2021年3月21日日曜日

日本一朝早いカンファレンス 〜〇〇〇でも攻める問診〜

 症例 80歳 男性 主訴:食思不振 (※症例は一部修正・加筆を加えてあります)

セッティング:休日日中の救急外来

Profile:内科的には特記すべき既往のないADLフルな方

    妻と二人暮らし

現病歴:来院の1週間前から食欲がなくなった

    それでもなんとか食べられてはいた

    来院1日前から食事が全く食べられなくなった


バイタル:BP 150/90,P 90,SpO2 98%, T 38.0, RR 20 意識 清明

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ディスカッション①この問診票をみて、まずどう考えますか?

学「高齢の方が具合が悪くなると、食べられなくなることはよくあるので、

  なんでもありかなと思います。

  でも今回は急性に出現して、熱もあるので感染症を探した方が良い気がします。」


T「そうだね、素晴らしい!

  高齢者の食思不振は老年症候群の一つとも言えるので、なんでもありです。笑


  なんでもありですが、考え方としては、

  消化管に病気がある場合と重症病態によって食思不振が起きている場合があるので、

  この2軸で考えるのが良いかなと思います。

  

  まずは救急なので、重症病態として致死的な疾患や感染症がないか?

  という視点は非常に重要です。」

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現病歴

来院1週間前からきっかけなく、食欲が落ちてきた

それでもなんとか食べられていた

同じ頃からGERDみたいなゲップが出てきた

来院1日前に少し食べたが、その後は何も食べたくない

つっかえるような感じがする

熱は自分で測っていたが、なかった


ROS:嘔吐なし、排便あり、当日朝も排便あり

   周りに同じような症状の人いない

   体重減少なし

既往:もともと頻尿で泌尿器通院中

   もともと腰痛で近医整形外科通院中

内服:上記で何か飲んでいるが、お薬手帳持参なし

   何を飲んでいるか不明

生活:妻と二人暮らし、近所に娘さんがいる

喫煙なし、機械飲酒

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ディスカッション②追加でききたいことはありますか?


学「GERDは自分の解釈ですか?胸焼けはありますか?」


Y「GERDと診断されたことはないようです。胸焼けはありませんでした」


学「検診歴や検査歴はありますか?


Y「上部・下部消化管内視鏡検査を去年受けられていますが、

  特に問題なかったようです。」


T「それ、すごい大事だね。いい質問です。

 高齢者診療の原則の一つです

「歴史に聞く」ってやつです。


 他はどうですか?」


学「喉の痛みはありますか?」


Y「ありません」


学「つっかえるのは、何がつっかえるのですか?水ですか?」


Y「何でもつっかえるようです。水でもつっかえると言っていました

  つっかえるんですけど、飲み込みにくさはないと言っていました。」


学「冷たい水とお湯だとどうですか?」


Y「そこまでは聞いていませんでした」


T「それはどういう意図ですか?」


学「アカラシアであれば、冷たい水で増悪するのが特徴と習いました」


T「素晴らしいですね。つっかえるといえば、アカラシアも考えたくなりますよね。

  この場合、つっかえる感じをどこで自覚しているかが重要になります。

  嚥下の時点ですぐにつっかえるのか、食道でつっかえる感じか。

  これはジェスチャーでやってもらった方が早いです。」


参考:嚥下障害


Y「喉仏のあたりをさすっていました。」


T「なるほど、それだと咽頭の問題か食道の問題か分けられないかもしれないね。

  両方ありうると思って考えた方が良いかもしれません。


  ただ、つっかえる感じはあるけど、飲み込みにくさはないっていうのは、

  どういうことだろうね。」




ではここでSGDしてみましょう
急性に出現した高齢男性の # 高熱 # つっかえる感じ ですね


自分は目の前の患者さんの問題をどういうアプローチをすれば、
解きほぐせるかを考えています


例えば、この症例であれば「高熱と嚥下障害の軸」で考えるか、
それとも「高熱の軸」だけで考えるか、
はたまた「嚥下障害の軸」で考えるかといった感じです


二元論でいくか、一元論でいくか、
一つの症状を深掘りしていくか・・・

アプローチの仕方は様々です

自分だったら、どんな風にアプローチするか話し合ってみてください
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ディスカッション③どうアプローチする?

Y「救急のセッティングで発熱があり、食思不振があるとすると、
  感染症をメインに考えてたいです。

  感染症のフォーカスを探るような診察や検査を行います。
  腰痛がもともとあるので、化膿性の椎間板炎は心配です。」


T「なるほど。
 ものがつっかえるという症状は一旦脇に置いておく感じでいいかな?」


Y「そうですね。そちらの原因は一元的にどう説明できるかわかりません」


S「私も同じで感染症は落としたくないと思いました。

 つっかえる感じが実は脳梗塞であれば、
 脳梗塞で嚥下障害が出て、誤嚥性肺炎になってしまったというのは、
 一元的に説明が可能なのかなと思いました。」


T「いいね。なるほど。

 みんな感染症の軸で考えたいという感じですね。

 では感染症かなと思ったら、いつもの三角形と逆三角形で考えていきましょう

 
 真ん中に宿主がいて、感染臓器、微生物、治療を考えます。

 宿主が一番大事と言われますが、何を聞けばいいかというと、
 免疫状態はどうか?余力はどうか?曝露はどうか?

