今回のNEJMも勉強になりました
この症例を読むと若年女性のACSで考えるべきことが整理されます
オススメ度:★★★★☆
こちらが考えていたことを、次のパラグラフで情報を出してくる構成がさすがでした
分かってますよ、これ聞きたいんでしょ?
と言わんばかりに情報が出てきます
著者の掌で踊らされていた感覚です
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38歳 女性 職業は郵便配達員
現病歴:来院1日前、数時間歩行後、仕事帰りに息切れを伴う突然の胸骨下胸痛が出現した
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コメント
はい、若年女性の突然の胸痛ですね
本当に「突然」発症であれば、大血管のトラブルの可能性が高いです
致死的な疾患である大動脈解離、肺塞栓、大動脈瘤破裂、心筋梗塞をまずは考えます
commonなものでは、気胸、縦隔気腫、胆石発作といった鑑別があがります
大穴としては、小児や若年者の胸骨の痛みの場合、白血病のことがあります
白血病細胞が胸骨の中で増殖しまくると痛みが出るみたいです
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患者には心筋梗塞の既往があり、帰宅後すぐにアスピリン325mg内服とニトログリセリン2錠を舌下した
胸痛は持続し、彼女は救急医療サービスに連絡した
救急車輸送中に、追加のニトログリセリン錠剤が2錠投与されたが、症状は不変であった
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コメント
はい、ツッコミどころ満載です 笑
38歳で心筋梗塞の既往って、どういうこと!?
しかも胸痛で自分の判断でアスピリン追加で服用するって、あなた医者ですか? 笑
もしくはこれまでも頻回に同様の胸痛を起こしていて、主治医に指導されているかですね
ニトロ使っても軽快していないので、狭心症ではなく、
心筋梗塞になっている可能性が高いですね
救急隊からこのような情報をもらった時に、
準備しておくべきことはなんでしょうか?
心の準備?
まあ、それはそうですが・・・・
心電図をとる準備?
それは当たり前です
採血、ルート?
それも当たり前です
最も大事なことは、
カルテの確認と以前の心電図をチェックすることです
心筋梗塞の既往があるということは、心電図やカテ記録、心臓超音波検査などのデータがあるはずです
自分の病院がかかりつけでなければ、かかりつけ医に電話して、
心電図をすぐにFAXで送ってもらいます
ということで、この患者さんがくる前にやらなければいけないことは、
以前の心電図を手に入れることです
そしてもう一つ確認してください
今、カテ室が使えてすぐに緊急カテができる状況かどうかを
他の症例で緊カテが行われている場合やカテ室が使えない場合、
この症例は他院に行ってもらった方が良いかもしれません
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救急科到着後、患者は以前の心筋梗塞に類似した放散痛のない持続性胸痛を訴えた
悪心、嘔吐、発汗を認めた
彼女は、27歳時、他州在住時に胸痛による入院歴があると報告した
心臓発作(heart attack)と診断され、彼女はバルーン血管形成術を受けた
ほぼ10年後の36歳で、(再度)胸痛を呈し他院で心筋梗塞と診断され、ステントが留置された
しかし早期発症の心臓病の原因は特定されなかった
彼女は今回来院の1週間前にステント留置時にアスピリンと一緒に処方されていた
チカグレロルが不足していた(なくなってしまった)と報告した
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コメント
はい、またツッコミどころ満載です 笑
チカグレロル(ブリリンタ®︎)がのめていなかったようですね
そりゃあ、まあ、また心筋梗塞起こしたんでしょうねってことになります
問題はなぜ何度もこの若年女性が心筋梗塞を起こしているか?です
若年女性の心筋梗塞ではじめに考えるのは、
家族性高コレステロール血症を含めたvascular riskがどれくらいあるかです
喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満があれば、若年者でも心筋梗塞を起こします
家族性高コレステロール血症については、病歴で家族歴を聴取し、
身体所見で眼瞼黄色腫やアキレス腱の肥厚を確認します
海外のデータでは、
若年者であっても心筋梗塞の原因で最もcommonなのはプラーク破裂に伴うもので90%近くを占めます
残りの1割は動脈硬化がなかったり、冠動脈の目立った狭窄がないパターンであり、
MINOCAと呼ばれたりします
問題はこれらのvascular riskがなかった時、つまりMINOCAの場合です
すぐに思いつくのは、幼小児期に川崎病に罹患していた可能性です
小児期に川崎病に罹患していたにも関わらず適切に治療が行われなかった場合は、
冠動脈瘤や冠動脈の狭小化が起こり得ます
小児期に原因不明の発熱がなかったかどうかは確認したいです
成人の川崎病も報告はありますが、
高安病や結節性多発動脈炎、ベーチェット病といった血管炎が鑑別になります
炎症反応が上がっていれば、これらの血管炎を考慮します
IgG4関連疾患も冠動脈の壁肥厚がみられますが、内腔側というよりも遠心性に肥厚してくるので、
閉塞や狭窄することは稀です
血管炎の場合、冠動脈の形態や血液の炎症反応で予測はつきます
炎症反応がなかった場合は、SCADを考えます
SCAD(特発性冠動脈解離)は若年女性に起こり、
突然死することもある恐ろしい病気です
基礎疾患のない若年女性が急に心筋梗塞を起こしたら、SCADを考えます
タコツボを合併することもあります
妊娠や産褥期はSCADのリスクです
妊婦さんの心筋梗塞もまずはSCADを疑います
忘れずに妊娠の有無を確認しましょう
SCADは本当に厄介で治療も定まったものがありません
再発もします
ただ原因不明になるかというと、そうではないと思います
なのでSCADでもないのでしょう・・・
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身体診察では、患者は不快様に見えた
体温は37.2°C、心拍数は88/分、血圧は121/88 mm Hg、BMI 21
眼瞼、四肢伸筋側表面に黄色腫は認めなかった
聴診では、正常な速度と規則的なリズムで、S1とS2は正常
心雑音、心膜摩擦音、ギャロップ等は認めなかった
呼吸音は両側肺で正常
末梢性浮腫はなし
心電図検査では、洞調律、右脚ブロック
II、III、aVFにQ波、V2からV5にST上昇等を認めた
WBC は11,700/μl(好中球87%、リンパ球6%、単球5%)
Hb9.0 g/dl、MCV 65 fl、RCW18%
PLTは355,000/μl
代謝パネルは正常であった
胸部X線写真は、胸水、浸潤、気胸、縦隔拡大はなかったが、心拡大が認められた
初回のトロポニンIは0.2ng/mlであった(通常値、<0.04)
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コメント
はい、STEMIでよさそうです
この後は循環器を呼んで、緊急カテですね
今回は右脚ブロックにST上昇でしたが、左脚ブロックの場合は虚血の評価が難しいです
LBBBで虚血を疑う場合、Sgarbossa's criteriaやSmith's Criteriaを利用します
後は以前の心電図と比較することが大事です
今回は以前の心電図はないようです
右脚ブロックの場合はいつも通りの心電図評価でOKです
右脚ブロックにST上昇と言われると、Burugadaがよぎりますが、
V1-3のST上昇であり、今回の心電図とは違いますね
今回はreciprocal changeがはっきりしないのが気になります
ST上昇だけだと心膜炎や心室瘤がよぎります
特にこの方は何度も心筋梗塞を起こしていそうなので、
心筋梗塞後の心膜炎、ドレスラー症候群を疑います
CXRで心拡大があるとのことですが、心嚢水でないかはすぐに超音波を当てて確認したいです
ただそれはないよ、と言わんばかりに身体所見で心膜摩擦音なしと書いてあります 笑
そして、家族性高コレステロール血症も疑っているんだろうけど、
それも身体所見上はないよ、と書いてあります 笑
こちらの考えが、見透かされていますね
血液検査ではなぜか小球性の貧血がありますね
鉄欠乏でしょうか?
