今回のNEJMはとても身近に感じますね
研修医の先生にぜひ読んでいただきたい回です
オススメ度:★★★☆☆
→特にオススメ度の基準はありません 笑
自分の想定を超えてきた時や伏線の回収、診断過程の美しさでオススメ度を決めています
今回は想定外のことは起こりませんでしたが、基本に忠実な著者に感銘を受けました
基本は大事ですね
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心不全と2型糖尿病の76歳の女性が、嘔気、下痢、急性腎不全で入院となった
生活は自立していたが、最近上腕骨骨折を来し、
ここ数週間、専門看護施設に入所していた
同施設入所中に、嘔気、腹部けいれん(cramp)、非血性下痢が生じ、
その翌日、症状持続のため、当院救急科に搬送となった
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コメント
これ(骨折)はどういう伏線でしょうか・・・よくわかりません 笑
主訴は消化器症状なので、まずは感染性腸炎を疑いたくなります
その上で入院歴があるのであれば、抗生剤が投与されたかもしれないので、CD腸炎を疑います
施設入所中の腸炎は市中の感染性腸炎と同様に考えつつも、
集団発生してないか?という視点も重要です
施設で提供される食事は、他の入所者さんも食べているはずなので、
他の入所者も同様の症状がなかったかを聞きたいです
今回は吐き気、腹痛、下痢の消化器症状ですが、
この症状だけをみて消化器疾患に飛びつくのは早いです
消化器症状は非特異的です
全身疾患の一症状や感染が重篤な場合にも現れます
特に糖尿病患者さんの消化器症状は注意が必要です
DMに伴う緊急症からまず考えます
・低血糖(原因:敗血症、薬、食事不足など)
・高血糖のDKA(原因:7 I )
・正常血糖のDKA(原因:SGLT2)
・乳酸アシドーシス(アルコール、VB1不足、メトホルミン、敗血症)
糖尿病とアシドーシスは相性がいいですね
DKAの症状は非特異的です
SGLT2阻害薬やメトホルミンを内服している糖尿病患者さんが、
なんとなくだるい、食欲がない主訴できた場合、
血糖のチェックだけでなく、血ガスをとってアシデミアがないか確認しましょう
・DM特有の感染症 → 敗血症 → 消化器症状
この症例の場合、糖尿病と心不全があります
糖尿病と心不全の組み合わせを見たら、SGLT2が入っているのではないか?と想起します
1stインプレッションは、SLGT2による血糖正常のケトアシドーシスです
対抗馬は、メトホルミンによる乳酸アシドーシスもしくは、VB1不足に伴う乳酸アシドーシスです
内服薬が早く知りたいです
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入院約3ヶ月前に、患者は心不全と肺炎の悪化による呼吸不全で当院に3週間入院となった
セフトリアキソン静脈投与と経口ドキシサイクリンで5日間治療され、利尿剤量も調整された
9週間前に状態は回復し、利尿剤(トルセミドとスピロノラクトン)継続を指示されて退院した
患者の体重は127kgであった。退院時の臨床検査結果を表1に示す
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コメント
心不全治療がうまくいって、退院できましたが、
運悪くバランスを崩して転倒し骨折したようです
体重が4kg減っていますね
利尿剤が効きすぎて、起立性低血圧や不整脈がなかったかは気になります
シェロング試験はしたいですね
ですが、意識消失や胸痛はなく、バランスを崩しただけだよ〜と書いてあります
トロポニンもとられていますが、これは失神のリスク層別化のためでしょう
トロポニンはいくつかの失神のリスク層別化のスコアに入っています
・FAINTスコア:60歳以上の高齢者の失神のリスク層別化
→心不全の既往、不整脈の既往、心電図異常、BNP上昇、トロポニン上昇
原因不明の失神または失神前状態で30日重篤心転帰を予測する
スコア1以上に対するスコア0の感度は96.7%、特異度は22.2%
Ann Emerg Med. 2019 Oct 23. pii: S0196-0644(19)31113-8.
