症例 70歳 男性 主訴:下腹部痛 (※症例は一部修正・加筆を加えています)
Profile:4年前に肺炎・膿胸で入院加療歴がある方
ADLフルで元気、現役医師、旅行者
現病歴:来院7日前から下腹部痛が出現
同日に悪寒もあり、発熱もあった
腎盂腎炎と自己診断し、クラビットを内服した
その後、徐々に解熱し軽快していった
来院2日前にクラビットを中止した
来院1日前に下腹部痛が再度出現してきた
痛みの性状は同じだった
来院当日、発熱が出現し救急外来を受診
既往歴:GERD、不眠、BPH、肺炎・膿胸(4年前)→結核ではなかった
内服:ネキシウム、マイスリー、ユリーフ
生活:喫煙 24本/日 50年、アルコール:機会飲酒
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ディスカッション①他に聞きたいことはありますか?
T「はい、現役医師の方の発熱、下腹部痛ですね。
ご自身で腎盂腎炎と診断されて、クラビットを内服しています。
なんでクラビット持っているんだろうね。笑
腎盂腎炎だとしたら、途中でやめたら再発しちゃうよね。
色々ツッコミどころはありますが、他に何か聞きたいことはありますか?」
S「嘔吐や下痢はありますか?」
N「ありません。」
S「排便はいつも通りですか?」
N「毎日出ています。下痢はなく、いつも通りとのことでした。」
S「頻尿や排尿時痛はありますか?」
N「ありませんでした。」
T「はい、ありがとうございます。
下腹部痛と発熱以外には症状が乏しいようですね。
この方の病気は何っぽいですか?」
S「感染症?ですか・・・」
T「そうですね。感染症っぽいですね。
熱ありますし、抗生剤効いてそうですし。
感染症かなと思った時は、いつもの三角形を考えます。」
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ディスカッション③診断は?
T「はい、70歳男性の7日前からの下腹部痛と高熱ですね。
クラビットでpartial treatmentがあり、経過としては長くなっています。
腹部診察では下腹部に腹膜刺激徴候を伴う痛みがあります。
診断はなんでしょうか?」
S「憩室炎か虫垂炎ですか?」
T「どっちですか?」
S「うーん、虫垂炎で。」
T「ありがとうございます。
では虫垂炎だとしたら、この経過はいいんでしょうか?
7日前から下腹部痛と発熱が急に出現してますね。
虫垂炎は発熱は遅れてくるので、同時に起きているのが変ですね。
他の方はどうですか?」
Y「どちらかというと、憩室炎かなと思いました。」
T「その心は?」
Y「前にもこんな経過の人を見たことあるからです。」
T「それはね。バイアスっていうんだよ。笑
representativeness(利用可能性)やね。
憩室炎っぽくも見えるんだけど、7日間たってるからね。
途中で抗生剤も入っているから、この経過だと膿瘍を考えたくなりますね。
憩室炎が穿孔して膿瘍でもいいんだけど、最初からこんな高熱出るかな?
なんとなく違和感を感じますね。」
K「僕も最初は憩室炎かなと思いましたが、違和感があります。
病歴に戻っていいですか?
もともとこの方は今回のような腹痛は今までにもなかったのですか?」
N「はい、実はこの方はこれまでにも同じような腹痛を繰り返していたようです。
何度か血便もみられたこともありました。
ですが自分では便秘や痔だと思っていて、病院受診はしていませんでした。
発熱も何度かあったみたいですが、クラビットで自分で治していたようです。」
T「なんと!
最初は憩室炎をクラビットで散らして、CD腸炎になったのかなと思っていましたが、
その病歴聞いちゃうと、全然鑑別変わるね。
それは潰瘍性大腸炎やクローン含めたIBDを疑いたくなる病歴です。
ですが今回は高齢者ですのでまずは、大腸癌を疑いますね。
大腸癌の穿孔が一番あり得る状況になってきました。
バイタルも派手に異常だしね。」
N「はい。造影CTを撮るとS状結腸には憩室はありませんでした。
S状結腸に腫瘤があり、壁肥厚もありました。
腹腔内には、フリーエアーや腹腔内膿瘍が散在していました。
診断としては、S状結腸癌の穿孔に伴う汎発性腹膜炎で手術になりました。
最初は腎盂腎炎という解釈だったので、
あ〜そうなんだ〜
と思っていたのですが、
実際に診察してみると、絶対に腎盂腎炎じゃない!と思いました。
改めて病歴を聞くと、何度も腹痛を繰り返していることや
血便があったということがわかりました。
病院受診はせず自分で治療や解釈をされていたので、
やっぱり病院にはかかるべきだなと思いました。」
T「そうだね。
いやあ、やっぱり病歴や診察は大事ですね。
K先生が病歴に戻ってくれなかったら、わかりませんでしたね。
患者さんの解釈モデルは大事だとはいうけど、
プロとしては解釈を鵜呑みにしてはいけないですね。
たとえ、患者さんが自分より先輩のDrでも・・・
大変勉強になりました。ありがとうございました。」
まとめ
・腹部診察のコツその①「3次元診察」、その②「診察・US・CTを行ったり来たりする」
→平面と深さの診察は分けて行う、何度も触る、超音波と一緒に触る、CTの後に触る
・病歴がやっぱり大事
→解釈ではなく、客観的な事実を優先させないと誤診につながる
・医療者は自分や家族を治療してはいけないという言い伝えは本当
→体調悪ければ、病院へ行こう
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