2021年3月20日土曜日

食後の腹痛 〜腹部アンギーナ〜

50代 女性 主訴:食後の腹痛(※症例は一部加筆・修正を加えています)

 

Profile:ITPの既往があるADLフルな方 
 
現病歴:3ヶ月前から食後に腹痛が出現するようになった
最初は痛みは弱かったが、1ヶ月前より痛みが強くなってきた
食事の10分から30分後に心窩部から臍部にかけて痛みが出現する
食後1時間くらいで治るが、数時間続くこともある
吐き気はない 下痢もない
食欲はあるが、腹痛が出現してしまうので、食事を避けるようになった
体重は3ヶ月で5kg減った
 
既往:20年前にITP
内服:なし
生活:元気な主婦

バイタル 発熱なし 
身体所見 腹部 圧痛なし
血液検査 ESR促進あり、CRP上昇なし、他特記すべき異常なし
上部・下部消化管内視鏡検査 異常なし

    造影CTにて腹部大動脈や腹腔動脈、SMAの血管壁肥厚を認めた

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食後の腹痛について


「食後の腹痛」で調べると「腹部アンギーナ」ばかり出てきて、

いいまとめがありませんでしたので、とりあえず自分の考えをまとめてみました


腹痛の増悪寛解因子で「食事で悪化するか?」聞きますよね


ただし食後の腹痛といっても、いろんなパターンがあります

まずは3つのパターンに分けることが重要です


「食後の腹痛」がある人は、

パターン①:今回はじめて食後に腹痛が出現

パターン②:よくよく聞くとあまり関連はないかもしれない

パターン③:完全に食事が原因


に分けます

この3つは鑑別疾患が全く違います

 


パターン①:今回初めて食後に腹痛が出現してきた

食事が原因でない虫垂炎のような病気の可能性もありますが、
食事が原因のこともあります


食事が原因で腹痛が生じる場合、消化器系疾患、アナフィラキシー、中毒があります


患者さんは直近に食べたものが原因と思っていることが多く、
「冷蔵庫に残っていた7日前の〇〇が悪かったかなあ〜」
と何かしら思い当たるものを教えてくれます

ですが、「確かに!その食事が原因ですね!」となることは少ないです


食後に腹痛が出現している場合でも、
こちらから狙って食事歴を聴取しないと診断できないことが多いです


まずは消化器系疾患です

消化器系に悪さをするような食事は教科書的でわかりやすいです
アルコールの膵炎や油物の胆石発作、もちの腸閉塞などです


一方、
アナフィラキシーが腹痛のプレゼンテーションできた場合は、
診断が難しくなります


原因不明のアナフィラキシーの場合は、
アニサキスが入っているような魚やこなひょうダニが入っているような粉物系の食事歴を聴取します

そして、食後に運動していないかも聴取する必要があります



食事以外にも最近飲み始めた薬やサプリがないかも聴取します

ACE-Iの血管浮腫で腸管浮腫が起きて、腹痛で来院されたという人もいます



中毒系の場合は、本人もわかっていることが多く、
自分でとってきたキノコを食べた後からお腹が・・・みたいな感じで教えてくれます






パターン②言われてみれば、そうかもしれないレベル


「食後で腹痛が増悪する?といえば、するかも・・・」

みたいな感じで、患者さんが自分からは言わず、
こちらから聞いたら答えるようなパターンです


実際は食後でなくても腹痛があったり、食後で増悪しているとも限らない状況です
この状況を見極めるには、病歴聴取にて痛みの推移をグラフ化をしないといけません

腹痛の診断に行き詰まる時の多くが、病歴が足りていない時です



痛みの推移をグラフ化できれば、食事が原因かどうかはすぐにわかります
関係なさそうであれば、普通に腹痛の鑑別疾患を考えます


食事と腹痛がなんとなく関係ありそうな場合は、IBSや便秘のことが多いです

ですが、消化管のトラブルがあれば、食後で増悪する可能性もありますので、
非特異的な病歴だと思います


つまりこのパターンの場合は、low yieldで、
鑑別を絞ることはできず、多くの疾患が鑑別に残ります





パターン③自分から食べる度に腹痛を訴えるレベル


食後の腹痛といえば、これです
いわゆる腹部アンギーナと呼ばれます

こちらはパターン②と違って、完全に食事が誘因や増悪因子になっています


患者さんが一番よくわかっていて、食事をすると確実に腹痛が出現するので、
食事を避けるようになります

食事をしなければ、腹痛はない(軽い)というのがポイントです

やはりこのパターンに落とし込むためにも、グラフ化が必要です



このパターン=腹部アンギーナといえますので、
腹部アンギーナの鑑別を考えていきます

こうなるとかなり鑑別が絞られるので、この病歴はhigh yieldです



腹部アンギーナ


腸管が虚血になる場合、

時間経過:急性、慢性
部位:小腸、大腸
原因血管:動脈(腹腔、上腸間膜、下腸間膜)、静脈
病態:解離、塞栓、攣縮、動脈硬化、外部からの圧迫(腫瘍、血腫、靭帯)
        血管炎、薬剤、凝固異常

で病名が変わってきます


時間経過 × 部位 × 原因血管 × 病態 = 病名  となります


急性×小腸×SMA×塞栓=SMA塞栓症
急性×大腸×IMA×動脈硬化や薬剤=虚血性腸炎
急性×小腸×SMA×攣縮=NOMI
慢性×大腸×静脈×薬剤(漢方)=特発性腸間膜静脈硬化症


では腹部アンギーナはどうやって表現されるでしょう?


(亜急性)慢性×小腸(大腸)×腹腔A・SMA・IMA× 〇〇=腹部アンギーナ

となります

つまり、腹部アンギーナの場合、〇〇が空いています

〇〇が何でもありので、「腹部アンギーナ」は病名ではなく症候群です



「腹部アンギーナ」が分かれば、第二幕の始まりです

まず大まかに炎症があるかないかで分けるとわかりやすいと思います

炎症病態であれば、血管炎を考え、
炎症がなければ、血管炎以外の病態を考えます


次に、好発年齢や性別が病気によって異なるので、疫学が大事になります


炎症がなく、中年男性の腹部アンギーナであれば、SMA解離をまずは疑います
炎症がなく、中年女性の腹部アンギーナであれば、正中弓状靭帯症候群を疑います
炎症がなく、高齢女性の腹部アンギーナであれば、動脈硬化を疑います


炎症があり若年女性の腹部アンギーナであれば、高安病を疑います
炎症があり中年男性の腹部アンギーナであれば、結節性多発動脈炎(PN)を疑います
炎症があり高齢者の腹部アンギーナであれば、MDSに合併した血管炎を疑います




冒頭の症例は、SLEによる大血管炎でした
ITPの既往がある人はSLEになることが多いので注意が必要です

稀ではありますが、SLEの大血管炎の症例報告は散見されます



Reumatol
Clin.
2016;
12(3)
:169–172

腹部アンギーナとわかってもからも診断を詰めていくのは大変です

特に血管炎は生検しにくい(というより手術でなければできない)ので、
血管造影やPET検査に頼らざるを得ません

消化器内科、消化器外科、膠原病科がディスカッションしながら、検査プランや治療方針を決めていきます




まとめ
・食後に腹痛を来した人をみたら、パターン①、②、③のどれかを見極める
→特に②と③を見極めるためには、痛みの推移をグラフ化する

・腹部アンギーナは病名ではなく、症候群である
→炎症の有無と性別・年齢で鑑別していく

・腹部アンギーナとわかるまでが第一幕、腹部アンギーナがわかってからが第二幕
→診断も治療も悩ましい病態

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