抗血小板に伴う生理からの出血が長引いているのかもしれません
内服や他の既往歴が知りたいです
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救急科で、チカグレロル、アスピリン、アトルバスタチン、未分画ヘパリン、
モルヒネが開始され、ニトログリセリンも舌下投与された
その後、患者は心臓カテーテル検査室に運ばれた
冠動脈造影は、近位左前下行枝動脈瘤を認めた
第一対角枝(first diagonal branch)への顕著な血流供給が明らかとなった
以前にステント留置されたセグメントのすぐ近位で、
左前下行枝は曲がりくねった動脈瘤屈曲(bent)を呈し血栓で完全閉塞していた
左回旋枝はびまん性の動脈瘤であった
右冠動脈は瘤化し、中央部は部分的閉塞していた
経皮的冠動脈インターベンションが試みられたが、
ガイドワイヤーが左前下行枝閉塞を通過不能であったため、最終的に中止された
心エコー検査では、正常上限の左心室壁厚と空洞のサイズを示した
中部から遠位部の前壁、心尖部、中部から遠位部の下壁と中隔壁は、重度低運動から無動であった
推定左心室駆出率は25〜30%
来院4時間後に測定の2回目トロポニンIは、3.5ng/mlであった
患者の持続的な胸痛と機能、冠状動脈バイパス移植(CABG)へのつなぎ等を考慮して、
大動脈内バルーンポンプを留置し、胸痛は消失した
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コメント
緊急カテの結果はかなりひどいですね
特徴的なのは、一箇所だけでなく複数の病変があること
冠動脈瘤があることですね
複数箇所あることから、SCADの可能性は低いです
冠動脈塞栓でもなさそうです
壁に形態変化があるので、攣縮でもなさそうです
ただ攣縮が合併した可能性はあるので、変な薬を使っていないかは聞いておく必要があります
冠動脈の結果からこの方の問題は、血管壁にあると思います
炎症で壁が壊れているか、血管壁を構成する線維やコラーゲンの異常か、どちらかですね
血管炎の鑑別としては、高安動脈炎、PN、AAV、コーガン症候群、ベーチェット、SLE、強皮症、クリオ、感染性(梅毒)があげられますが、
冠動脈だけと言われると非常に違和感があります
他の血管に同じような狭窄や瘤がないかは心配ですので、
全身の血管の評価が必要です
炎症がなければ、現状ではFMDのような病態を疑います
ただ普通は腎臓の動脈です
冠動脈だけということはないでしょう
おそらく、これまでも上記を疑われて精査が行われたはずなので、情報を取り寄せたいです
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州内での入院記録が入手された
今回来院の2年前に、下壁の心筋梗塞が確認された
右冠動脈瘤を再灌流目的の血栓摘出術後、アスピリンとチカグレロルが開始された
回旋枝の動脈瘤の血管造影所見もあったが、意義不明であった
その後、現在の入院4か月前に、彼女はチカグレロル使用終了後、他院で胸痛を精査された
薬剤溶出ステントを左前下行枝の血栓性動脈瘤部分に留置し、DAPTを再開した
今回の来院時で、患者がCCUに到着した際、心拍数87/分、血圧126/97 mmHgであった
患者は意識清明で、胸痛はないと報告した
彼女は、喫煙、違法薬物使用はなく、機会飲酒であると述べた
父親が45歳で突然の心停止、父親祖父が37歳の心臓病でそれぞれ死亡したと報告した
二人ともヘビースモーカーであった
母親は不明癌で死亡。患者には子供はなかった
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コメント
これまでの経過と生活歴、家族歴が加わりました
ここでの重要な情報は、濃厚な家族歴です
まさかの遺伝性疾患のようです
冠動脈の壁がボロボロになる遺伝性疾患ってなんなんでしょうか???