Canadian Syncope Risk Score (CSRS)スコア
・vasovagal syncopeを疑わせる病歴 -1点
(暑く混雑した場所、長時間の立位、恐怖や強い感情、痛み)
・心疾患の既往 1点
・収縮期血圧90mmHg以下もしくは180mmHg以上 2点
・トロポニン上昇 2点
・QRS軸が-30度以下もしくは100度以上 1点
・QRS幅が130msec以上 1点
・QTcが480msec以上 2点
・ERでの診断がvasovagal syncopeである -2点
・ERでの診断が心原性失神である 2点
この失神患者でCanadian Syncope Risk Score (CSRS)と2時間の心電図モニターを組み合わせると、重大な不整脈の見逃しがほとんどなかった、という研究もあります
CirculationVolume 139, Issue 11, 12 March 2019, Pages 1396-1406
症例に戻りますが、この情報だけですと、
この後の消化器症状やAKIにどうつながるかわかりませんね
感染でもなさそうですので、やはり薬が怪しいです
NSAIDsが入って、腎障害とmicroscopic coritis
利尿剤でひきすぎて腎障害からの〇〇
といったところでしょうか
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2週間前、専門看護施設滞在中、両足浮腫が生じ、体重が5kg増加した
自分では体重増加は塩分摂取過剰に起因すると考えていた
9日前に、利尿剤として経口メトラゾンが追加され、下肢浮腫は消失した
今回入院時に患者は悪心、腹部痙攣を訴えた
発熱、悪寒、咳、呼吸困難、排尿障害、腹痛、嘔吐等は訴えなかった
シックコンタクトはなし
既存症に、高血圧、心房細動、冠状動脈疾患、駆出率低下を伴う心不全、2型糖尿病、
閉塞性睡眠時無呼吸症(睡眠時CPAP治療)があった
内服薬は、アロプリノール(痛風)、アミオダロン(不整脈)、アスピリン(抗血小板)、アトルバスタチン(脂質異常)、シクロベンザプリン(筋弛緩)、エノキサパリン(抗凝固)、フルチカゾン(ステロイド)、グリピジド(糖尿病)、ロラタジン(抗ヒスタミン)、ロラゼパム(抗不安BZP)、メトホルミン(糖尿病)、メトラゾン(サイアザイド利尿剤)、メトプロロール(βblocker)、セルトラリン(SSRI)、スピロノラクトン(K保持性利尿剤)、トルセミド(ループ利尿剤)、ワルファリン(抗凝固)、ゾルピデム(眠剤)であった
メトラゾン、スピロノラクトン、トルセミドの最終投与は、入院の24時間以上前であった
薬物アレルギーはなし
生活歴:上腕骨骨折受傷以前は、ニューイングランド都市部で独居していた
入浴と雑用のため在宅医療サービスを必要とし、歩行器を使用していた
喫煙、飲酒はせず、最近の旅行歴はなく、家族歴には特記すべきことはなかった
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はい、薬です 笑
お腹もいっぱいになりそうですが、ツッコミどころも満載です
高齢者診療の原則
高齢者が具合が悪いという主訴で来たら、まずは薬が原因と思うべし ですね
簡単につっこんでいくと・・・
血液サラサラすぎます:ワーファリンとは古風ですね、腎障害があるからDOACは避けているのでしょうか
BZ入っています:飲めなくなったら、離脱するかもしれません
SSRI:セロトニン症候群も下痢しますが、もう少し他の所見が欲しいですね
アミオダロン:甲状腺や肝臓、肺が心配になります
βが入っています:バイタルには注意が必要です、低血糖症状もマスクされているかもしれません
こんなにポリファーマシーにも関わらず、SGLT2が入っていないのは意外でした
ですが、メトホルミンは入っていましたね
容量が書いてないのでアセスメントしにくいですが、
普通に考えると、利尿剤が効きすぎてAKIとなり、メトホルミンが過剰になったため、
乳酸アシドーシスに陥っているというストーリーでしょうか
鑑別としては、
