このCSAに落とし込んでいくか、
それとも未分類の脊椎関節炎に落とし込むかになることが多いんだよね。」
N「なるほど、わかりました。ありがとうございました。」
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まとめ
・あちこち痛いと言われたら、まずはどこが痛いかを明確にする
→やっぱりABCが大事
・「膠原病」と一括りにしない
→ANA関連疾患ならどの所見を狙うか?脊椎関節炎だったら?血管炎だったら?
というように膠原病のその先の分類を考え、その身体所見を狙ってとる
・原因不明の関節痛の場合、CSAという概念があることを知っておく
→もちろん、それ以外が何もないということが前提。病気がない、というのは非常に難しいので、そこはプロに任せてもいい
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