2021年3月17日水曜日

昼カンファ 〜現実と妄想の狭間〜

 新たなカンファレンス形式として、

限られた情報で鑑別疾患や病歴、患者さんの背景まで妄想していく試みをしてみました


やってみた感想としては、非常に面白かったです

発見もたくさんありました


①情報を大切にするようになる

情報が少ないので、いつもはスルーしていた小さな情報が、

とても大きな情報に感じます


例えば、住んでいる場所や来院した時間だけでも、いろいろ考えることができます


さらに情報が限られており、バイタルの重要性がいつもよりも際立ちます


実際に臨床現場で、全く情報がない場面は多々あるので、いいトレーニングになりました



②思考過程が普段と異なる


普段している診断は、たくさんの情報を統合して一つの解を導き出す作業です

1000ピースの散らばったパズルを完成させるイメージです


そして、パズルのピースはこちらから取りに行く必要があり(病歴聴取)、

さらに、関係のないピース(情報)を取捨選択する作業が必要になります(high yieldかlow yieldな所見の見極め)


今回は、逆に小さな情報を膨らます作業が必要で、全く別の思考過程になりました


パズルのピースが欠けており、穴だらけのパズルをみて、

完成したら何になるでしょう?という感じです


臨床推論についてT先生は、


「一番大事なのは、何を語ったかではなく、

 何を語らなかったである」とおっしゃっていました


見えていない部分に真実が隠れていることを忘れてはいけませんね


そして、語られたことだけをみて、全て見えた気になってしまうのも良くないですね



③想像力が養われる


妄想がいろいろできる人は、想像力が豊かな証拠です

家庭医系の先生は詳細に患者背景や病態を想像してくれました


さすがでした


家庭医に一番必要な力は、想像力だと思っています


「FIFE」、「かきかえ」といったスキルで、患者さんのナラティブを引き出しましょう

と、よく言われますが、もっと大事なことは想像力です


相手がこの立場であったら、こういうことが辛いだろうなあ、とか

ここが心配だろうなあ、といった想像ができれば、

こちらから助けの手を差し出すことができます


今回の妄想カンファは、想像力を鍛えるいいトレーニングになりました

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88歳 男性 主訴:呼吸苦(※一部症例は加筆・修正を加えています)

HOT LINEがなり救急車で来院

セッティングは、休日の午後の救急

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T「はい、ではこれだけの情報で妄想してみましょう。

 いかがでしょうか?」


Y「えーっとですね、この人は多分、慢性心不全が背景にあって、

 今回は急性心不全ですね。

 認知症も進んできて、薬の管理ができなくなってきています。

 奥さんと二人暮らしですが、奥さんの介護力もない状態です。

  薬の飲み忘れが多くなってきて、心不全が悪化してきたんだと思います。」


T「はい、素晴らしいですね。ありそう〜

  今回のルールとして、妄想してくれた人は一つだけ質問していいことにします。

  何を質問しますか?」


Y「じゃあ、ADLを教えてください。」


D「ADLはフルです。」


T「なるほど。いいですね。では次の人どうぞ。」


N「この人はですね、心臓や肺が原因かなと思って、レントゲンとか、

 CT撮ったりするんですけど、肺が綺麗なんですよ。

 じゃあ、PEかなと思って、DVT-USもするんですけど、それもない。

 何かな〜って思っていたら、血液ガスでCOが高いっていうのが、オチです!」



T「まるで、経験したような口ぶりですね。」


N「はい、3回くらいありました。笑」



D「豆炭は使っていませんでした。」


N「まだ質問してないやろ。笑」


T「まあ、豆炭以外でもCO中毒ありますからね。

 他に経験したものはありますか?」


N「石油ストーブや薪ストーブでもありました。

  じゃあ、質問は既往歴を教えてください。」


D「既往は高血圧、糖尿病で〇〇診療所にかかっています。」


T「はい、ありがとうございます。いいですね。では次、整った先生お願いします。」


E「はい、整いました。

 この人はですね、ADLがフルで元気なんですよ。

 妻と息子と生活しています。

 だいたい、〇〇に住んでいる人は元気な人が多くて、

 畑とかもしています。


 今回はですね、最初はCOPDや心不全や肺炎かなとか思いますけど、 

 違うんですよ。CTも綺麗で、PEもなくて、何かな〜と思ったら、

 ガスでCO2が溜まっていて二型呼吸不全パターンですね。


 でもALSやMGにしては、今までの経過がなくて急性の経過だと思います。

 となると、GBSの上腕や頸にくるパターンのやつで、

 よく聞くと、先行感染の下痢があったという感じですね。

 その後は、入院して挿管して人工呼吸器つけて、神経内科の先生に相談して、

 IVIGいく流れです。

 