どうやら、これは自分の知らない病気のようです・・・
無知の知という言葉がありますが、臨床推論でも非常に重要な言葉だと思っています
目の前の患者さんに何か病気がありそうでも、その病気がわからない時、
自分が知っている病気(複数の鑑別があり絞れない、たどり着く方法がわからない)なのか、
自分が知らない病気なのか
どちらかなのかをまずは知ることが大事です
診断がつかない時にまずはこのことを考えてみてください
自分の知らない病気だと思ったら、キーワードを3つくらい入れてググってください
一瞬で答えが出ることがあります
ググって答えが出なかったら、愚直に鑑別診断をあげていきます
今回であれば若年者のACSのレビューをいくつか読んでみて、
そこに書いてある疾患を検討していきます
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TC 186mg/dl、HDL 75mg/dl、LDL 97mg/dl、TG 59 mg/dl、HbA1c 6.0%であった
尿中毒物検査では、コカインとアンフェタミンは陰性
ESRは6mm/hrであり、CRP 0.1mg/dl未満、ANCA陰性
抗核抗体の免疫蛍光アッセイは、SPで1:320
梅毒トレポネーマ抗体、HBsAb、HBcAb、HBsAg、 HCV抗体、HIV抗体および抗原、dsDNA抗体、RFは陰性
尿検査では血尿やタンパク尿は認められなかった
再検のHb は8.6g/dl、フェリチン6ng/ml(基準範囲、13〜150)
トランスフェリン飽和度は4%(基準範囲、20〜55)、トロポニンI 16.4ng/mlがピーク
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コメント
はい、やはり違法薬物の検査がされていますね
さすがアメリカです
コカインは若年者の心筋梗塞の原因になります
本人が使っていないと言ってもチェックするしかないですね・・・・
血液検査で目立ったものは、ANA320倍ですね
ANA関連疾患の可能性があり、SLE、SS、SSc、皮膚筋炎、MCTDの所見を改めて取る必要があります
補体や追加で各疾患の抗体を提出したいです
病歴や診察ではレイノーやNFCC、皮膚所見、関節炎がないかが重要です
ここで一番疑わしい疾患は強皮症かSLEです
強皮症はあまり知られていませんが、心臓のトラブルを起こしやすいです
肺高血圧は有名ですが、心膜炎や心筋障害も起こります
自分が経験した症例は、
原因不明の心嚢水貯留の精査で心膜炎と診断され、ANA320倍が発覚しました
膠原病の精査目的で紹介となり、NFCCとレイノー、皮膚硬化があり、強皮症と診断しました
強皮症は皮膚だけでなく、血管がやられていきます
初めは細〜小動脈の内腔が狭窄し、中膜から内膜にかけて線維化を起こします
続いて毛細血管が消失してきます
そこに新生血管が生まれてきます
その血管は拡張したり、蛇行しており、破れやすいです
このような血管病変が消化器内でも起こり、時折出血します
出血を繰り返すと、原因不明の鉄欠乏性になります
今回は鉄欠乏性貧血があり、ANA320倍と合わせて考えると、強皮症を一番疑います
強皮症+二次性の血管炎でしょうか・・・・
ただ炎症が全くないのが気になりますね
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リウマチ科にコンサルトした
患者には川崎病を示唆する持続的発熱、粘膜炎、結膜炎、小児期の手掌紅斑等に起因した入院歴はなかった
レイノー現象や深部静脈血栓症などのリウマチ状態関連のROSは否定的であった
身体診察では、粘膜炎、結膜・強膜の紅斑等は認めず
頸動脈と橈骨動脈拍動は対称性・完全触知可能であった
光過敏性発疹、触知可能な紫斑、皮膚潰瘍、線状出血、塞栓症の兆候等は認められなかった
筋骨格検査では滑膜炎は認めなかった
顕著ではないが、体幹、腕、脚、首に複数の丘疹が散在し、腹部中央部右側に色素沈着過剰の斑点が認められた
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コメント
今までの経過や検査結果からANA関連疾患や血管炎だと思うでしょう?
でも身体所見とっても何もないんですよ〜
あったのはこの皮膚だけ
さあ、何かわかりますか??
と著者に言われているようです
この皮膚を一番最後に持ってくるのが憎いですね
初めからこの皮膚所見はわかっていたはずですが、引っ張りましたねえ 笑
この皮膚をみると一発診断です
この症例は神経線維腫症(NF)でしょう
もちろん、NFで心筋梗塞が起こるかは知りません
なのでググります
そうするとたくさん症例報告が出てきました
これで確定です
そんなこともあるんですね〜
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診断:神経線維腫症1型 心筋梗塞(冠動脈瘤)
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