利尿剤による水溶性ビタミンの喪失に伴うVB1欠乏からの脚気心(beriberi heart)や乳酸アシドーシスですね
お酒を飲んでいなくても、妊娠の悪阻でなくても、
VB1は欠乏することは覚えておきましょう
この症例では消化器症状があるため、一般的な消化器疾患の検索は行いますが、
幅広く鑑別を置くことが重要です
例えば右壁の心筋梗塞の可能性もあり、最初に心電図をチェックします
腹部所見を確認しつつ、USを行います
既往歴が多く、DMもあるので、所見がわかりにくい可能性もあり、
血液培養や腹部CTも確認するかと思います
もちろん、腹部診察の結果で疑わしい病気があればUSやCTで確認します
そして早々に血糖とガスとケトンをチェックします
もし、アシデミアがあれば、VB1やケトンを提出しつつ、その場でVB1の投与を行います
身体診察ではアシデミアを示唆するような頻呼吸や大呼吸がないか確認します
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身体診察
バイタルは体温36.7°C、血圧137/63 mm Hg、脈拍83/分、呼吸18/分、酸素飽和度は99%であった
体重は126kgで、口腔粘膜は乾燥していた
両側肺野呼吸音と心音は正常であり、下肢浮腫はなかった
右腕はシーネで固定されていた
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コメント
123kgだった体重が128kgになり、利尿剤が追加された結果、
現在は126kgになっていますね
口腔粘膜の乾燥があり、浮腫もないので、ひきすぎなのでしょう
それにしても、あれだけ消化器症状のことをいっていたのに、
腹部診察の所見が書いてありませんね 笑
まあ、何もなかったのでしょう・・・
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血液検査
Cr 7.66mg /dl
乳酸は7.4 mmol /l(67 mg / L)(基準範囲、0.5〜2.0mmol/dl[4.5〜18mg/dl])
試験紙による尿検査では、pH 5.0(基準範囲5.0〜9.0)、比重1.012(基準範囲1.001〜1.035)
タンパク、潜血、亜硝酸塩、白血球エステラーゼ、グルコース、ケトン体は陰性であった
他の臨床査結果を表1に示す
胸部X線検査では軽度の肺間質性浮腫を認めた
腎臓と尿路の超音波検査では、左腎嚢胞を認めたが、水腎症や腎結石は認めなかった
点滴が施行され、診断の運びとなった
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コメント
はい、データが華々しいですね 笑
目立つのは、Crが急上昇しており、AKIに陥っています
①AKIの原因について
原因は利尿剤の効きすぎの可能性が一番高いと思われます
サイアザイド系は腎障害多いですね
もちろん、中止します
ただ、それだけではないかもしれないので、AKIの他の原因を探るべきです
腎後性:超音波検査で否定されていますね
腎前性or 腎性:FENaやFEUN(利尿剤使用時)を計算します →FENA 3.75 :つまり腎性を示唆
糸球体腎炎を示唆する円柱や変形赤血球の記載なし
実臨床では、腎性の原因が腎前性からの急性尿細管壊死のことが多く、
FENaを計算しても臨床におけるインパクトは薄いと感じています
(が、一応計算しましょう)
薬(+hypovolemic)以外の原因を考えると、
・敗血症:あってもよいでしょう、血液培養はとります、抗生剤もどこかに怪しいところがあれば投与します
・心不全:うっ血腎でもLOSの症状でも起こります
・腎梗塞:Afがあるため可能性はあり(なぜかINRが記載なし)、普通は痛いはずであり、LDHの値からも否定的
・TSSやTSLS:下痢もそのため?しかし、バイタルが安定しすぎ、紅斑ないかチェック
・TMA(TTP、HUSなど):血球減少がみられず、他の所見もなく可能性低い
・M蛋白血症によるもの:いきなり?
・小血管炎(AAV、クリオ、IgAなど):いきなり?
・SLE:他の所見がなさすぎる
・リンパ腫:いきなり?