 この3つを宿主の状態として把握する必要があります。


 そして、感染臓器と微生物が推定・確定できたら、それが病名になります。

 大事なことは病名がわかっても、すぐに治療に入るわけではなく、
 患者さんの状態を考えて、治療に入るということです。」


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各班のディスカッション内容

T「発熱とつっかえる感じがりますが、
 まずは発熱メインで考えるというグループが多かったですね。

 特に致死的なものから考えると、killer sore throatは見逃したくないという意見もありましたね。
 開口障害があるかどうかはチェックしたいですね。

 あとはつっかえる感じはアカラシアや神経の問題を疑うので、
 神経診察もしたいとのことですね。

 内服薬が結局、何かを知りたいという意見もありました。」


T「では身体所見にいきましょう」


T「診察では熱源になりそうな場所はなかったようですね。
  ぱっと見の問題はなさそうで、詳細な神経診察はできていません。
 
  さて、この身体所見から鑑別疾患はどう変わったでしょうか?
  今後の検査やプランを考えてみてください。」

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ディスカッション④この後、どうする?

Y「やっぱり感染症に重きを置いて、検査を組んでいきたいです。 
  血液検査、尿検査、血液培養、尿培養、出れば痰培養も出したいです

  CTも撮りたいです。」

T「ありがとうございます。
  市中の感染症で敗血症になりやすい、いわゆる5+1の鑑別をしていくことになるね。

  あとは5+1に当てはまらない時は何を考えますか?」


S「副鼻腔炎や前立腺のような他の臓器の感染を探します」

T「そうだね、その時の考え方としてこの前4つのグループに分けてみました。

  診察に一手間かけないとわからない病気
  痛いと言わない病気
  検査でしかわからない病気
  時間かけないとわからない病気


   この4つのどこかな〜と思いながら、もう一度診察してみますかね。
  例えば肝巧打痛や歯に痛みがないか一本ずつ叩くとかね。

  あとはつっかえる感じはどう考えますか?」

Y「ワレンベルグも鑑別なので、脳神経の診察をしたいです。」


T「そうだね。
 ワレンベルグは狙ってないと絶対に診察できないよね。

  診察に一手間かかるものが多いです。
  
  部屋を暗くしてホルネル兆候を確認したり、
  氷を使った冷覚のチェックとか、狙ってとらないと普通はとらないよね。」


S「あとは実際に水を飲んでもらって、どうなるかみたいです」


T「いいね、水飲み試験だね。
  そこで盛大にむせたり、飲み込みにくそうかどうかわかるね」



T「他のグループもだいたい同じですね

  CT撮るときに単純か造影か、首を入れるかどうかが、ポイントでしょうか。
  あとは食思不振が実はCSDHとかもあるので、頭部を含めるかどうかですね。」

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実際の流れ

Y「実際も感染症を疑い、血液検査や尿検査、画像検査を行いました。
  血液検査では、CRPは0でWBCも上がっていなかったです。
  Naが126と低下していました。
  
  尿検査をすると、尿中Na+Kが血清Naよりも高かったです。
  尿の浸透圧は400mOsm/kgで、SIADHパターンでした。

  CTは熱源となるようなものはなかったです。

  入院してよくよく聞くと、数日前からトラムセットが追加処方になっていました。
  トラムセットによる食思不振やSIADHを考えて、トラムセットを中止し入院となりました。」


T「なるほど〜
  
  実は飲んでいた薬がトラムセットで、しかも新規に処方されていたんですね。

  お薬手帳を持ってきていない人はたくさんいます。
 ですが、薬が原因かなと疑っている時は、そこで諦めません。

  被疑薬はだいたい限られていますので、質問によってお薬を推定できます。

  
  例えば、1日3回のむやつですか?2回ですか?
  3回であれば、ロキソニン、2回であればセレコックスかもしれない

  胃薬も一緒に出ませんでしたか?
  胃薬が一緒なら、NSAIDs、出ていなければ、カロナールかもしれない

  痛み止めのんでから、便秘や口が乾きませんか?
  抗コリン作用が出ていれば、トラムセットかもしれない

  痛み止め飲んでから、ふらつきや眠気はありませんか?
  高齢者が通常量のリリカをのむと、ふらつきや眠気が出ることがほとんど
   

  痛みどめに限らず、他の薬でもこちらから薬の名前をひたすらあげると、
  あー!それです!となることも多いです。」


I「薬も攻める問診ですね
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本日の学び

・お薬手帳がなかった時点で、薬のことを考えられなくなってしまった
・発熱とつっかえ感を同時に起こすものを考えようとしたら、
 考えがぐちゃぐちゃになってしまった
・まず何を優先させて考えるべきか、ということが分かってよかった



お薬手帳を忘れた際の薬の聞き方

①何の薬をのんでいますか
 →血圧と便秘と痛み止め

②何種類のんでいますか?  
 →血圧は2種類、便秘は1種類、痛みどめは1種類

③1日に何回のんでいますか?   
  →分1、分2、分3
  
④薬剤名を挙げていく。ロキソニン?セレコックス?カロナール? 
 →ロキソニンです    

⑤最後は薬の写真を見せる

  

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