 なので、下痢があるはず!」


D「下痢はなかったです」


T「笑。いやあ、面白いですね。

 でも、下痢のROSを聞いているのもヒントになりますね。


 じゃあ、次の方。」


M「はい。整いました。


  この人は、呼吸苦が出てきて、

  はあはあして、だんだん手が痺れてきて、救急車で来院したという流れです。

  バイタルはBP140/70、P80、SPO2 100%、RA24回、T 36.8ですね(※妄想)

  ガスをとってみると、CO2がはけているはずです。


  高齢者の過呼吸なので、原因疾患を探すのが大事になります。

  痛みがあって過呼吸が誘発されたのかもしれないので、

  解離を探したり、喘息を探したりします。


  でもどこにも異常がなくて、じゃあ、頭か?ということを議論して、

  頭の検査をどうするか悩みながら入院になります。


  でも入院後は治ってしまって、結局何だったのかわからないという感じです!


  SPO2 が100%だと思います。バイタルを教えてください!」


D「SPO2 94%(2L)、BP 95/50、P90、T 36.6、RR24回で、レベルはクリアです。」


T「違ったね。笑。

  しっかり低酸素だったね。


  でもバイタルが出てきたのは、かなりの情報ですね。

  では次の方〜」



N「はい。

  この人は奥さんが1ヶ月前に亡くなっています。  

  それで今は一人暮らしをしています。(※妄想)

  食事とかは全て奥さんが作っていたので、何とかそれでも冷蔵庫にあるもので、

  食い繋いできました。

  

  バイタルで血圧が低くて、酸素の値も低いので、

  これはアナフィラキシーです。

  来てみると、体が真っ赤ですぐにアドレナリンを打つ流れになります。


  だから下痢のROSも聞いたんだと思います。


  でもアナフィラキシーの原因になるようなものがありません。

  よくよく話を聞くと、冷蔵庫にあったさばを食べたという話が出てきます。

  さばに含まれているヒスタミン中毒が今回の原因だと思います。」


T「じゃあ、質問はさばを食べましたか?にする? 笑」


N「いや、体が赤いはずです。体が赤かったかどうかにさせてください。」


D「体は赤くはなかったです。」


T「笑。論理が通った妄想だったけどね、

 体赤かったら、めっちゃ盛り上がったね。笑

 では次の方〜」


S「午後の救急に救急車で来ているので、かなり急性の発症だと思います。

 そうなるとPEや気胸を考えたくなります。

 でも普通のADLの人がPEは起こさないので実はタバコを吸っていて、

 進行した肺がんが背景にあって、凝固系の異常があってDVT・PEになったんだと思います。

 タバコは吸っていましたか?」


D「タバコは吸っていません。」


T「いい論理だったけどね〜


 タバコは吸っていないんだね。大事な情報です。

 はい、ありがとうございます。では次の方〜」


S「かなり急に出現しているような印象なので、

 PEや気胸が鑑別になるかと思います。


 やっぱり発症時に何をしていたかとか、onsetが気になります。

 何をしている時に苦しくなったのですか?」


D「来院の30分前から呼吸苦があったようです。

  髭剃りをしていて、そり終わったら苦しくなってきたようです。」



T「髭剃り後の呼吸苦って・・・

  googleに入れたら、何か病名教えてくれるかな? 笑


  でもかなりsudden onsetですね。

  では次の方〜」


K「はい、この人は喫煙はありませんが、DMやHTがあり、

 家族歴で脳血管や心筋梗塞があるはずです。

 vasular riskは高いと思います。


 それで、今回は血圧低下や酸素も低下しているので、

 心筋梗塞が疑わしいと思います。

 なので、胸痛があったかどうかが聞きたいです。」


D「胸痛はありませんでした。」


E「今の妄想にコメントすると、急性の心筋梗塞だと、あまり血圧が下がらない気がします。

  もちろん、心原性ショックであれば、そういうこともありますが・・・

  

