2021年3月6日土曜日

日本一朝早いカンファレンス 〜行き着く先は?〜

 95歳 女性 主訴:意識障害(※一部、症例は修正・加筆を加えています)

Profile:DMで近医かかりつけ

現病歴:前日、デイサービスに行って、帰ってきてからぐったりしていた

来院当日、朝からいつもと様子が違うため、救急搬送となった


既往:高血圧、糖尿病、胆管炎

内服:ジャヌビア、メトホルミン、グルメピリド、アムロジピン


バイタル BP 120/75, P 80 , SPO2 95%, T 36.4, 意識 JCS3 

自発開眼している、名前を言ってもらおうとしても言えない

自分で発語はしない、追視はしてくれる

離握手もできない、指示は入らない

粗大な麻痺はなし



普通の意識障害の鑑別はどう考える?

1、教科書的にはAIUEOTIPSで網羅的に

2、実際のアプローチ

 ①血圧をみて、頭蓋内病変か全身疾患かを考慮

 →血圧高めであれば、頭蓋内から考える

  広範囲な脳梗塞を想起する場合、大動脈解離も忘れずに!


 ②全身疾患であれば、足りない系か、溜まっている系か

 暴れていると足りない系(低血圧、低血糖、低酸素)の可能性を 

 →すぐに血圧と血糖チェック

  

 ちーんとしていれば、溜まっている系(CO2、尿毒症、高アンモニア、電解質異常)を

 →血ガスや血液検査をチェック


3、意識障害の人の神経診察

 

意識障害で指示が入らなくても、神経診察は重要です

もし、focal  sign(失語、失行、失算、視覚障害、軽微な麻痺など)があれば、
脳梗塞や脳出血、CSDHを強く疑います

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スモールグループディスカッションにて:この後どうしますか?


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4、自分の手札をきるイメージで考える

意識障害の実際の考え方は、「時間」が限られているものから考えます

・tPA適応で動くか
・髄膜炎・脳炎対応で動くか

focal signがあれば、tPAの時間内であれば、tPA対応として動きますし、
項部硬直や発熱があれば、髄膜炎・脳炎対応で動きます


この二つの可能性が低いことがわかれば、じっくり原因検索を行います

自分の手札(検査や治療)を駆使して、意識障害の原因を調べていきます


簡単ですぐにわかるものから → 侵襲的・時間のかかる検査へ

・病歴
・既往・薬物・中毒
・神経診察
・血液ガス:CO,CO2,糖
・血液検査:内分泌系、NH3、コルチゾール、電解質
・血液培養
・頭部CT
・各種チャレンジテスト:セルシン、VB1、麻薬中毒疑いであればナロキソン
・MRI
・髄液検査
・脳波
・神経内科Drの診察
・特殊検査

・診断的治療:
原因不明の自己抗体関連脳症・脳炎(橋本脳症、NMDA受容体、抗GAD抗体関連、抗VGKC抗体関連、MOG抗体関連、パラネオ)や膠原病関連の脳症・脳炎(神経ベーチェット、神経ループス、神経sweet)、脱髄疾患(MS、NMO、ADEM)、中枢神経原発血管炎、中枢神経原発悪性リンパ腫、ビッカースタフ型脳幹脳炎が鑑別だが、まだ診断が確定していない時のステロイドパルスや血漿交換、IVIG治療
結核性髄膜炎以外ありえない状況で、point of no returnに差し掛かっている時の抗結核薬



AIUEOTIPSのような病態で考えるのもありですが、
検査ごとにわかる病気で考えた方が実践的です




これらの手札をどの順番で切るかには、病歴や診察も重要ですが、
疫学を知っておくことも重要です


自己抗体関連脳症は、とても稀な疾患で最初から考える疾患ではありません

高齢者の意識障害で、commonな疾患は非痙攣性てんかんです

しかも診断しにくい・・・


検査で判明しにくい疾患群の場合は、チャレンジテストで診断します

その代表が、NCS(非痙攣性てんかん)とVB1欠乏です


ただし、超高齢者にセルシンをうつのは、
呼吸のサポートがしっかりできる状態で行いましょう



そして、全ての手札を切りきった後に何が残るか・・・


この患者さんの行き着く先は何か・・・


そこを押さえておくと、検査が空ぶった時でも焦りません

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結局、本症例は・・・


左被殻の急性期の脳梗塞でした
視床かと思っていましたが、被殻でした

「視床梗塞を鑑別に入れたら、被殻梗塞もクラスター的に考える」というのが、自分の中のパールとして生まれました



被殻梗塞で意識障害???


詳しくは・・・


top of basiler  をご参考ください


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学び

・意識障害は鑑別がたくさんあって、総合的に考えないといけない

・意識障害と聞いて、ぼんやりと考えていたが、明確に一つずつ鑑別を消していく作業が必要

・自分の手札を切った時に、何が残るかを考えたことがなかった

 国試では必ず、どこかに行き着くが、現実の臨床ではどこに行き着くかわからないのが、難しい


まとめ

・意識障害のアプローチはケースバイケース

→AIUEOTIPSは実はあまり実践的ではない・・・


・自分の持っている手札(検査や治療)が何かを考え、どの順番で手札を出すかを考える

→手札を出す順番は病歴や診察で決める

 網を投げるようにルーチンに検査を出しまくって、何か引っかかるかな?という診療では、

 診断力は向上しない


・最終的に手札を切りきった後に残る疾患が何か、行き着く先を考える

→検査だけでなく、診断的な治療が必要な場面もある


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