と、色々鑑別は上がりますが、どれも微妙です
あっても敗血症や心不全くらいでしょう
まずは薬剤の中止と輸液で様子みて、バイタルが少しでもおかしければ抗生剤開始します
②緊急透析を行うかどうか
これだけのAKIだと、緊急透析するかを考えなければなりません
AIUEOという語呂があります
A:acidosis(高度の代謝性アシドーシス)
I:intoxication(中毒)
U: uremia(尿毒症)
E:electrolyte(電解質異常、特に高 K 血症)
O:overload(溢水)
今回は著明なアシデミアがあります
腹痛はアシデミアによるものでしょう
DKAで腹痛がくるのは有名ですが、全例に生じるわけではありません
アシデミアが高度な症例に腹痛は起こりやすいという報告があります
DKAでなくてもアシデミアがあれば、消化器症状はあってもよいです
ただし、ここがいつもDKAの時に迷うところです
腹痛できたDKAの人が、CT撮ってみると内ヘルニアで腸管が壊死していました
DKA→腹痛ではなく、内ヘルニア→腹痛→腸管壊死→乳酸上昇→DKA+乳酸アシドーシスという症例でした
今回の症例では、NOMIは心配です
NOMIは脱水の時によく合併するため、NOMIが進展し腸管が壊死していないかは注意が必要です
ですが、現状で造影CTはできません
腎機能が廃絶しており、メトグルコ内服しているためです
そのため、NOMIの合併については、腹部の診察頼りです
今回は、意識障害、尿毒症症状、うっ血、著明な高カリウム血症はありませんので、
透析の適応になるとすれば、中毒(メトホルミン)か高度の代謝性アシドーシスということになります
PH7.1という大変なアシデミアになっています
このままいくと、心臓が止まるかもしれません
著明なアシデミアの状態では、カテコラミンが効きにくくなると言われていますので、
このアシデミアを早く解除しなければなりません
だからといってメイロンは入れないかと思いますが、ここはDrによっても判断が分かれるかもしれません
自分ならまずはVB1と輸液をして、30分か1時間後に再検します
そこでアシデミアが改善していなければ、透析の準備をします
③血液ガスの解釈
こういった明かな異常な血液ガス所見をみるとテンションが上がってしまって、
ついつい計算を始めてしまう先生がおられますが、ここまでの流れや文脈の方が重要です
「この病歴」の流れの中での「このアシデミア」です
これは予想がついていたことです
すでに鑑別にあげていたDKAか乳酸アシドーシスでしょう
血圧も安定しており、腸管が壊死しているような感じでもありません
敗血症性ショックのようなバイタルでもありません
今回の乳酸アシドーシスの場合は、メトホルミンかVB1欠乏が原因であると思われます
実際の臨床現場で重要なのは、
この血液ガス所見をみてすぐに計算を始めることではありません
治療です
これまでの情報で、血ガスがなくても治療できます
今回であれば、
血糖が50台と低下しているので、血糖と同時にVB1を忘れずに入れることです
ちなみに血糖かVB1がどちらも低ければ、VB1を優先すると教科書的には言われていましたが、
ほぼ同時であればどちらが先でもよいとされています
どちらが先でもいいから、さっさと両方入れなさいということですね
今回はVB1欠乏の可能性もあるので、VB1を提出してから投与します
ただし、VB1が正常値であっても除外できないのが、難しいところです
ただし、唯一びっくりするのは、呼吸性アシドーシスがあることです
なぜ????
この所見だけ浮いています
肥満低換気がもともとあるのかもしれません
あとは、COPDがあったり、神経筋疾患の合併も頭の片隅に起いておきます
血糖入れて、VB1を入れ終わって、血液培養をとって、CTをチェックして、
バイタルが安定していれば、ようやく血液ガスをしっかりよみます
血液ガスを読むときに大事なのは、予想することです
今回は乳酸アシドーシスがあるので、AG開大性の代謝性アシドーシスがあることは想像できます
そして利尿剤が入っており、それに伴う脱水はありそうなので、代謝性アルカローしすの合併もあると予想できます
①アルカレミアか、アシデミアかどうか?→アシデミア
②代謝性か呼吸性か?→CO2 57と上昇しており、呼吸性
さらにHCO3 20で低下しており、代謝性もある
③代謝性アシドーシスはAG開大性か?→AG 29と上昇あり
AG開大性
④補正HCO3 37
ΔAG/ΔHCO3 4.25>2であり、高AG性に加えHCO3が増加する病態がある
→代謝性アルカローシスは利尿剤によるものでしょう
ただ、この代謝性アルカローシスが慢性の呼吸性アシドーシスの代償なのか、
利尿剤によるものかは不明です
計算するとAG開大性の代謝性アシドーシスに代謝性アルカローシス、急性or慢性の呼吸性アシドーシスが合併しているということになります
この計算や解釈をバタバタした救急外来で落ち着いた頭でできると思いますか?
自分はできません 笑
計算してもいいですが、する前に必ず予想してください
(※しなくていいというわけではありません
できるようにはなっておく必要があります)
血液ガスで大事なのは、これまでの文脈、つまり病歴です
病歴聴取が疎かにも関わらず、
血液ガスの計算だけ一生懸命になっている研修医に向かって放たれた名言があります
「(病歴もろくにとらずに)
血液ガスを計算している医者の意見は信じられないが、
血液ガスの値は信じる」といった先生もいます
はい、ということで自分の中での最終診断は、
VB1欠乏に伴う乳酸アシドーシス or メトホルミンに伴う乳酸アシドーシスです
どちらか見極めるために、VB1をすぐに打って反応があれば、前者
反応がなければ後者と考えます
さて、診断は???
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