  もし心筋梗塞だとしたら血圧が下がっているというのは、

  合併症である腱断裂や心室中隔穿孔、心破裂を考慮したいです。

  

  そうすると、今回胸痛よりも呼吸苦が目立っているので、

  急性ではなくて数日前に心筋梗塞を発症したrecent MIの気がします。


  それであれば、肺水腫と血圧低下も説明できるかなと・・・」


T「いいですね!素晴らしい。

 妄想にコメントしてくれた人には、質問の権限を与えます。

 何か聞きたいことはありますか?」


E「じゃあ、心雑音があったかどうか教えてください。」


D「2LSBにLevine  4/6の収縮期駆出性雑音がありました。

  あとは心尖部に逆流性の雑音もありました。」


聴衆 おおお〜〜


T「すごいですね。なんだか、弁の問題な気がしてきました。

  では、次の方〜」


E「えーっと、症例は

  ADLがフルな88歳男性で、HTとDMで近医通院中ですね。

  今回は来院の30分前からのかなり急性に出現した呼吸苦で、

  バイタルでも酸素化の低下がみられます。

  少し血圧も下がっています。

  収縮期雑音があるので、何らかの弁膜症やVSPが疑われているので、

  やっぱり心不全を疑いたいです。

  足の浮腫があったのかは気になります。」


D「下腿前面には少し浮腫があって、足背はⅢ度くらいの浮腫がありました。」


T「いいですね〜おっと、そろそろ時間ですね。結論はどうでしょうか?」


U「その前に司会のT先生が妄想してみてよ。」


T「えー僕ですか・・・

 妄想言うのって、結構恥ずかしいですね。笑」


N「僕らもめっちゃ恥ずかしかったですよ 笑」


T「多分この人はとても元気で畑もやっているくらいの人ですね。

 妻と二人暮らしで、奥さんの言うこともあまり聞かず、

 食事とかも適当で、塩分も普通にとっていたと思います。


 近医の先生からも塩分は控えるように言われていても、多分聞いていなかったと思います。

 そして、HTに対してカルシウム拮抗薬が出されていて、浮腫もきています。


 実は数日前から苦しくても、外に出て行ったりしていて、

 本人はいつものことで、気にしていなかったのだと思います。


 今回は午前中に動いたりして、午後に本格的に酸素化が低下して苦しくなってしまいました。(※妄想)

 原因はもともとA Sがあって、それが徐々に進んでて、今回は心不全になったのだと思います。 


 すいません・・・普通で。

 じゃあ、実際はどんな流れで結論はどうでしたか?」


D「実際はCXRで肺の透過性が全体的に落ちていて、心不全がありました。

  虚血も考えて心電図をすぐに撮りました。

  V2-4でST-Tが少し上がっているように見えました。 

  T波は二相性でした。V5-6はST-Tは低下していました。

  比較はありませんでした。


  トロポニンはわずかに上がっていて、BNPは著明に上がっていました。

  UCGではSever ASがありました。

  

  この時点では、ASに伴う心不全で、虚血もあるかもしれないと思ったので、

  循環器に相談して、

  硝酸薬、ヘパリン、フロセミドで治療されました。

  後日カテをしてみると、3枝病変が見つかり、Sever ASもあるので、

  CABGを他院でお願いする流れになりました。」


T「なるほど〜

  限られた情報でもかなりいい線いって、想像できていましたね。


  途中の妄想でみんなが呼吸苦の時に大事にしていることが聞けてよかったですね。

  

 呼吸苦の時にアナフィラキシーや二型呼吸不全、CO中毒とかは見落としがちですから、

 常に意識しておくことが大事ですね。  



  どうなることかと思いましたが、意外に妄想系カンファも面白かったですね。

  また皆さん、お付き合いください。

  ありがとうございました。」


まとめ

・妄想系カンファは意外に面白い

→普段使わない思考ができる

 想像力が鍛えられる

 バイタルをより大事にする

 といったメリットがある



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